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第7話

 バージル様はわたしの顔を見て困った顔をしている。興味はあるが躊躇しているようだ。

 

「嫌ですか?」

「……いや、やってみよう。アシュリーと同じようにやればいいのだろう?」

「ええ、やってみましょう。まずはお肉を」


 おそるおそる肉を手に取って鉄串に刺し、交互に野菜も刺していく。真剣な顔で作業をしている姿をわたしは横で見守っていた。うっかりケガをしてしまわないように見ていたのだが、ロゼやロブソンは私以上に食い入るようにバージル様を見ていた。

 第二王子がケガをしてしまったら大変だものね。わたし、もしかして余計なことを言ってしまったのかしら。


「まぁ! バージル様、お上手ですわ」

「そ、そうかな?」

「はい。焼いたらきっと美味しくなりますわ」

「もう少しやってもいいか? 私も手伝いがしたい」

「ありがとうございます。バージル様」


 バージル様がやる気を出している。ロゼやロブソンの気苦労は増えるかもしれないが、バージル様に食事に興味を持ってもらったほうがいい。子供はたくさん美味しいものを食べて、大きくならなければならない。


「あ、ロブソン。もう一つお願いしていたほうは?」

「はい、あちらの調理台の上にあるので……」


 ロブソンはわたしにかまっている余裕がないらしい。

 バージル様のことはロゼとロブソンに任せておいてわたしはタレ作りをする。あまりお肉が好きではないバージル様が食べやすいように甘いタレを作ろうと思っていたのだ。焼肉のタレがあればよかったのだが、ないので焼肉のタレもどきを作るしかない。醤油に似た調味料があるのでそれを使って作ろう。砂糖と玉ねぎとりんごと生姜とにんにくとゴマを一緒に準備しておいてもらった。

 りんごと玉ねぎをすりおろし、鍋に入れて醤油と砂糖で煮る。その後に生姜とにんにくをほんの少々。煮立ったらゴマを入れて出来上がりの簡単レシピだ。スプーンで少し掬ってぺろりと舐めてみると子供が好きそうな甘口のタレになっていた。バージル様が気に入ってくれるといいのだが。

 満足げな顔で頷いているとすぐ近くにロブソンがいた。バージル様にはロゼがつきっきりで見守っており、ロブソンの興味はバージル様からタレ作りの方に向いていたようだ。


「それはスープですか?」

「スープじゃなくて甘口のタレなんだけど。ロブソンも味見してくれる?」

「いいんですか? では一口頂戴します」


 わたしと同じようにスプーンで一口味見したロブソンはうーんと唸る。りんごと玉ねぎの甘みが出ていて美味しいと思うのだが、ロブソンは気に入らなかったのだろうか。


「これは何に使うタレなんですか?」

「お肉です」

「あー、肉ですか。ちょっと肉と合わせてみても?」

「それなら薄いお肉を準備してくれる? あとサニーレタスがほしいわ。みんなで肉巻きにして食べましょう。朝食のあとだから少しでいいから」

「じゃあ準備しますのでお待ちください。牛肉でいいんですか?」


 牛肉でも豚肉でもいいので頷くとロブソンは素早く肉を炒め、わたしはその肉にタレをかけサニーレタスで包んで先にぱくりと食べて見せた。やはり甘口のタレはお肉とよく合う。


「……美味いな」


 ロブソンの舌にも合ったようでよかった。


「子供用に作ったタレだから甘めに作ったけど、好みに合わせて生姜やにんにくの量を変えてみたり辛味を入れるとまた違ったタレになるから色々研究してもらえるかしら?」

「そうですね。研究の遣り甲斐がありそうだ」

「バージル様とロゼもちょっとこちらに来てください」


 バージル様とロゼは鉄串にお肉と野菜を全て刺し終えたらしい。

 達成感に溢れた顔でこちらにやってきたバージル様にありがとうございますとお礼を言う。嬉しそうな顔をしているところを見ると料理の手伝いは楽しかったようだ。


「バージル様のためにお肉につけるタレを作ってみたのですが試しに食べて頂けますか? ロブソン、バージル様にはお肉を少な目で野菜に巻いてくださるかしら」

「承知いたしました」

「いや、自分でやる」


 サニーレタスを手に取りお肉を少し乗せてその上にタレをかけ、くるくると上手に巻いてそれをパクっと食べる。嫌がるかと思ったが躊躇なく口にしたので、どんな反応をするのか見ていると美味しいと顔を綻ばせた。

 安心してふーっと息を吐くのと同時にバージル様がもう一口食べた。


「この甘いの美味しい」

「ふふふ、バージル様のために作ったので、喜んでもらえてよかった。お肉好きじゃないみたいでしたけど、大丈夫でした?」

「これなら食べられる」


 ロゼも試食してみて美味しいと目を輝かせている。甘口のタレが気に入ったようで、ロゼは自分だけもうひとつタレをたっぷりつけた肉を食べていた。三人には好評だったみたい。夕食にもこのタレを出すように指示を出し、わたしとバージル様はひとまず休憩するためにコンサバトリーでお茶を飲むことにした。

 お母様のお気に入りのヴィクトリアンモデルのコンサバトリーは伯爵家の自慢の一つだ。ロゼは飲み物の準備をしてくると出ていったため、今はわたしとバージル様だけだ。二つ並べて置いてある大人でも余裕のある大きな白い椅子にゆったりと座る。一人掛けのソファのように座り心地良く、選んだお母様のこだわりが強く感じられる。


「疲れていませんか? バージル様」

「大丈夫だ」

「夜を楽しみにしていてくださいね。きっと大成功しますわ」

「……そうだね。まさか私が料理をするなんて。みんなが知ったらきっとびっくりするな」

「お父様が知ったらきっと腰を抜かしますわ」


 ふふふと二人で悪戯っ子の笑みを浮かべ合う。


「……肉を食べたのは久しぶりだ。アシュリーが美味しそうに食べていたから思わず食べてしまった」

「前は食べてたのですか?」

「あぁ。好きだったんだけど、ある日から食べられなくなった」

「何か理由が?」


 バージル様は立ち上がり私と同じ椅子に座った。

 二人で座ってもまだ余裕がある。バージル様は私の手を取り、こてんと寄りかかってきた。


「一度見たんだ。腐乱したヤツを」

「……腐乱、ですか?」

「そうだ。城の回廊を歩いている時、突然背後から顔の前に腐った両手が伸びてきて、振り返ったらすぐ目の前に立ってたんだ。肉が腐り爛れ、形が崩れてた……私は我慢出来ずにその場で昼に食べたものを全て吐き出してしまった。それ以来、肉を食べられなくなったんだ。口に入れても身体が全然受け付けない……だからさっきは食べられたことに自分でも驚いた。まさか、自分からまた肉が食べたいって思うなんて」


 そりゃ、肉も食べられなくなりそう。

 くっついてきても不気味な存在が見えないということは、何か怖いものを見て怯えているわけじゃない。きっと人恋しくなっているのね。

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