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第49話

「そういえば、ルークがアシュリーに会いたがっていたぞ」

「まぁ! わたくしもルーク様にお会いしたいです。また大きくなったのではないですか?」


 ルークとはバージル様のお兄様であるフェリクス様とアルフィローネ様の子供だ。あの夜にフェリクス様に託された赤子は無事生まれ、皆に愛されながらすくすく成長している。

 とても可愛らしい子で、わたしは会ってすぐルーク様の虜になった。赤ちゃんとはこんなにも可愛らしい存在だったなんて……


 出会い方のせいか、それともバージル様の婚約者になったからか分からないが、アルフィローネ様に気にかけていただき、たまに王宮のお茶会に招かれる。参加者が王妃様とアルフィローネ様とわたしの三人だけだったため、最初の頃のことは緊張で何を話していたかあまり覚えていない。しかし、人間とは状況に適応していく生き物だ。定期的に開かれるお茶会を楽しめるようになるまで一年もかからなかった。ルーク様が生まれるとルーク様もメンバーに加わって賑やかなお茶会になったのと、二人がとても優しくわたしに接してくれたのが大きい。たまにバージル様も参加するのだが、王妃様はそれも嬉しいようだ。

 バージル様が両親である国王様や王妃様に複雑な感情を抱いていることは気が付いていたので少し心配していたのだが、それは杞憂だった。王妃様だけじゃなく、バージル様も少しずつ二人に歩み寄ろうとしているように感じる。新たに良い関係が築けるよう、わたしとアルフィローネ様は見守っている状態だ。


「小さい子どもといえ、婚約者が他の男に会いたがるのは……」

「そんなこと言って、バージル様ばかりルーク様に会うのはずるいですわ。意地悪言わないで下さいませ」




 ルーク様はフェリクス様の幼い頃にそっくりらしい。

 バージル様とフェリクス様も似ていたので、ルーク様とバージル様も似ていると思っていたのだが、王妃様に言わせると「顔立ちの話ではなく愛想の振り撒き方が幼い頃のフェリクスに似ている」とのことだ。


 人見知りすることなく、いつもにこにこしておりあまり泣かない。食欲旺盛で、ルーク様は同じ年頃の子より大きいらしい。

 バージル様は真逆で気難しくて幼い頃から笑わない子だったのよと以前に王妃様が口にしていた。


「一度泣き出したら泣き止まないし、食も細くて……フェリクスの幼い頃は手のかからない子だったから、余計にそう思ったのかもしれないわ。母親として泣いている我が子に何もしてあげられないのが辛くて。そうしているうちに情けないことにわたくしの方が寝込むようになってしまったのです」


 王妃様は育児ノイローゼみたいな感じだったのだろう。

 幼い頃のバージル様は身体も弱く、熱を出しては生死の間をさまようこともあったらしい。母親として限界を感じていた時にバージル様は療養のために王宮を去ってしまった。


「あの小さかったバージルがあんなに立派に育ったのは全部アシュリーのおかげよ。ありがとう」


 そう言って王妃様はわたしの手を握り、泣いてしまったことがあった。王妃様もとても苦しんでいたんだと思う。




「子どもはみんなで愛してあげないとなりません。子どもを一人育てるのはとても大変らしいですから」

「分かっている。次の休みに一緒に会いに行かないか?」

「いいですわね。お土産にぬいぐるみを買って行きましょう」

「またか? ルークの部屋がぬいぐるみだらけになっているぞ」

「うーん、そうなんですよね。でも、ルーク様がありがとうって言って喜んでくれるからついつい買ってしまうのです……それじゃあ、甘い果物ならどうでしょうか?」

「それなら義姉上も食べられる」

「じゃあ、行く前に準備しておきますわね」


 話しているうちに授業を受ける教室まで辿り着いた。

 まだ授業開始のチャイムはなっていない。


「間に合ったか」

「わたくしは間に合いましたが、バージル様は絶対に間に合いませんよ」


 バージル様は軽く肩を竦めるだけだ。


「送ってくださってありがとうございます」

「遅刻した方が楽しそうだったんだけどな」

「またそんなことを。バージル様が先生に謝罪をしなければならなくなった時はわたくしも一緒に謝りに行きますので言って下さいね」

「……そういえば共犯者だった」


 ふふふと笑ったバージル様は「またあとで」と言い残し、来た廊下を戻って行こうと踵を返す。数歩も歩かないうちに、バージル様の名を呼んでひき止めてしまった。


「バージル様!」


 廊下に響く声にバージル様が立ち止まって振り返る。


「あの、明日は入学式ですわね」

「ああ。そうだな」

「入学式の後、一緒に昼食を食べませんか?」

「アシュリーから誘ってくれるなんて珍しい。それじゃあ楽しみにしている。約束だぞ」


 嬉しそうな顔をしているバージル様に向かって手を振って見送りし、遠ざかっていく背中が見えなくなってから教室に入る。教室内に入ると同時に授業開始のチャイムが鳴ったので慌てて席についた。

 明日の入学式でバージル様とリリーが出会う。バージル様は入学式で在校生代表として挨拶をするのだ。


「……わたし、何言っているのかしら」


 突然昼食に誘ったりして……

 周りには聞こえないような小さい呟きだったのに隣に座っていたレオノアには聞こえてしまったようだ。こてんと頭を傾けて「どうかしたの?」と心配そうな顔になっているレオノアを安心させようと小声で大丈夫ですと返事をする。

 それでもレオノアはずいっと身体を寄せてきた。


「何かありましたの?」

「いえ、何も」

「バージル様と何かあったんですか?」

「いえ、本当に、何も」

「まさか何かされたんじゃ……」

「……レオノア様? わたくしの話を聞いています?」

「本当は? 本当はどうだったのですか? わたくし相談に乗りますわ」


 瞳をきらきらさせ、鼻息を荒くしているレオノア様は一体何を期待しているのか。そういえば最近レオノア様は恋愛小説ばかり読んでいるらしいが、その影響かしら? 何かあってほしいと思っているみたいだ。

 年頃らしい、青春っぽいピンク色な展開を。



「さぁさぁ、授業を始めますよ。無駄話は止めてくださいませ」



 話の途中だったが先生が教室に入ってきたので会話を終了させた。

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