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第64話

「レオノア様? どうかしたんですか?」


 何か悩み事ですか?と声をかけるとレオノアは少し困った顔をする。どうやら返事に迷っているようだ。


「アシュリー様はどう思いますか?」

「どうとは?」

「……あの子達がいう禁断の恋です」


 レオノアの質問にきょとんとする。

 もしやレオノアは禁断の恋でもしているのだろうか?そうだとしたらこの質問は適当に答えることは出来ない。レオノアは公爵家の娘だが、珍しいことにまだ婚約者がいないはずだ。そのレオノアが禁断の恋に興味を持っている。


「レオノア様、少し二人で話しませんか?」


 あまり人前で話すことではない気配がプンプンする。

 特に噂話が大好きな少女達の前で、レオノアの話をするのは危険すぎる。浮いた話のなかったレオノア様の恋話はあっという間に広がってしまいそうだ。わたしは急いで食事を終え、カフェテリアに一緒に居てくれた少女達にお礼を言ってからレオノアと二人で中庭に向かうことにした。


 中庭には休日ということもあり誰も居らず、周りを気にせず話すことが出来そうだ。



「それではさっきの禁断の恋の話の続きなのですが」

「……はい」

「それはレオノア様が?」


 二人でベンチに座り、レオノアに質問すると項垂れるように小さく頷いた。苦しそうな表情は恋い焦がれている少女の横顔だ。

 さっき話題に上がっていたのは幼馴染み達の三角関係。


 まさか……


「あ、さっきの子達みたいに三角関係で悩んでいるわけじゃないですよ」


 先回りするようにレオノアに言われてほうっと安堵の息を吐く。

 わたしとレオノアとバージル様。ついでにエリオットも学園に入る前からの知り合いで、さっきの子達と関係が似ているところがあると気がついてしまった時にはぞぞっとなってしまった。

 相手がレオノアとなるとライバルを名乗るのも烏滸がましい。天使のように愛らしく美しい顔に、性格も穏やかで優しい。手足が長く女性が憧れるようなスタイルの良さ。何より大好きなレオノアとぎくしゃくするのは辛すぎる。


「ふふふ、アシュリー様はすぐ顔に出てしまうから何を考えているか分かってしまいましたわ」

「……それは申し訳ございません」

「バージル様とアシュリー様の間に入ろうなんて畏れ多いですもの」

「わたくしの話はもう良いではないですか。それではレオノア様のお相手は誰なのですか?」


「そうですわね……」


 言いにくそうにしているレオノアが一つだけヒントをくれた。相手はわたしもよく知っている人だという。

 バージル様ではなく、わたしがよく知る人物。そして禁断の恋……まさかねと思いながら、頭に浮かんだのはエリオットだった。


「誰でしょうか? エリオットしか思い浮かびませんでした」


 もう暫く考えてみたもののレオノアと交流が深い相手が思い浮かばず、降参するとレオノアは唇を少しだけ尖らせてこちらを見ていた。


「……正解です」

「まさか、エリオットですか?」

「はい」


 どうやら本当にエリオットらしい。

 それは本当に禁断の恋だ。さっきの三角関係の話とは意味が違ってくる。いくら好きになってしまっても絶対に報われない恋だ。何と声をかければいいか分からずに固まっているとレオノアは更に話を続ける。


「私とエリオットは本当の姉と弟ではないらしいんです」

「え」

「エリオットは私の従弟なんです」


 レオノアの説明によるとレオノアとエリオットの母親同士がとても仲の良い姉妹だったそうだ。レオノアが産まれてすぐにレオノアの両親は揃って土砂崩れに巻き込まれて亡くなってしまい、遺されたレオノアは母親の姉が嫁いだヴァルトラン公爵家に養女として迎えられたということらしい。


「私の母は貴族でしたが、父は平民で……二人は駆け落ちして家を飛び出して結婚したらしいのです。親に勘当されても姉であるお母様とは定期的に連絡を取っていたらしくて」

「その話は誰から?」

「お父様です。この間の休暇で家に帰った時に聞きました」


 今まで父親と母親と思っていた二人が両親じゃないと知った時のレオノアの気持ちを考えたら切なくなり、わたしはそっとレオノアの手を握る。

 想像することしか出来ないレオノアの苦しみに少しでも寄り添えるように。視線が合うとレオノアは呼吸を整え、落ち着こうとしているように見えた。公爵家の令嬢として感情をあらわにしないようレオノアは育てられている。

 いつもはどちらかというと聞き役のレオノアが少しずつ自分の気持ちを伝えようとしているのを感じた。エリオットもだが、レオノアも自分のことをなかなか言えない子だった。二人は本当の姉と弟じゃなくとも、育った環境が似せさせるのかしら。


「エリオットはそのことを知っているのですか?」

「ええ、エリオットも一緒に聞きましたので」

「そうだったのですか」


 エリオットはそんなこと一言も言っていなかった。


「……最初はショックもありました。でもお父様もお母様も私を大事に思ってくれていると伝えてくださって……まだ複雑な思いはあるのですが、自分なりに受け止めることが出来たと思います」

「ええ」

「それで今回のことで気が付いてしまったの。苦しんでいる時に私に手をさしのべてくれる人はいつもエリオットだって」


 レオノアの瞳に涙が浮かんでいる。


「きっと私、こうなる前からずっとエリオットが特別だった」

「はい」

「……好きなんです」

「はい」

「でも、エリオットは私を姉としか見ていない」

「レオノア様」

「お父様とお母様の娘じゃないと聞かされた時はすごくショックでしたけど、期待もしてしまったんです。エリオットは私をすごく大事にしてくれるのでエリオットも私と同じ気持ちなんじゃないかって恥ずかしいことに大きな勘違いをしてしまいました……」


 確かにエリオットの溺愛ぶりは勘違いを招く。レオノアが勘違いしてしまうのも無理はない。

 というか、本当の姉じゃないなら問題はないんじゃないかしら。従弟なら結婚出来るし、こんな美人な子に迫られたらぐらぐらするんじゃないの?

 推しがどうとかいう位なんだから好感を持っているってことなんでしょう。わたしも弟みたいに思っていたバージル様を好きになってしまった人間なので、何かのきっかけで気持ちがひっくりかえることがあることを身をもって知っている。

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