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第56話

「別に好きになってねぇけど」

「僕もですよ。綺麗な人ってだけで好きになるならレオノア様を好きになってますよね? そもそも顔だけで誰かを好きになったりしませんから」

「……世の中には一目惚れというのもあるのですよ? でも、変なことを聞いてしまい申し訳ございません。気になさらないで下さい」


 二人の答えはエリオットと同じようなものだった。

 少なくとも今の段階ではリリーに興味はあるが、好意があるわけではないらしい。わたしの質問の意図が分からないと文句を言われたのでもう一度謝罪をしておいた。

 アーノルドもクラークも納得していないようだったが、微笑んでそのまま無言を貫いた。そうすれば二人とも無理に聞き出して来ようとはしないからね。その後あーだこーだと世間話をしたのだが、その間にも三人は何度も口喧嘩し、その度に仲裁をさせられたわたしはすごく疲れた。よくあんなに何回も言い争えるものだ。


「なんでそんなに喧嘩ばっかりするんですか?」


「仲悪いからでしょ?」

「嫌いだから?」

「ムカつくから?」


「もう……本当は仲が良いくせに」


 本当に面倒な三人だ。


「わたくし、レオノア様のところに行くのでもう帰りますわ」

「あららー。そうなの? 送ろうか?」

「ありがとうございます、アーノルド様。でも大丈夫ですわ……もう尾行はやめてくださいね」

「あははは」


 アーノルド、笑って誤魔化しやがったな。

 まだ尾行する気なのかしら? この感じはきっとまだする気よね。まずはバージル様に言って尾行を止めさせないと。クラークの方をちらりと見る。


「まさかと思いますけどクラーク様は違いますよね?」

「えへへへ」

「……勘弁して下さいよ」

「さぁーてと、僕ももう行かないと。アシュリー先輩がいなくなったら一気にむさ苦しくなりますから」

「俺だってもう行くし。じゃーな」


 アーノルドとクラークは逃げるように空き教室から出ていく。実際これ以上の追及から逃げたわけだけど、まぁ良いわ。二人を教室の扉のところまで追いかけ、反対方向に歩いて行く二人の後ろ姿に向かって「バージル様に今回のことは言わないでくださいよ!」と大きな声でお願いしておいた。

 エリオットと二人きりに戻ったが、今さら相談の続きも出来ない。


「とりあえず、何か進展があったら教えろよ」

「……進展なんてするかしら?」

「まだそんなこと言ってるのか? 面白い話があったらすぐ俺に報告するように」

「偉そう!」


 エリオットの肩をコツンと叩いた。


「まぁ、こうだって決めつけずに自分に正直になれよ」

「……うん、そうする。話を聞いてくれてありがとうエリオット」


 じゃーねと言ってわたしは先に教室から出た。

 エリオットに背中を押してもらえたおかげか、少し気持ちが楽になったわ。足取りも軽くなったみたい。

 わたし本当にエリオットを頼りにしすぎよね。学園に入る前はいろいろな問題があり連絡を取り合うのが難しかったが、学園に通うようになってからはたくさん話す機会が増えた。思っている以上にエリオットを心の支えにしてるのよね。




 ふんふんと鼻唄を歌いながら階段を下り始める。

 空き教室から寮までの最短距離を考えている時、背後から「アシュリー」と声をかけられ振り返ると怖い顔をしたリリーが立っていた。


「……リリー?」

「ねぇ、私言ったよね? ちゃーんとレオノア殺しとけって」

「やるなんて言ってないし」

「ほーんと、困るよね。悪役令嬢って意味をちゃんと理解してる? 何ちゃっかりバージル様と仲良くしてんのよ? 他のキャラ達にまで手を出してんの? え? 何? ヒロイン気取りみたいな?」

「ちょっと、ちょっと! こわいよ、あんた」


 階段をゆっくり下りてわたしの二つ上の段で立ち止まった。白く細い指がわたしの頬を触る。一度殴られたことがあるので、伸びてきた手にビクッとしてしまった。


「殴ると思った? 私もそこまでバカじゃないわよ。ここで殴ってアシュリーの頬が腫れでもしたら問題になるものね」

「あんたあんまり賢くないと思うわよ」

「やだ、こわーい。何言ってるのかしら」

「……っ」


 ぐいっと乱暴に髪を掴まれ、引っ張られたわたしは悲鳴をあげる。


「ねぇ、私ね。前世ではずーっとバージル様推しだったのよね。さっき、会った時に本当だったらイベントが発生するはずだったわけ。寝不足でフラフラのバージル様にね、わたしが膝枕してあげるっていうイベントなんだけどさ」

「ちょっと、痛いっ!」

「それなのにさぁ、わたしを置いて悪役令嬢のアシュリーとどっか行っちゃうってどういうこと?」

「いたたたっ! 髪の毛が抜けるわ」

「もう一回言うわね? ちゃーんと悪役令嬢の仕事をしろよっ!」


 鬼のような形相のリリーがわたしを見下ろしている。

 こいつやっぱり怖いわ。痛みを一瞬忘れてしまった。目線だけで人を殺せるならわたしきっと殺されてるレベル。腕を掴んで髪から放させようとするが全く手が緩まない。


「何しているんだっ!」


 男の子の叫び声が聞こえ一安心する。これで解放されるわ……

 そう思っているとリリーの身体が階段の下に向かって傾いていく。「えっ?」と思った時はスローモーションでリリーの身体が宙に浮いて落ちていくところだった。


 落ちていくリリーは不気味に笑っている。

 一瞬怯んで遅れてしまったが、助けようと手を伸ばしたものの間に合わず、リリーの身体はそのまま階段の踊り場へと落ちた。


「大丈夫ですか、アシュリー先輩!」


 聞いたことある声だなと思っていたが、さっきの声の主はトーマスだったようだ。

 急いで近くまで駆け寄ってきてくれたようで、心配そうな顔でわたしを見ていた。わたしの顔は真っ青になっていたらしい。


「わたくしは大丈夫です。それよりもリリーがっ!」


 階段を慌てておりて倒れたままのリリーにトーマスと一緒に駆け寄る。

 「大丈夫?」と声をかけるとリリーはパチッと目を開いて校舎に響き渡るような大きな悲鳴をあげたのだった。

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