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第45話

「それにしてもゲーム開始まであと一年かぁ。これから不安しかないんですけど……わたしもレオノア様のように違う未来に進んだと思ったんだけどな」


「え?」

「え?」


 不思議そうな顔で首を傾げたエリオットの「え?」に、思わずこちらも同じように返す。「え?」って何よ。

 説明を聞いて、わたしは目をぱちくりさせてしまった。



 どうやらわたしは勘違いをしていたらしい。



 先にわたしやバージル様やレオノア様が学園に入学し、その翌年にエリオットやヒロインであるリリーがやってくるのだと思っていた。そこで乙女ゲームがスタートするものだと。

 だがしかし、リリーは途中入学をしてくるらしく、わたし達が最上級生になった時やってくるというのだ。つまりあと三年後。


「そんなの聞いてないわよ!」

「あれ、俺言ってなかった?」

「言ってない! 何でそんな大事なことを言わないのよ」

「悪い、言ったと思ってた」


 頭を抱えてしまう。

 勝手に思い込んでいたわたしが悪いのか? いや、でも、まさか途中入学とか普通は考えないわよ。そんなことって許されるの? と思ったが、ゲームということを考えてみれば、有り得るのかもしれない。途中入学とかヒロインっぽいインパクトを与える特別なイベントな気がする。


 頭を抱えるだけじゃ足りず、ついでにうううっと唸ってしまった。

 まさか、こんなにも噛み合っていなかったとは。ホウレンソウって知ってる? 報告・連絡・相談だよ。でも、前世とは違い気軽に連絡が取れないし、二人きりで会うのもなかなか難しい。子どもだからというのもあるが、会う時はバージル様やレオノアが一緒にいるわけで、秘密の話が出来るタイミングというのがなかなかこないのだ。今回のホウレンソウミスは仕方ないことだったと諦めるしかない。


 わたしとエリオットの対策に向けての温度差も問題の一つだ。

 エリオットにとって最重要案件であるレオノア問題が起こるタイミングは完全に過ぎている。そのせいでこの男は少し気が緩みすぎているんじゃないかしら。

 


 いや、ちょっと待って。これはチャンスかもしれない!

 ゲーム開始の時間が延びるのなら、穏便に婚約を解消出来る方法が見つかるかもしれない。リリーがやってくるまで三年の猶予ができたわけなのだが。



「……他に何か言い忘れていることはない?」

「いや、うーん。多分。俺が忘れていることもあるかもしれないし、正直何の情報を話したかもあんまり覚えてないっていうか……だが、重要な話は一番最初に会った時に話したから」

「……レオノア様に関係することはね」

「ははは、まぁな。あ、学園に行っている間はレオノアのこと頼むぞ」


 こいつ!

 本当にレオノアのことしか考えていないのね。ぷるぷる震える拳を握り、殴りたい衝動を堪える。エリオットには腹立つが、すっかり仲良くなったレオノアの身に危険が及ばないよう気にかけるのは当たり前だ。


「分かってるわよ! レオノア様とはお友達になりましたからね。なーんか、エリオットの思い通りに進んでいるようで嫌だけど、怪我なんかしないようにわたしが見守りますわ」

「ありがとう。俺もちゃんとリリーのこと調べるからさ」

「交換条件をつけるつもりはこれっぽっちもないですけど、本当に頼むわよ。マジで」

「でもさ、前にも言ったがこれから先は俺の記憶はあんまり役に立ちそうにないぞ」


 本来の乙女ゲームの流れと外れてしまっているため対策が立てられないのだ。あまりゲームの流れにばかり気を取られるのは危険だとエリオットに注意されていた。


 死ぬはずだったレオノアは生き、その逆にフェリクス様は亡くなった。


 大きく変わったこともあるが、結局わたしはバージル様の婚約者になってしまったわけで、わたしの未来はいまだに破滅へと向かっているのかもしれない。


 膝の上に乗っているバージル様の頭を無意識に撫でながら大きなため息を吐く。はっとした時には熟睡しているバージル様の頭をわしゃわしゃと撫で回した後だった。不安になる気持ちを落ち着けようとした結果の出来事だった。

 悪気はなかったが、バージル様を猫か犬かのように扱ってしまったことを反省する。流石に雑に撫で回しすぎたため目覚めてしまったバージル様は頭を持ち上げ、まだ眠そうなとろんとした瞳でわたしを見ていた。


「……ん? なにしたの?」

「バージル様申し訳ございません。起こしてしまいましたわね。まだ寝てて大丈夫な時間ですよ」

「んー、大丈夫? エリオットに何かされたわけじゃないよね?」


 バージル様がちらりと視線をエリオットに向ける。寝起きながら、静かに威嚇するような目付きをしているバージル様からエリオットは視線を背けた。

 

「……バージル様の婚約者に何かしようなんてバカなことを考えたりしませんよ、さすがに」

「何かしてたら殺してた」


 ふわぁと大きな欠伸をしながらバージル様は身体を完全に起こし、わたしの隣に座る。甘さを含む眠そうな声とは打って変わって、切り裂くような冷たい声音にわたしの方が背筋がぴんと伸びた。

 エリオットは慣れていると言いたげに苦笑いしているが、わたしは震え上がってしまいそうになる。何だか空気が重く居たたまれない。


「本性が出ていますよ」


 話しかけてくるエリオットを無視したバージル様に「膝を貸してくれてありがとう」とお礼を言われた。今さら微笑まれてもまだちょっと怖い。

 それから怖がらせてごめんねとわたしが脅えていると思っているバージル様に、手を握って謝られた。申し訳なさそうな顔をされ、大丈夫ですと慌てて首を横に振る。


「……怖くないけど少しびっくりしました」

「ちょっと寝惚けてたみたいだ。本当にごめん」


 そんなわたし達のやり取りをエリオットは冷めた目で見ていた。

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