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第18話

 エリオットから一通り話を聞き、疲れきってしまった。

 話し終えて部屋を出ていくエリオットを見送り寝台に横になる。


 わたしの幸せな毎日はいったいどうなってしまうのかしら? バージル様とレオノアの婚約が決まるのを待つより、わたしも誰かと婚約してしまったらどうだろうか。バージル様との婚約がなくなれば、わたしが悪役令嬢になることもないわ。

 いろいろなシミュレーションをしながら眠ってしまい、悪夢に魘されながら目覚めた時にはもう朝になっていた。最悪の目覚めだ。




「おはよー、アシュリー」


 公爵家の使用人に身支度を整えるのを手伝ってもらい、部屋から出ると部屋の前にバージル様とメイナードが待っていた。


「おはようございます。バージル様、メイナード団長様」

「よく眠れた?」

「ええ、バージル様も体調は大丈夫ですか?」

「問題ない。あと昨夜の話だが、メイナードも伯爵家に向かうことを了承した。アシュリーが戻る時、私もアシュリーと一緒に帰る」


 ちらりとメイナードを見る。

 本当にそれでいいのか? と確認のためだ。今回の静養はバージル様とレオノアの顔合わせの意味も含まれていたはず。その選択肢は許されるのか?

 メイナードはわたしの視線に気がつき、肩を持ち上げて困ったように苦笑いした。


「仕方ない。バージル様はどうしても公爵家ではなく、アシュリー嬢と一緒に居たいらしいからな」

「……ですが」

「一番優先されることはバージル様の体調だ。王妃様もきっと納得するだろう」

「そうですか」


 出来ればバージル様は公爵家に残ってもらい、レオノアと仲を深めて欲しかったのだが、メイナードの言うとおり一番大切なことはバージル様の体調だ。

 こうなることも想定内だ。体調が良い時に行き来するなど二人が交流することは不可能じゃない。やろうと思えば公爵家と伯爵家はどうにでもなる距離だ。

 メイナードもきっと二人が親しくなることを諦めたわけじゃないだろう。


「どうかしたのか? アシュリー、何だか難しい顔をしているぞ」


 考え事をしていると動きも止まってしまうわたしの悪い癖が発動してしまった。そんなわたしの手をバージル様が取り、こてんと首を傾げた。可愛らしい仕種に考え事が吹っ飛んだ。


「体調が悪いんじゃないか? それとも何か心配事か?」

「いいえ! 何でもありませんわ。それよりバージル様達はなぜこちらにいらしたんですか?」

「アシュリーと一緒に食堂に行こうと思って待っていたんだ」

「まぁ、それじゃあお二人を待たせしてしまったのではないですか? 申し訳ございません」

「いや。今来たばかりだから気にするな。じゃあ、一緒に行こう」


 バージル様がわたしと手を繋いだまま歩きだしてしまう。

 背後から「必死だなぁ」とメイナードの声が聞こえた。振り返るとメイナードの他に、身支度を手伝ってくれた公爵家の使用人達がわたしとバージル様のやり取りを扉の隙間から覗いていた。目があった後も隠れるのも忘れ、驚いた顔のままこちらを見ている。

 この状況はあまりよろしくないのでは? と思いながらもバージル様を止めることが出来ず、一緒に食堂に向かうのだった。


 食堂に着くと公爵様とレオノアとエリオットがすでに席についてバージル様を待っていた。

 バージル様と公爵様が挨拶をするのを待ち、更に公爵様より声を掛けてもらうのを待ってから挨拶をする。下手に会話に交ざらず、聞かれたことだけ丁寧に答える。とても気疲れする集まりだったので、朝食とは思えないような豪華な食事を心から楽しむことが出来なかった。


「レオノア、食事が終わったらバージル様に屋敷を案内してさしあげなさい」

「わかりました、お父様」

「いや、必要ない。私はアシュリーと伯爵家に戻るから私のことは構わないでくれ」


 はっきりとした拒絶だ。

 無表情のバージル様は豪華な食事もほんの少量の野菜を口に運ぶだけで、他に手をつけようとしない。まだ体調があまり良くないのか、食欲が戻っていないようだ。豪華な食事よりも、消化にいい軽い食事のほうがよかったかもしれないわ。


「そんなこと言わずに案内させてください。気分転換にもなりますし……ねぇ、アシュリーさん」

「そうですわね。バージル様、レオノア様にお屋敷を案内して頂いたらどうですか? とても素敵なお屋敷ですもの。きっと楽しい時間を過ごせると思いますわ」


 公爵様がわたしに話題をふったのはバージル様を説得してほしくてのことだろう。完全に空気を読んだわたしは公爵様の望む通りにバージル様を説得することにした。

 バージル様が無表情のままわたしを見る。


「その間、アシュリーはどうするんだ?」

「アシュリーさんは僕が案内しますよ。バージル様は姉上が」

「そうだな、それがいい。バージル様はそれでいかがですか?」


 バージル様は公爵様の問いに答えず、そのままわたしを見ている。

 何かちょっと怖いんですけど。


「……何でそうなる? 私達が別々になる必要はない。そうだろ? アシュリー」

「バージル様」

「どうしても案内したいならアシュリーも一緒に頼む。駄目なら必要ない。私はアシュリーと一緒にいる」


 何とかバージル様と、レオノアを二人っきりにしようと企んだが失敗してしまったらしい。失敗しちゃったとエリオットの方に視線を向けると同時に、膝の上に置いていた手をバージル様に掴まれた。

 エリオットから慌てて手を掴んだ主に視線を移す。


「どうしたの? 何で、今、エリオットを見るんだ?」


 わたしを見るバージル様の視線が鋭い。

 何を考えているのか見透かそうとする強い視線が突き刺さってくる。バージル様とレオノアを保身のためくっつけようとしている疚しい気持ちに自覚があったため見られると顔が強張ってしまった。


「気のせいじゃないですか? 別にエリオット様を見たつもりはございませんわ」


 疑わしいと言いたげな顔のバージル様はわたしの手を離してくれない。

 もう食事をするつもりもないようでバージル様は完全に口を閉ざしてしまう。食堂にいる人達も話すことを憚り、一気に空気が重くなってしまった。


「それでは四人でいかがですか? 人数が多いほうが楽しいですし」


 沈黙を破ったのはまさかのレオノアだった。

 可愛らしい声にわたしとエリオットは同時に頷いていた。

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