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第19話

 レオノアとエリオットとバージル様とわたしの四人で公爵家を散策することになった。

 移動する時もバージル様はわたしの手を繋いだまま離さない。時折エリオットがわたしとバージル様を見ていたが、表情を見ても何を考えているのか分からない。エリオットに話しかけたいのだが、エリオットに話しかけるとバージル様が不機嫌になるため遠慮してしまう。


「みなさん、次は図書室に行きませんか?」


 レオノアが案内してくれる場所にわたし達は着いていくのみだ。

 淡い金色の髪に桃色の瞳をしたレオノアは終始にこにこしている。相変わらず可愛らしい子だ。

 レオノアを見ているとついつい頬が緩んでしまう。


「わたくし、本を読むのが好きなので楽しみです」


 本といっても専らロマンス小説ばかり読んでいますけれども。

 レオノアもまぁ! と嬉しそうに笑っている。レオノアは本が好きなのだろう。わたしが本が好きだと言った時のレオノアの笑顔はとても輝いていた。


 連れていかれた図書室は流石公爵家といった感じだ。

 本棚に並ぶ本の数に圧倒されてしまう。レオノアがわたしに近付き、「アシュリー様はどんな本を読まれるのですか?」と質問してきた。


「わたくしは恋のお話が。最近は町で流行しているロマンス小説を読んでいます」

「わたくしもその小説を読みました! 主人公が……」

「あー! お待ち下さい。わたくしまだ読み終わっていないのです。まだ内容をお話しにならないでください!」

「ふふふ、分かりましたわ。読み終わったらお話したいです。わたくしのお友達は本を読む子がいないので、アシュリー様と是非仲良くなりたいですわ」

「わたくしもです」


 可愛らしいレオノアと仲良くなれる! 思わず頷いてしまったが、エリオットがごほんごほんと咳払いをしたことではっとなる。

 昨夜エリオットと相談した内容とは逆に進んでいるじゃないか。


 わたし、レオノア様と距離をとるんだったわ。


「アシュリー様、読み終わったらぜひ感想を語り合いましょう」

「え、えぇ。そうですわね」

「姉上、アシュリーさんが困ってるじゃないか。無理を言っちゃダメだよ」

「アシュリー様、迷惑かしら?」


 悲しそうな顔をしてわたしの方を見ているレオノアに迷惑だなんて言えるわけもない。迷惑だなんて……


「迷惑なんかじゃありませんわ。わたくしで宜しければいつでも」


 エリオットの責める視線はちゃんと受け止めさせて頂きます。でもこんな可愛い子の悲しそうな顔は見ていて辛いんだもん。仕方ないよね。

 距離を置くって難しいわ。

 意志薄弱な自分が嫌になる。みんなにバレないようにこっそりため息を吐いていると、さっきから全く口を開かないバージル様が部屋の隅の方を見ていることに気がついた。この雰囲気は見えているわね。

 バージル様の視線の先。窓のところに座れるスペースがあるのだが、そこにこちらに背を向けて座っている少女がいた。背を向けているはずなのに首が捻れて顔だけ後ろを向いているため、ばっちり顔が見える。口紅を塗ったような真っ赤な唇がぱくぱくと開閉し、濁った白い目からはどす黒い液体が流れ落ちた。


「と、図書室も大変素晴らしくもっとここで楽しく過ごしたいのですが、そろそろ喉が渇きませんか?ねぇ、バージル様」

「……そうだな。喉渇いた」


 バージル様の手を少し強めに握ると、それに応えるように握り返された。見えてないふりをするのが大事だ。


「それじゃあ、使用人にお茶の準備をさせますわね。ちょっと失礼」


 レオノアが図書室から先に出ていってしまい、残されたわたし達と不気味な存在。どうせなら一緒に連れて行ってもらいたかった。

 顔色の悪いわたしとバージル様を見て、エリオットが首を傾けた。


「二人ともどうしたんですか? 顔色が悪い」


 すぐ近くにあんなものがいれば顔色も悪くなる。


「わたくしは大丈夫ですわ! でもバージル様には休息が必要です。きっとまだ体調が万全ではないのです」

「そうですね。バージル様、お部屋にお連れいたします」


 エリオットがバージル様の肩に手を乗せ、図書室から出ていこうとした時にエリオットの表情が驚愕で歪む。目を見開いている姿は、信じられないものを見てしまった人の反応だ。


「……なんだ、あれ」

「見えるの?」

「みんなに見えてるのか? あれが?」

「見えてるわ。あんまりあっちを見ないで。見えないふりをして」

「……これ、乙女ゲームだよな? ホラーゲームじゃないよな」

「落ち着いて、エリオット。ゆっくりバージル様の身体から手を離しなさい。ゆっくりよ」


 エリオットはバージル様の肩の上でがたがた震えている手をわたしの指示通りゆっくり持ち上げる。バージル様から手が離れた瞬間エリオットはそのまま卒倒してしまった。


「エリオット様には“あれ”が見えたみたいですね」

「ああ。アシュリーに続いて二人目だ」

「大丈夫かしら」


 倒れているエリオットに二人で近寄り、青白い顔をしているエリオットの顔に手を伸ばす。顔に張り付いている髪の毛が鬱陶しそうなのでそれを払うつもりだったのだが、それをバージル様に止められた。


「何をするつもり?」

「ただ髪の毛が……」

「それにさっきエリオットって呼んでいた。いつの間にそんな仲良くなったの?」

「それ、今重要ですか?」

「一番重要だと思うけど」


 きゃあ! と図書室の出入口の方から悲鳴が聞こえ、振り返るとレオノアと数名の使用人が立っていた。お茶の準備が終わり、わたし達を迎えにきたところだったらしく、そこでエリオットが倒れているのを見つけたレオノアの悲鳴だった。


「エリオット! いったいどうしたの?」


 レオノアがエリオットに駆け寄り、エリオットの身体を抱き起こそうとする。使用人も近寄ってきて何があったのか聞かれたのだが、何と答えたらいいのか分からず黙ってしまう。代わりにバージル様が「突然倒れた。貧血かもしれない」と答えてくれた。

 エリオットが使用人に抱かれて図書室から連れ出されていくところをバージル様と見送る。使用人と一緒にレオノアも出ていってしまった。


 相変わらず窓際には首の捻れた少女がいてこちらを見ている。

 取り残されたわたし達もエリオットの後を追って図書室から出ていくことにした。

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