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第31話

「だって、何ですか?」


 バージル様を見つめる。

 うっと言葉を詰まらせている少年が次に何を話すのか待つ。



「アシュリー様、如何しました? こんなところでバージル様を睨み付けて」


 メイナードが部屋からではなく、さっき不気味な男が曲がっていった角から現れた。


「メイナード団長様! 睨むだなんて……見つめていただけですわ」

「……あー。そうですね」


 わたしの目付きの悪さのせいで、端から見ていたらわたしがバージル様を睨み付けているように見えるのね。本当に、ただ見つめていただけのつもりなのに。

 も、もしや、バージル様が口を閉ざしていたのはわたしの目付きが怖かったから? 怯えていたの?


「わたくし睨んでいませんよ」

「わかっている」

「本当ですからね! わたくし」

「分かっている。そんな風に思ってなどいない!」


 わたしもバージル様も必死な顔で言い合う。お互いに必死すぎて声もついつい大きくなりすぎてしまった。メイナードが呆れた顔をするのも無理はない。

 少し頬を赤らめ、真っ直ぐわたしを見ているバージル様。きっとわたしも同じような顔をしていることだろう。思わず笑ってしまった。


「バージル様。それでさっきの話は?」

「……」

「言いたくないのですか?」

「……アシュリーが、私と一緒にいてくれるのは私を可哀想だと思っているからだろう? 情けなく怯える私に同情して手を繋いでくれるのだろう?」

「はい?」

「だから、もし、私が平気になったら……それでもアシュリーは一緒にいてくれるのだろうか?」


 バージル様が言いたいことが理解できた。つまりバージル様はわたしが同情で一緒にいるって思ってたっていうこと?

 メイナードがすぐ近くにいるため言葉を濁しているが、たどたどしく口にした問いが彼の本音なのだろう。


「わたくしは好きでバージル様と一緒にいます。だから一緒にいるのは同情なんかじゃないですよ」

「本当に?」

「ええ、恐れ多いことですがわたくしバージル様とお友達だと思っております。バージル様に嫌われてしまわないうちは一緒にいますわ」


 バージル様と繋いでいた手をぎゅっと強く握った。


「……ありがとう」


 バージル様の顔がふにゃっとなった。

 泣きそうな笑顔が今まで見たなかで一番可愛い顔だった。



 そのあとメイナードに外出のお願いをしたのだが、結局は許可がおりなかった。何度もしつこくお願いをしたのだが無理だった。

 昨日のリリーとのこともあり、バージル様を連れ出すのは絶対に許可は出せないとのこと。宿屋にいる警備も増やしており、バージル様がダメならわたしだけでも……なんてさっきの流れから言えるわけもなく、外出するのは諦めた。


 結局一日だけじゃなく、数日宿屋に軟禁された。


 その後公爵家に謝罪に行き、観光も出来ぬまま伯爵家に帰宅しなければならないこととなった。ヒロインのリリーと会ったことだけはエリオットに伝えることが出来た。リリーはわたし達と同じ日本からの転生者で、ヤバそうな女だったと。

 バージル様のチェックを掻い潜り、エリオットと話をするのがとても大変だったことは言うまでもない。


 あと公爵家で聞いたのだが、今回王都にやってきたタイミングでバージル様のお母様である王妃様と公爵家で秘密のお茶会を開く予定だったらしい。参加者であるわたしにもサプライズとか怖いわ。

 王宮にあがれないわたしのために公爵家で開くつもりだったらしいのだが、これまた公爵家での一件によりお茶会は開催されないことになったのだ。


「王妃様が今回会えないことをとても残念がっておられたらしいですわ。アシュリー様も会えずに残念でしたわね。王妃様はとても素敵な方なんですよ」

「……あら、そうなのですね。わたくしもお会いできずとても残念です。また、いつか機会があればお誘いして頂ければ光栄ですわ」

「きっとまたお誘いがあると思いますよ」

「……そうですか」


 笑みが引きつってしまった。

 そうか、また誘われるのか。わたしが微妙な反応をしたのに気がついたのか、バージル様が「嫌なら行かなくてもいいぞ」なんて言い出した。わたしを守ろうとした発言のようだが、その言い方だとわたしが王妃様とのお茶会を嫌がっているように聞こえるわ。

 確かに進んで参加したいと思わないけど、嫌というより憂鬱なのだ。失礼がないように行動する自信がない。本来伯爵家の娘が王妃様のお茶会に参加出来るはずもないのだから、わたしの反応は普通のことだの思う。よほど能天気か、取り入ろうとする野心でもないと嬉しいなんて思えないはずだ。


「まぁ、バージル様。王妃様にお会いするのが嫌なわけないじゃないですか。ただ、わたくしなんかがお会いしていいのかしらと思っていただけですわ」

「私がアシュリーと離れようとしないから、母上はアシュリーを気にしているのだろう」

「そうなのでしょうか? 王妃様はバージル様に会いたいからわたくしを招いて下さっているのだと思いますよ。せっかく王都に来ているのですから、一度王妃様にお会いしてきたほうがよろしいのでは? もちろん国王様にも」

「……別に必要ない。私は早くアシュリーと伯爵家に帰りたい」


 そうしてバージル様は黙ってしまった。


「ふふふ、アシュリー様とバージル様は本当に仲良しですわね」

「……本当ですね。お二人が以前よりも更に仲良くなっているように感じます。驚きました、ええ、本当に」


 瞳を細めて微笑んでいるレオノアと、真面目な顔でわたしたちのやり取りを聞いていたエリオットの呟きが聞こえてきた。見られていたことに何となく恥ずかしさを覚えたが、気にしていたのはわたしだけでバージル様は全然気にした風もなく、姿勢を正したままわたしを見ていた。

 周りを全く気にしない男だ。

 レオノアやエリオットに話しかけられても基本無視をするバージル様のフォローをするのに疲れた一日だった。



 そして、また数日かけてわたしとバージル様は伯爵家に帰っていく。早く我が家に帰ってゆっくり休みたい。色々なことがあって疲れたわ。

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