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第24話

 手紙の差出人を確認するとレオノアからだった。

 内容に目を通しているとバージル様もこちらに身を寄せ、紙を覗き込んでくる。受け取らなかったのに、今になって気になったのかしら?


「あら、レオノア様のお誕生日会の招待状みたいですわね」


 バージル様とわたしに一週間後に行われるレオノアの誕生会に是非参加してほしいという内容が書かれている。

 つまらなそうな顔でバージル様は私が持っている紙を抜き取り、紙の下に書かれている文字を見て眉間に皺を寄せる。


「これ下に何て書いてるんだ?」


 一番下に日本語で『誕生日=Xデー』と書かれていた。

 エリオットからのメッセージだろう。


「読めませんわね。なんて書いてるあるのかしら?」

「暗号?」

「分からないですね」

「……本当に? これ、レオノアの字じゃないよね」

「レオノア様からのお手紙なのにですか?」

「エリオットでしょ?」


 あれ? なんかバージル様怒ってる?

 まるで汚いものを触るように紙の端を摘んでそれを顔の前で左右に振っていた。わたしの反応を窺っているのが分かったので、表情を変えず微笑みを浮かべてわたしには分かりませんわと繰り返す。

 まだ納得していないようで、私を見る視線は疑わしいものをみるそれだ。まるで浮気を責められているようで気まずい。


 どうやらバージル様のヤキモチが発動されたらしい。

 相変わらずエリオットをライバル視しているようね。


 わたし達のやりとりをメイナードとユージーンがにやにやして見ている。どうやらバージル様の取り調べを楽しんで見ているようで、止めてくれるつもりはないようだ。

 仕方ない。わたしがこの話題を終わらせるしかないようだ。

 バージル様が摘んで持っている紙を今度はわたしが逆に抜き取り、紙を封筒の中に戻してバージル様の前のテーブルの上に置く。


「疑われているようで悲しいです。ただの落書きじゃないですか?」

「招待状に意味のない落書きを書くか?」

「そ、そう言われればそうですわね。でも暗号だとしたら何と書かれているのかしら? あんな文字初めて見ましたわ」


 ーー今世ではですけど。


「どちらにしても子供のわたくし達では解けそうにないですわ。大人の方に解読をお願いしたらどうですか? ねぇ、メイナード団長様とユージーン様」


 にやにやしてこちらを見ていた大人二人に後のことを丸投げする。

 紅茶をもう一口飲み、これ以上言うことはないとわたしは口を閉ざした。バージル様は二人に解読させる気になったようで、招待状が入った封筒をメイナードに手渡す。すぐ解読しろと言われた二人は「騎士の仕事ではないのですが」と困ったように頬をひきつらせていた。


 それよりもエリオットからの暗号だ。

 Xデーとはつまりレオノアが亡くなる日ということなのだろう。これはわたしは絶対に参加しない方が良い案件だわ。罷り間違って殺人者になってしまったり罪を着せられたら大変なこととなる。エリオットもそれを伝えたくて招待状にメッセージを残したのだと思う。

 自分の身を守ることも大事だが、わたしのせいでレオノアが亡くなるなんて絶対に嫌だもの。


「どうした? アシュリー。何だか顔色が悪いぞ」


 考え込むわたしの頬をバージル様がそっと触る。

 手の主は心配そうな顔で私を見ていた。バージル様の手が温かくて少しほっとする。


「何でもありませんわ。朝食を少し食べすぎてしまったみたいです」

「大丈夫か?」

「ご心配おかけしてしまい申し訳ございません。本当にありがとうございます」

「無理はするな」

「ええ、分かっておりますわ」


 食後は心配性のバージル様の指示に従い、コンサバトリーで二人で静かに過ごした。読書をしたり、昼寝をしたり優雅すぎる。バージル様も我が家のコンサバトリーを気に入っているようで、ここで過ごす時間って結構多いのよね。

 考える時間だけはたくさんあり、Xデーのことを考えていた。バージル様は絶対に参加しなければならないだろうが、わたしはオマケみたいなものなので参加せずとも大丈夫だと思う。だが、わたしが参加しないと言ったらバージル様も参加しない可能性が出てくる。


 どうやって上手く参加を断れば良いのかしら。


「……ねぇ、アシュリー」

「ん? どうしたのですか?」


 考え事をしているとバージル様に声をかけられる。

 聞きたいことがあるようで真剣な顔で私を見ていた。どうしたのだろうと読んだふりをするために開いていた本を閉じ、テーブルの上に置いてバージル様の方に向き直る。

 バージル様は真剣な顔をしてわたしの手を握った。


「昨日の夜アシュリーの部屋に行っただろ?」

「ええ、いらっしゃってましたね」

「その時にちょっと気がついたことがあって。今からアシュリーに試しにやってもらいたいことがあるんだけどいいかな?」

「もちろんですわ。何をすればいいでしょうか?」


 ガラス窓の方を見ると窓に顔が二つ張り付いており、それに続いてばんっと赤い手が四本窓に張り付き蠢いていた。顔と手以外はなく、縦横無尽に動いているのを見ると怖いを通り過ぎてちょっと笑ってしまう。

 バージル様も窓の方を見ているが怯えてはいないようだ。


「バージル様?」


 バージル様は握っていたわたしの手を離した。その瞬間からわたしには窓に張り付いていたものが見えなくなる。

 意味が分からなくてバージル様の名前を呼ぶと、両手を広げてこっちを見ていた。本当に意味が分からない。


「ちょっと試しに私を抱き締めてくれない?」


 両手を広げているのは抱き締めてほしいということだったようだ。

 意味があるのかないのか分からないけど、抱き締めてほしいのならば抱き締めてさしあげましょう。両手を広げているバージル様の背中に両腕を回し、肩のところに顎を乗せて「これでいいですか?」とすぐ近くにあるバージル様の顔を見つめる。


「……やっぱり」

「ん?」


 バージル様の視線は窓の方に向けられていたのでわたしも同じように窓の方を見た。バージル様に触れているのに窓に張り付いていたものが消えて見えないままだ。

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