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第27話

 怒っていないと聞いて安心した顔になったバージル様がわたしの手を取る。見つめ合ってにこっと笑い、わたしは手を引かれるままバージル様の後をついていった。

 ここで手を繋いで大丈夫なんだろうか。


「バージル様! アシュリー様!」


 ホールに入ってすぐに緩く巻いた淡い金色の髪を綺麗に纏め、パステルピンクのドレスを着たレオノアが笑顔で手を振りながら近寄ってくる。

 肌が白いレオノアにパステルピンクのドレスはとても良く似合っている。フリルやレースがふんだんにあしらわれたドレスはまさにレオノアのために作られたドレスといえるだろう。


 え? 妖精?


 思わず目を擦ってよく見ようと目を凝らす。

 可愛すぎる。何なのこの子。この子がヒロインだろ。


「お二人が来てくださってすごく嬉しいです。ゆっくりしていってくださいね」

「誕生日おめでとう」

「……おめでとうございます、レオノア様。本日はわたくしまでお招き下さりありがとうございます。お会い出来るのを楽しみにしておりました」

「それはわたくしもですわ。他の方にもご挨拶して参りますので、後でゆっくりお話致しましょう」


 それでは、とレオノアはわたし達の次にやってきたロマンスグレーの紳士なおじ様のところへ向かった。公爵様の令嬢の誕生会に招かれる方々なのだからわたし以外みな身分の高い方々だろうと想像出来る。

 バージル様が来ていることに気が付き、何人か挨拶をしたそうな人達がいたがバージル様はそれらを無視している。話しかけてくるんじゃないというオーラを出しているが、鈍いのかあえて気がつかないふりをしているのか一人二人と寄ってきた大人達にバージル様が囲まれ始める。そうなれば必然的に一緒にいるわたしも囲まれてしまう。


「バージル様、わたくし飲み物を頂いてきますね」

「私も行く」

「いえ、わたくし一人で大丈夫です。バージル様の分も持って来ますので、ここでお待ち下さいね」


 さすがにこの状況でバージル様を連れ出すのは無理。「すぐ戻ります」と言い残して繋いでいた手を離し、追いかけてこようとするバージル様を置いてその場を離れた。

 飲み物を配っている使用人を見つけ、飲み物をもらいに行こうと思った時に同じ年頃の少女とぶつかってしまう。ぶつかったというか、少女がこちらに目掛けて突進してきたのだ。


 ぶつかった時に胸元に葡萄のジュースをかけられた。


「ご、ごめんなさい」


 間違いなくわざとわたしにぶつかってきたようだったが、ジュースを溢した少女は泣きそうな顔で謝ってくる。

 ジュースが入っていただろうグラスを握り締め、顔を真っ青にしている少女の方が、ジュースをかけられても堂々と立っているわたしより被害者に見える。少女がちらちら気にして見ている方に視線を向けると、にやにやと嫌な笑い方をしている同年代くらいの少女達が集まっていた。

 多分みんなわたしより格上の家柄の少女達なのだろう。


「まぁ、大変! あなた大丈夫?」


 少女達は口々に慰めの言葉をかけてくれるのだが、表情を見ればわたしを馬鹿にしていると一発で分かる。

 わたし、喧嘩を売られてる?


「ええ。大丈夫ですわ」


 わたしだから気にしないけど、十歳の子供にこんな意地悪したら普通泣いてしまうのじゃないかしら?

 綺麗なドレスを台無しにされ、大勢の前で恥をかかせようとする悪意ある行為だ。突然ジュースをかけられ、びっくりして声も出せず、たいした反応もしないうちに少女達がわたしを他の招待客達から隠す壁のように集まってきたので周りは気が付いていない。


「急いで染み抜きした方が良いのじゃないかしら? 安物のドレスのようですが、汚れて見苦しいですもの」

「レイカ様の言うとおりですわ」

「でもお似合いじゃない? 汚れたドレスが」

「バージル様とレオノア様の婚約の話が進んでいることをご存知じゃないのかしら? 身の程を知るべきですわ。ましてや今日はレオノア様の誕生会だというのに、何を考えていらっしゃるのか是非お聞きしたいところです」

「噂とはあっという間に広まるものですからね。いやだわ、浅ましい方と同じ空気を吸いたくありません」


 ほほほと少女達が声を合わせて笑う。

 こんな風にドレスに飲み物をかけることって横行しているのかしら。あまりに手慣れた一連の流れに口出しする暇すらない。

 目をぱちくりさせているうちにわたしを貶める言葉を次々に吐き、少女達は去っていった。


 飲み物を配っていた使用人だけはわたし達のやりとりを目撃していたようで、「大丈夫ですか?」と声をかけてくれる。心配そうな顔をしている使用人に「大丈夫です。化粧室への案内をお願い出来ますか?」と言うとすぐに化粧室まで案内してもらえた。

 化粧室の鏡でドレスを確認すると葡萄のジュースのせいで広範囲が汚れてしまっている。もうどうしようもないレベルだ。


 わたし、悪役令嬢じゃなかった? これって悪役令嬢がヒロインにする嫌がらせなんじゃないのかしら。何で悪役令嬢のわたしが嫌がらせをされなきゃならないの?


 あ、でも待って。これって……



「……誕生会から帰る口実になる?」



 化粧室から出るとここまで案内してくれた使用人がまだ待っていてくれた。


「すみません。会場に第二騎士団の団長のメイナード様がいらっしゃっているのですが呼んできて頂けますか?」

「承知致しました。こちらに控え室がありますので、そこでお待ち下さい」

「ありがとう」


 汚れたドレスを着たわたしが人目に触れないように配慮してくれたらしい。案内された控え室の椅子に座り、メイナードが来るのを待つことにする。

 数分も待たずに使用人に呼ばれたメイナードが控え室に姿を現した。


「うわ! どうした、それ」

「ちょっとぶつかってしまって。わたくし、汚れたドレスのまま会場に戻ることは出来ません。残念ですが、先に宿屋に戻っても良いでしょうか?」

「そうだな。そうした方が良いだろう。騎士を護衛につけよう」

「ありがとうございます。それで、このことはバージル様には伏せておいてもらっても良いですか? わたくしが帰ることで、バージル様に迷惑をかけるわけにはまいりません」


 メイナードもそうしてくれると助かると頷く。

 馬車の準備をさせようとメイナードと一緒に正面玄関へと向かった。

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