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第17話


 エリオットの話は驚くべき内容だった。



「わたくしが乙女ゲームに出ている悪役令嬢!?」



 乙女ゲームという単語が前世の記憶に引っかかる。わたしはやったことないのだが、乙女ゲームって確か女性向けの恋愛ゲームのことだったと思う。それが何? と思って説明を聞いていたら、わたしがその乙女ゲームに出てくる悪役令嬢のアシュリーだと言うじゃないか。

 エリオット様は終始、意味が分からないだろうがと言いながらも丁寧に乙女ゲームが何なのかまで説明してくれた。

 黙ってエリオットの話を聞いていると、信じられないだろうが事実だと真剣な顔で続ける。


「とにかく、あんたはこのままだと処刑されるぞ。姉上を殺して、一時は王子の婚約者になれるかもしれないが、そのあとヒロインが出て来てあんたも殺されるんだ。そんな未来は嫌だろ? 頼むから未来を変えてくれ! レオノアを殺さないでくれ」


 わたしの両肩を掴んで懇願してくる少年の顔を見やる。

 嘘をついている顔じゃない。レオノアを助けてくれと顔を苦しそうに歪めているエリオットを困った顔で見つめる。


「何度も言っているではないですか。わたくしはレオノア様を殺めるなんて恐ろしいこと致しません……それよりも」


 今度は逆に私がエリオットの両肩に掴みかかる。


「乙女ゲームって……あなたも日本人?」


 わたしに日本人かと問われたエリオットの目が大きく見開かれた。綺麗な藤色の瞳がじーっとわたしを見ている。驚きすぎて言葉が出ないようで、何度か口を開いては閉じるを繰り返し、ずいっと顔を近付けてきた。

 わたしも無意識に顔を寄せていたらしく額同士がぶつかってしまう。結構勢い良くごちんと当たり、痛みで呻いてしまったわたしとは逆にエリオットは痛みを感じなかったのか驚いた表情のまま「アシュリーも日本人なのか?」と呟いている。


「……おでこが痛い」

「わ、悪い。大丈夫か?」

「……大丈夫ですわ。それよりエリオット様、本当に?」

「エリオットでいい。あぁ、俺も日本人だ……いや、日本人だったというべきかな?」


 エリオットもわたしと同じように日本人だった頃の記憶があるらしいのだ。


「信じられないわ。こんなことがあるのね」

「アシュリーはやってないのか? この乙女ゲーム?」

「やってないわ。前世では乙女ゲームどころか他のゲームも数えるくらいしかやったことないのよ。だから全然分からないわ。よく分からないついでに聞くんだけど、乙女ゲームって女の子がやるものじゃないの? あ、前世は女の子だったとか?」

「……前世も男だよ。最初は妹に無理矢理やらされて始めたんだが、ハマっちゃったんだよな」

「そうなの? まぁ、それは別にどうでもいいわ。わたしが悪役令嬢って……さっきの話は本当なの?」

「ショックかもしれないがさっき言ったことは全部本当の話だ」


 つまりわたしは悪役令嬢で、殺人者で、処刑されて、伯爵家は破滅するってこと!?

 何なの、その絶望しかない未来は。


「ちょ、ちょちょ! ちょっと待ってください。そもそもわたしがレオノア様を階段から突き飛ばさなきゃ何も始まりませんよね? 殺人者ではなくなるわけですし、そうなればバージル様と婚約もしない。ヒロインって子が出て来ても殺されないし、伯爵家も破滅しない! でしょ?」

「さすが日本人。飲み込みが早いな」


 エリオットは満足そうに頷いている。


「姉上の危険は回避されそうだな」

「レオノア様を守り抜かなくては! もっと詳しく内容を聞かせてください。この状況を整理したいわ」

「そうだな。教えてもいいが、聞いたらアシュリーはショックを受けるかもしれないが……」

「わたし、まだショックを受けるの?」

「この乙女ゲームはリリーっていうヒロインが四人の男を攻略するゲームなんだが、そのうち二人は今公爵家にいる」

「それってバージル様と……」

「俺ってことだ」


 エリオットの説明を簡単にまとめるとリリーが誰の攻略をしようとしても最後に立ちはだかるラスボス的存在がわたしで、とにかくヒロインのリリーを虐め尽くし、ハッピーエンドなら必ず処刑される運命だというのだ。


 それならレオノアを殺さず、リリーを虐めなければ?

 

 とりあえず、わたしは公爵家にいる間はレオノアに接触しないほうがいいだろう。

 私の絶望的未来も回避出来るし、レオノアも亡くならずにすむ。あんなに可愛らしいレオノアが死んでしまうなんて嫌だ。しかも殺すのがわたしというのがさらに嫌だ。


「……わたしはレオノア様に近寄らない方がいいわね」

「そうしてもらえるか? 階段じゃなくても何かがきっかけで姉上が殺されでもしたら困るからな」

「わかったわ。後はバージル様とレオノア様が婚約すれば未来は変わる? レオノア様の代わりにわたしがバージル様の婚約者になるんでしょ?」

「アシュリーは他の婚約者候補を出し抜いて王子の婚約者になる。それでアシュリーは更に増長し、悪辣なことばかりするようになる。だが、王子に好かれることはない。王子はリリーを愛して、アシュリーは断罪される」

「じゃあ、やっぱりバージル様とレオノア様に婚約者になってもらいましょう。それが正しい未来になりますわ」


 エリオットも同意見らしく頷いた。

 レオノアを守りたいのだろう。バージル様のことを考えるといずれヒロインのリリーを好きになると分かっていて、レオノアを婚約者にするのはよくないのかもしれない。でもきっとわたしがなるよりいいだろう。間違いない。


「でもいいのか? アシュリーと王子は仲が良いと父上が言っていたが」

「小さな子供は長く一緒にいるとその子を好きになる法則があると昔聞きましたわ。そんなものです」

「小さな子供って……ちなみに前世では何歳まで生きてたんだ?」

「わたしは多分19歳だったと思うわ。エリオットは?」

「俺は多分16。そこら辺がちょっと曖昧なんだよな」

「なんだ、前世でも今世でも私の方が年上なのね。エリオット、ちょっとその可愛らしいくりんくりんの髪をお姉さんに触らせなさいよ」

「……この世界には身分制度がある。年齢よりそちらが優先される。分かるだろ? アシュリーお姉様」


 残念なことに頭は撫でさせてもらえないらしい。

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