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第5話

 わたしとバージル様は翌日から一緒に行動するようになった。

 朝起きてから眠るまでの間、バージル様は子ガモのようにわたしの後をついてきた。食事はもちろん、家庭教師を招いての勉強会、庭の散歩やおやつの時間まで一緒だ。

 理解者として、わたしはバージル様の側にいた。

 最初は失礼がないように細心の注意をはらっていたが、慣れとは恐ろしいもので数日もしないうちに大分距離は近付いたと思う。バージル様はわたしと同い年だが、発育不良で同い年と見えないという理由もあり、前世も今世にも弟や妹がいなかったのでつい弟を可愛がるように構ってしまい過ぎ、お父様やロゼ、それに優しいお母様にまでよく注意された。最初は年のわりに落ち着いているのかと思っていたが、たまに癇癪を起こしたりと年相応の姿を見せられると少し安心し、更に構ってしまいたくなるから注意が必要なのだ。


「バージル様、我が家の食事はお口に合いませんか?」


 夕食をお父様とお母様、そしてバージル様と頂いている時。

 お母様がバージル様に声をかけた。わたしも気になっていたのだが、バージル様の食事量は大変少ない。パンと野菜を少し摘む程度で食事を終わらせてしまう。スープや魚料理なら手をつけることもあるのだが、肉料理には見向きもしない。


「いや、すまない。美味しいのだが、食べられないんだ」


 バージル様がもう一度すまないと謝れば、お母様もお父様も狼狽える。スープを掬っていたスプーンの動きが止まり、しゅんと肩を落としているバージル様は一段と小さく見えた。

 お父様もお母様もバージル様があまりにも少食で心配なのだろう。バージル様よりもわたしの食事量の方が多いくらいだ。


「お父様! お母様! 明日の食事はわたくしが手配してもよろしいですか?」


 わたしがお願いするとお父様の片眉が持ち上がる。何を企んでいるのだと心の声が聞こえてきたが、無視をしてお母様を見る。


「よろしいですよね? お母様」

「あらまぁ、アシュリーが手配してくれるだなんて楽しみね。ねぇ、あなた」

「あぁ、そうだな」


 こういう時はお父様よりお母様にお願いするに限る。お母様から許可が出ればお父様が反対出来ないことを私は知っていた。


「バージル様もお手伝いお願いしますね」

「分かった」


 バージル様はどうせ明日もわたしの子ガモちゃん状態だろうから予めお願いをしておこう。バージル様も異論はないようで手伝いをしてくれるつもりらしい。さぁ、どのように準備しようかと頭の中で考えていると、お父様が「待ちなさい」とストップをかける。

 苦虫を噛み潰したような表情で咳払いをひとつし、こめかみを撫でながら首を横に振った。どうやらまたわたしがよろしくない対応をしたらしい。


「……アシュリー、バージル様にご迷惑をかけるな。準備の手配ならロゼに手伝ってもらいなさい」


 あー、バージル様に手伝いをお願いするのがよくなかったのね。確かに王族にさせることではないかもしれないわ。


「わかりましたわ。それじゃあ、明日はロゼに手伝ってもらいます」


 お父様が言いたいことは分かりましたと力強い眼差しで見つめ返す。うむ、それならばと頷いたお父様だったが、別のところから攻撃を受けた。それはバージル様本人からだった。


「明日もどうせ暇をしている。アシュリーの手伝いをすれば時間を潰せると思うのだが。……私がいたら邪魔になるだろうか?」

「まぁ! そんなことはございませんわ。バージル様がお手伝いしてくださるならとても助かります……と、いうことなので、バージル様にもお手伝いをしていただくことにしますね。お父様」


 バージル様が手伝いをしたいと言っているので、断る方が失礼だと思ったのだ。いいですよねとお父様の方を見ると胃の辺りを撫でながら、頷いているのか首を振っているのか判別つかないような動きで頭を揺らしている。

 駄目だったのかしら? 不安になっているとお母様がにこりと微笑み、わたしの名前を呼んだ。


「アシュリー、しっかりやるのよ」


 はいと元気よく返事をして残りの食事を食べてしまう。お父様から何度か視線を送られていたらしいのだが、わたしの頭は明日の準備に向かっていて全然気がつかなかった。





「バージル様! 今日はとてもいい天気ですわね」

「……あぁ、そうだな」

「今日はバーベキュー日和ですわ!」

「バーベキュー? 初めてきくな。どんな料理なのだ?」

「ふふふ、まだ秘密です。楽しみにしていてくださいませ」


 遅めの朝食の後、バージル様とロゼと一緒に庭に出る。空は快晴で、絶好のバーベキュー日和だ。そう、今日はバージル様を巻き込んでバーベキューをやるつもりでいる。わたし一人がやりたいと言ってもお父様は絶対に許可してくれなかっただろう。

 ふふふと笑っているとロゼが不安そうな顔でこちらを見ていた。わたしが何かやらかすのではないかと思っていそうね。


「ロゼ、何でそんなに不安そうな顔をしているのよ」

「お嬢様が何を企んでいるのかと不安なのです。料理長や使用人たちに昨夜出した指示を私も今朝聞いたものですから」

「そうなの? でも変なことをするわけじゃないわよ」

「そう願います」


 昨夜の夕食後にお父様が部屋にやってきて、夜のうちに料理長や使用人に必要なものを伝えておくようにと言われていたので眠る前に紙に必要なものを書き出して渡しておいたのだ。指示を受けたものが朝からすでに準備に取りかかっているらしい。

 実際子供の私やバージル様がやれることなんてほんの少しだ。


「バージル様、まずは会場を確認に行きましょう」

「会場?」

「そうですわ。バーベキューは外でやるものなのです」

「外?」

「行けば分かりますので、わたくしについてきてください」


 頭の上にハテナばかり浮かんでいるバージル様を「さあさあ」と急かす。バージル様は数步だけ歩いて立ち止まってしまった。名前を呼んでみてもそれ以上前に進もうとしない。

 そしてようやくバージル様の視線がわたしじゃないところに向いていることに気がついた。


「……バージル様」


 もう一度バージル様の名前を呼ぶ。

 ゆっくりこちらを見たバージル様に向かってわたしは手を差し出した。すると泣きそうな顔でバージル様が私の手にしがみつく。

 わたしの予想通りバージル様がわたしに触れると、わたしにも“やつら”が見えてしまうらしい。


 唇が耳まで裂け、真っ黒い目をした大きな女が少し離れたところからこちらを見ていた。長いボサボサの髪を引き摺りながらぐるぐるその場を回っている姿を見て、バージル様の手を力いっぱい握ってしまったことは許して頂きたいです。

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