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第46話

「それで? 二人で何を話してたんだ? アシュリー」

「えっと、いろいろな話をしていましたが、一番は学園の話とかですかね。お兄さまからも聞いたりしていますが、色々不安なこともありますので」

「ふーん。そういうことは、エリオットじゃなくて、私に話してくれればいいのに。私達は婚約者なのだから」


 婚約者のところを強調するバージル様に「そうですわね」と微笑む。婚約が決まってから、ちょいちょいこのやり取りがあるのだ。

 頼りにしてほしい、わたしのことを守りたいと思っているのが態度で伝わってくる。

 バージル様の成長が何だかくすぐったい。ずっとわたしの後ろをついてくる少年だったのに、子供とはいつの間にやら成長していくものらしいです。


 だが、嬉しいことだけじゃない。


 エリオットから言わせると嫉妬心、執着心もどんどん増しているとのことだ。不安にさせるようなことを言うエリオットに、バージル様は昔からそうなんですよと言ったものの、確かにバージル様の言動を心配に思ったことや板挟みに合うなど被害は少しずつ増している感がある。


  「これに束縛も増えたらヤバイな」


 なんてエリオットは笑いながら言っていたが、最近はそれも少しあるんですよとは言えなかった。どうかわたしの思い過ごしであってくれ。


 誰か適切な接し方の指示を出してほしい。

 わたしの対応がまずいのかしら。いや、それも個性みたいなもので、そういう感情って止めようと思って止められるものでもないし、もう少し成長すればきっと落ち着いていくものよね。

 学園に通うことで、わたし以外の同じ年代の子供達と交流することで覚えていくのでしょう。うん。


 交流といっても、この世界には階級制度があるのでその垣根を越えての交流は難しいとお兄さまから聞いている。一応、学園にいる間は子供達の身分は関係なく~みたいな謳い文句はあるらしい。

 バージル様は色々な人とコミュニケーションを取ることが大事だと思うが、わたしの場合は交流より対策を練ることが大事だ。悪役令嬢になるつもりはないので、バージル様のかりそめの婚約者という立場を忘れず、悪用することがないよう自分の行動には気を付けよう。


「エリオットも気が利かないよな。邪魔者って気がつかないか?」

「大変申し訳ないのですが二人きりにしないように王妃様に頼まれているんですよ」

「はぁ?」

「なので俺のことは空気だと思ってください」


「ちょ、ちょっとお待ち下さい。王妃様に頼まれているって、どういうことなのでしょうか?」


 わたしもそんな話は初耳だ。


「アシュリーと念願の婚約者になれたことで、バージル様が暴走しないか王妃様は心配なさっているんですよ」

「……何を心配しているんだか、母上は」

「そういうことですので、俺の行動に何か問題があるようなら王妃様の方に連絡をお願い致します」


 邪魔者扱いされたエリオットは冷めた紅茶を飲みながら丁寧な言葉で退出することを拒否した。出来ることなら自分もさっさと自室に帰りたいですよと一言付け加えられるとバージル様は口を閉ざす。

 腹立たしく思っても、王妃様から頼まれていることならこれ以上バージル様が口を挟むことは出来ないと早々に諦めたようだ。



「あっ」



 汚物を見るような目でエリオット見ていたバージル様だったが、ふっと視線をエリオットの斜め後ろに向ける。思わず漏れたみたいな声を出し、一点を凝視するとエリオットが短く悲鳴を上げて椅子から立ち上がった。


「ちょっと! やめてくださいよっ!」

「……何がだ?」

「俺を怖がらせて、憂さ晴らしする気ですよね? 本当は何もいないんですよね」

「さぁ? どうだと思う?」


 聞きたいか?と聞かれエリオットは真っ青になっている顔の前で両手を横に振る。


 バージル様のエリオットいじめがまた始まった。

 幽霊を怖がるエリオットの反応を面白がって、たまにこうやって遊んでいるらしい。バージル様に手を握られているわたしには、エリオットの後ろに本当は何もいないと分かっていたが、二人の仲裁に入るといつも面倒なことになるので何も言わずに黙っておく。

 意外と仲良しなのでは? と二人のやり取りを見ていて思うこともある。男友達や、男兄弟ってこんな風にふざけて遊ぶものよね。


 暫くは様子を見守ろう。



「いや、いいです! 何も言わないで下さい」

「いいのか? 本当に聞かなくて」

「……怖いこと言わないで下さいよ。何も聞きたくないです」



 無表情のバージル様とは反対に泣き出しそうな顔になっているエリオットを見ていたら可哀想に思ってしまった。結局様子を見守ることを諦め、そろそろ止めてあげて下さいと声をかけようとした時、急に部屋の扉が開く。


 入室して来たのはレオノアだったのだが、タイミングが悪かった。


「ギャーーーー!!」と、エリオットが悲鳴をあげてそのまま意識を失い倒れてしまったのだ。突然現れたレオノアのことを幽霊と勘違いしたらしい。


 その後、倒れた弟に驚いたレオノアも悲鳴をあげ、使用人が駆けつけるという事件に発展した。前にもこんなことがあったわよね。

 今日何度目かになる頭を抱えたくなる出来事だった。


 レオノアからはエリオットに意地悪しないようにとやんわり注意され、更にしょんぼりしてしまう。

 わたしは意地悪していないのに、バージル様の共犯者みたいな扱いにされている。レオノアに嫌われたくないので、次からは面倒でもちゃんと注意しようと思った。




 そんな数日を過ごし、わたし達は学園へと入学することとなったのだった。どんな学園生活が待っているのか不安が半分、もう半分は楽しみに思っているわたしは結構図太い神経の持ち主なのかもしれない。

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