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第12話

 その後、男性三人には部屋を出ていってもらいロゼに手伝ってもらいながら身支度を整えた。もちろん前髪もばっちりセットしてもらっている。


「……朝からいろいろあったからお腹すいちゃったわね」

「アシュリーお嬢様。他に気にするべきことがありますよね? バージル様のこととか、旦那様のこととか、寝起きの姿を見られてしまったーとかないんですか? それなのに最初の言葉がお腹がすいたってどういうことなんですか」

「だってお腹がすいたんですもの。今日の朝食は何かしら」


 呆れた顔をしたロゼを引き連れて食堂に向かう。


「あんな変な前髪をした娘ではとてもじゃないですがバージル様に似合いませんよ。見たでしょう?」

「何を言う! あの前髪もすごく可愛かったじゃないか」

「いえ、バージル様にはヴァルトラン公爵のご令嬢のレオノア様がお似合いです。とても可愛らしい方だと評判ですし」

「いやだ! 私はアシュリーと結婚したい」


 バージル様とお父様のやり取りはまだ続いていたらしい。

 しかも寝癖のことまで話題にあがっている。変な前髪とかひどくない? 絡まれるのも面倒なので食堂に向かうのを止めて厨房に行くことにした。


「ロブソンおはよう」

「アシュリーお嬢様。おはようございます」

「朝食の準備中? 悪いんだけど、少し厨房を借りてもいいかしら」

「それはもちろんよろしいですが……何かあったんですか?」

「何もないわよ。ただ甘いものが食べたくなったの」


 ロゼとロブソンは顔を見合わす。わたしが甘いものを欲しがるのはイライラしているか疲れていることが多いのを知っているので、二人は何も言わずにわたしに料理をさせてくれた。

 今日はヨーグルト入りのふわふわのパンケーキを作ろう。三段重ねくらいのやつ。ふわふわのパンケーキを焼くにはちょっとしたポイントがある。生地の混ぜかたや、熱したフライパンを濡れ雑巾に乗せて温度を調節、高い位置から生地をフライパンに落とすとムラがなく綺麗な円に広がり、蓋をすることで生地の中心まで均一に火を通すことが出来るなどなど。ロブソンが手伝ってくれたので、短時間で作り上げることが出来た。

 我が家でもパンケーキがおやつに出たりするがぺたんこなのだ。それに蜂蜜やジャムをかけて食べるのも美味しいが、今は食べごたえのあるパンケーキが食べたい。


「生地が余ったから使用人たちの分も焼いてくださる? おやつに食べられるように。ロゼの分は今お願い。すごく食べたそうにこっちを見てるんだもの……あ、生地にヨーグルトが入ってるから、出来るだけ早く焼いてください」

「アシュリーお嬢様、私も頂いても良いですか? ヨーグルトもそうですが、生地の食感を確認してみたいのです」

「もちろん。わたくし、ここで食べますので、椅子を準備して頂けるかしら」


 ロゼがすぐ椅子を運んできてくれたので、わたしはそれに座り厨房の机でパンケーキを食べ始める。

 香りも良いしふわふわのパンケーキは口の中で溶ける。


「うーん、最高! ふわふわー」


 もぐもぐと一心不乱にパンケーキを食べていると視線を感じる。

 顔を上げると食堂でお父様と言い争いをしていたバージル様が厨房の入り口に立っていた。わたしが食堂になかなか現れないので探しに来たらしい。

 誰かに見られているなんて思っていなかったので上品とは言えない食べ方をしていた。頬にパンケーキをため、ハムスターのようにもぐもぐしていたところを見られてしまった。


「……何で食堂に来なかったんだ? 待っていたのに」


 バージル様は責めるような口調でこちらに近寄ってくる。

 ロゼが素早く椅子をもう一脚持ってきて、わたしの横に並べるとバージル様はそこに座った。バージル様はじっとわたしを見ている。


「……ん、何でそんなにわたくしを見るのですか?」

「なんでもない」


 何でもないと言っているが何でもないという顔じゃない。まだすごい見られているが、なんだろう……バージル様もお腹すいているのかしら?


「……お食べになります?」

「食べさせてくれる?」

「じゃあ、今ロブソンに焼かせますね。少しだけお待ちください」

「一口だけでいい」


 そう言ってバージル様は口を開ける。これって、「あーん」しろってこと? 流石にそれは失礼すぎよね。

 でもバージル様は口を開けたまま待っている。


「食べかけですよ……?」

「構わない」

「もう、仕方ないですわね」


 「はい、あーん」と一口サイズに切ったパンケーキをバージル様の口に運び、ぱくっと口に入れたバージル様が驚いた顔をした。

 バージル様も甘いもの好きなのかしら? まぁ、子供はみんな甘いものが好きか。お菓子のレシピはあんまり知らないのよね。簡単なものしか作れないけど、今度一緒におやつ作りをするのもいいかもしれない。


「驚いたな。伯爵家の食事は美味しいものばかりだ」

「そう言って頂けると嬉しいですわ。料理長のロブソンも喜びます」

「伯爵家に来てからたくさん食べるようになった」

「ふふふ、それはとても良いことですわ。バージル様はもっと食べなければなりませんもの。そもそも朝食は頂いたんですか?」

「アシュリーが支度を整えている間に少しな」

「そうですか……お昼は庭でピクニックしませんか? サンドイッチをロブソンに作ってもらいましょう」


 朝食は本当に少ししか食べていなさそう。

 出来るだけバージル様と食事をとるようにしたほうがいいかもしれない。監視という意味もあるが、どうせ食べるなら人数は多い方がいいわ。わたしもバージル様も。


「……そうしよう」


「ダメですよー、バージル様。さっき約束したばかりじゃないですか。今日はヴァルトラン公爵家に行くって」


 バージル様と話をしている最中にメイナードが現れた。

 どうやら私達の会話を聞いていたらしい。メイナードの話によるとバージル様はヴァルトラン公爵家に行くことにしたようだ。

 それなら早く言ってくださればよかったのに。


「まぁ! そうだったのですか? 今日、ヴァルトラン公爵様のところに行ってしまわれるのですね。ヴァルトラン公爵様のところに行っても、健やかにお過ごしください」

「違う!!」


 突然のお別れに寂しいなと思っているとバージル様が立ち上がって怒った顔をする。


「公爵のところには挨拶に行くだけだ! 夕方までには絶対帰ってくる」


 メイナードがバージル様の後ろであちゃーっと額を押さえ、困った顔をしているのが見えた。わたし、また余計なことを言ってしまった?


「やはり今日は公爵のところには行かない!」


 やっぱり余計なことを言ってしまっていたらしい。

 口をへの字に曲げ、絶対だと言わんばかりのバージル様の姿に胃が痛くなってきた。メイナードの視線が悪いのは私だと言っている。きっとメイナードがヴァルトラン公爵家に足を延ばすようにバージル様を説得したのだろう。

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