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第55話

「問題があるかないかを決めるのはエリオットじゃねーよな? 決めるのはバージル様だ」


 わたし達に近付いてきたアーノルドはニヤニヤと意地悪く笑っている。どうやってエリオットをからかってやろうか考えているようだが、エリオットはつんと反対側に顔を向けて無視するつもりらしい。

 わたしも口を閉ざしているつもりだったが、バージル様の名前を出されてエリオットが責められるのはさすがに黙っていられない。わたしが相談したくてエリオットを呼び出したので、悪いのはエリオットじゃないのだから。


「アーノルド様、とても悪い顔をしていますわよ」

「やだなー、アシュリーちゃん。それじゃあ、まるで俺が後輩をいじめようとしているみたいじゃん」

「まぁ、わたくしそんなことまで言っていませんわ。それに今回のことをアーノルド様は勘違いなさっています。わたくしがエリオットに相談したいことがあって呼んだのです。込み入った話だったので、少しの間この空き教室を借りて話していただけのこと……何か問題があるでしょうか?」

「へー? でもあまり疑われることはしないほうがいいと思うよ?」

「エリオットとは付き合いが長い友人ですから。それにバージル様はこれくらいで疑ったりなさらないと思いますよ」


 嘘です。

 疑いはしないかもしれないが、すごい嫉妬はすると思う。今はアーノルドの興味を無くさせるのが先決だ。大袈裟に騒げば恥をかきますよと暗に示すがアーノルドは笑みを浮かべたままわたしを見下ろしている。


「そうか? 無害そうなタヌキ顔の後輩と戯れているだけでもバージル様はかなりのご立腹のようだったが」

「えっ、何でそれを?」


 バージル様がトーマスとのやり取りを知っていることにも驚いたが、アーノルドまで知っているってどういうこと?

 頭の上にハテナマークが浮かぶ。そういえばバージル様は『婚約者が図書室でタヌキ顔の男と密会をしていたという報告を受けた』と言っていた。報告を受けたということは、バージル様にわざわざ報告をした人がいるわけで……


 アーノルド、お前かっ!


「アシュリーちゃんはちゃーんと理解しておいたほうがいいぞ。自分が思っている以上にバージル様がアシュリーちゃんにご執心だってことをさ」

「でも本当に不思議ですよね。バージル様ほどの方が、なんでアシュリー先輩に? あ、アシュリー先輩がどうのってことじゃないですよ。その気になれば誰だっていけそうなのに、なんでアシュリー先輩なのかなっていう素朴な疑問があります」


 クラークが可愛らしく首を傾げながら毒を吐いてきた。

 ちょっと釣り合ってないですよねなんて言う憎たらしい後輩をぎろっと睨む。「怖いです」と言いながら瞳を細めて笑うクラークの姿は、正直わたしより愛らしさがある。ちょいちょい毒を吐くクラークにちゃんと友達がいるか心配に思っていた時もあったが、クラークはちゃんと人を見て毒を吐いていた。エリオットやアーノルド、そしてわたし限定でだったのだ。

 もちろんバージル様には毒を吐かない。


 エリオットやアーノルドは分かるよ。

 年齢は違うが、家柄など総合的にみてに生涯のライバルみたいなものだろうから遠慮もなくなるのだろう。でもさ、何でわたしまで?

 クラークが入学した時からわたしはわりと気にかけて面倒をみていた。だって天使のように可愛かったんだもん。

 最初は「アシュリー先輩」と懐いてくれていたのに、月日が流れていくうちにクラークからどんどん遠慮がなくなり、今やこの目の前の男達と同じく雑な扱いを受けている。


「女の子みたいに可愛らしいクラークに言われたら嫌味だよな」


 アーノルドが楽しそうに笑いながらわたしの横の椅子に座った。

 わたしも思ってたけど、他の人に言われたらちょっとカチンとくるわね。


「僕は成長期が来ていないだけです。もう少ししたらアーノルド先輩みたいなゴリラにはなれなくとも、エリオット先輩くらいにはなれるはずです。まぁ、ゴリラにはなりたくないのでそれで構いませんけど」

「はぁ? 誰がゴリラだって?」

「あんたですよ。てか、煩いからさっさとここから出ていってくれませんかね? ゴリラ先輩とクソチビ」


 さっきまで無視していたエリオットまで参戦してきた。



「おほほ、何やら賑やかになってきたのでわたくし失礼致しますね」



 このまま二人がわたしとエリオットが空き教室で話をしていたことを忘れてくれればいいのだけど。もしかしたらクラークもバージル様と繋がっている可能性もある。変な報告をされたら面倒だ。

 さっさとここを離れよう。


「あ、そういえばエリオットの学年に新しく女の子が入ったんだって?」


 アーノルドの言葉に反応して立ち上がろうとするのを止める。

 どうやらリリーのことらしい。もしかして既に二人もリリーに会っているのだろうか?

 さっきまで睨み合ってバチバチだったのに、話題が変われば三人とも普通に話し出すから男の子って不思議だ。三人は何だかんだでわたしとエリオットが出会う前からの知り合いなので、喧嘩ばかりしていても結局仲が良いのかもしれない。


「あ! リリー先輩ですよね。僕は会いました。綺麗な人ですよね」

「そうそう。俺はまだ遠目にしか見てないけど、あれはレオノア様レベルだな」

「まぁ、レオノアが一番だけどな」

「出たよ、シスコン野郎」

「本当に気持ち悪いです。エリオット先輩」


 誰の目から見てもリリーが綺麗なのは分かる。



「……で?」



 エリオットは頭を抱え、アーノルドとクラークは質問の意味が分からないと二人とも「え?」と固まっていた。


「で? って何?」

「どうしたんですか? アシュリー先輩は何を聞きたいんですか?」


「好きになった?」


 わたしの質問に二人はぽかんとしている。

 「何言ってるんだこいつ?」と言いたげな顔をしているのを見て、変なことを聞いてしまったとすぐに反省する。思ったことをすぐ口に出すのは良くないと分かっているのにやっちゃうんだよね。エリオットが「バカか」と口をぱくぱく動かしているのが見えた。

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