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第20話



 エリオットは目覚めて一番最初に吐いたらしい。




「エリオット大丈夫でしたか?」


 夜中に部屋をノックされ扉を開ける。

 なんとなくエリオットがやって来るような気がしていたので、予感が当たった。エリオットが倒れたこともあり、わたしとバージル様は今日も公爵家に泊まることになっていた。


「……図書室にいたのは何だったんだ?」

「あ、やっぱり見えたんですね。驚いたんじゃないですか?」

「すごいのが見えたんだが……」

「わたしとバージル様も見ていましたわ。見るのは初めて?」

「……普通は見ないよな。あんなの」

「まぁ、そうですわね。でもバージル様は物心ついた時から“あれ”がみえていたんです。今日はバージル様が“あれ”を見ている時にエリオットが肩を触ったから見えたんだと思うの」

「なんだ、それ……そんな設定あった、か?」


 エリオットの顔色はいまだ青い。

 どうぞと室内に招き入れるとエリオットはふらふらとした足取りで椅子に近寄り、それに座って頭を抱えて俯いてしまう。

 設定という言葉に「ゲームっぽいなぁ」と苦笑いしてしまう。


「設定とかあるの?」

「ある。っていっても、記憶がちょっとうろ覚えなんだよ。攻略キャラは全員何かトラウマがあって、それをヒロインによって癒され克服するって流れなんだよな」

「へぇー、ヒロインってすごいのね」


 バージル様やエリオットも攻略キャラクターなので、何かしらトラウマがあるってことなのかしら?


「ちなみに俺は大好きな姉上をアシュリーに殺されたことで心を閉ざしたっていう設定だった。無口キャラってやつだったはず」

「え、じゃあそのトラウマはわたしのせい?」

「そうだな。自分のことは覚えているんだが、他の攻略キャラクターの細かい設定を思い出せないんだよ。王子のトラウマも思い出せないんだが、幽霊関係だったのかなー。俺、ホラーとかマジ無理」

「ホラー嫌い?」

「映画とかゲームとかでも無理」

「だからぶっ倒れたんですね」


 エリオットは気まずそうな顔をし、「何であんたは平気なんだよ。女子は怖がりなもんじゃないのか?」と唇を尖らせている。

 実際目の前で見るのは勘弁という人は多くいるだろうが、ホラーや怖いものが好きな女子だっているだろうよ。どんなイメージだ。


「あー、言っていなかったわね。わたし前世では見える子だったのよ」


 今までのわたしだったらこんな風にカミングアウトはしなかった。エリオットは前世のことも、今日図書室での経験からオバケのことも知っている。だから、ぽろっと言ってしまった。

 エリオットは顔を顰めてこっちを見ながら、上半身を反らしてわたしから距離をとろうとしている。


「えー! こわっ!」

「何でわたしから距離をとろうとしてるんですか?」

「いや、だってあんたを触ったら幽霊が見えるんだろ?」

「今世では見えないですよ。でも、バージル様に触っている時はなぜか見えるんですよね」

「……」


 そういえば初めてバージル様と我が家の庭で会った時、バージル様を抱き上げたロゼは何も見えていなかった。バージル様に触ったからといって全員が見えるようになるというわけじゃないらしい。見えないままの人と見えるようになる人がいるということなのだろう。

 怖がりなエリオットには残念なことだが、エリオットは見えるようになる人だったということだ。


「だからわりと見慣れているの」

「……あんなん見慣れてるとか、やべぇな」

「怖いのは変わらないけどね」

「まぁ、触らなければ見えないんだから平気か」


 触らなければ見えないんだけど、一人で怖いのを我慢していると思うとついつい手を伸ばしてしまうのよね。


「それより、王子のことなんだが……」

「バージル様がどうかしました?」

「思った以上にあんたに依存してるみたいだけど」

「そうかな? わたしも少し感じてたんだけど、子供ってそんなもんじゃないの? わたし、前世でも今世でも友達がほとんどいなかったからよく分からなくて」


 前世の子供時代の友人関係は悲惨な記憶しかなく、今世も同じような年頃の子は兄くらいとしか交流がない。お茶会に呼ばれても親しい友達が出来ず、子供同士の友情の育みかたがよく分からないため、バージル様との関係もこんなもんかと思っていたが違うのだろうか。


「俺があんたのことを見てるだけで、すげー睨んできたぞ」

「ヤキモチみたいなもの?」

「うーん、多分。でも攻略キャラクター達ってヒロイン以外に心を開かないはずなんだよなー。まぁ、俺は例外として」


 ヒロインにしか心を開かない攻略キャラクター達が魅力の乙女ゲームなんだけどなぁという呟きを聞きながら、バージル様のことを考えていた。

 エリオットがいうにはヒロインがバージル様を癒すことでトラウマを克服し、そんな彼女に恋をするストーリーらしいのだが、そんな最強な子がいるなら二人の出会いを早めることって出来ないのかしら? レオノアを利用することなく、わたしが悪役令嬢にならない未来。


「そのヒロインを探すことって出来ないの?」


 わたしの質問にエリオットは顎に手をあて何かを考えている。


「情報が少ないが探せないことはないかも」

「ヒロインを探してバージル様と引き合わせる。そうすれば無駄な回り道がなくなると思わない? 昨夜はレオノア様を婚約者にするって話したけど、レオノア様が亡くならず育ったとして、バージル様がそのヒロインと出会ってお互い好きになっちゃうのが決まっているならレオノア様が可哀想でしょ」

「……確かにそうだな。姉上は幸せになれる相手と婚約し、結婚してほしい」

「バージル様もだよ」


 二人の意見が一致した。

 まずはヒロインを探してみようということに。

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