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第10話

「バージル様?」

「……アシュリーと話していたら眠くなってきた」


 肩に頭を乗せ首筋に甘えるように頬を寄せてくるバージル様の頭を撫でた。本当に眠くなってきているようで、触れているところが温かい。眠くなって体温が上がっているのだろう。

 このまま眠られ、身動き取れなくなってしまったら困るわ。


「寝台に移動しましょう」

「ん」


 今日は仕方ないのでわたしの寝台に寝てもらおう。

 一緒に寝るのも二回目だし、もう別にいいわよね。照明代わりの蝋燭を消して二人で寝台に入り、バージル様が壁側に、わたしは手前側に横になった。布団を掛け、読みかけだった本をベッド脇のナイトテーブルの上に置き、柔らかい枕の上に頭を乗せるとバージル様がこちらを見ていた。


「どうかしましたか?」


 横を向いてバージル様の方を見る。

 思ったよりも近くにバージル様の顔があった。じっと見つめていると額同士をコツンとぶつける。


「アシュリー、私とずっと一緒にいてくれるか?」


 黒い瞳が不安そうに揺れている。


「……ええ、いますからゆっくり寝てください。バージル様が望む限りおそばにおります」

「うん、ありがとう……おやすみ。アシュリー」

「おやすみなさいませ、バージル様」


 子供二人分の熱で布団の中はすぐに温かくなった。その温もりはとても心地よく、わたし達二人は抗うこともなくその眠りの中に落ちていく。バージル様が怖い夢を見ることなく、朝までゆっくり眠れますようにと祈りながら。




「あ、アシュリーお嬢様、これはいったいっ……」


 身体を揺すられ意識が浮上するもまだ眠い。

 声の主はロゼで、朝になったから起こしにきたのだと寝惚けた頭で分かっていても、目を開けることが出来ない。


「起きてください! 何で寝台にバージル様がいるのですか!?」


 ぼそぼそと小さい声で何度も呼びかけられ、ゆっくり身体を起こすと顔を真っ青にしたロゼがこっちを見ていた。何をそんなに慌てているのよと口許を手で隠し、大きな欠伸をしながら軽く伸びをする。


「何でバージル様がここに?」

「バージル様?」


 壁側というよりも、壁にしっかり背中をくっつけてまだ眠り続けていた。

 あんな隅に寄ってどうしたのかしら? 寝にくくないのだろうかとぼんやり眺めていると、ロゼがアシュリーお嬢様のせいですよと口を尖らせる。


「私のせいってどういうこと?」

「アシュリー様は寝相が悪いんですよ。前にバージル様の寝台に寝惚けて侵入した時も、こんな風にバージル様を壁に追いやって眠っていたじゃないですか」

「うそ!」

「あら、自覚なかったのですか? 自分が毎朝壁に顔を埋めて寝ていることに」

「自覚なんてなかったわ」

「毎朝ついている前髪の寝癖の原因が分かってよかったですわね。それよりも、何でここにバージル様がいらっしゃるのですか?」


 ロゼの若葉色の瞳が訝しんで細められる。


「昨日の夜にいらっしゃったのよ……眠れなかったみたいだったんだけど、話しているうちにここで眠ってしまったのよ」

「……そうですか。何だかんだで、アシュリーお嬢様とバージル様はよく一緒に寝てらっしゃいますよね」

「子供二人が一緒に寝るくらい大したことないでしょ」

「王子様を壁に挟んで怪我させたら大変ですよ。この事が旦那様にバレたらどうなってしまうか、考えただけで恐ろしい」

「ロゼ! お父様には秘密に……」


「何が秘密なんだ?」


 ヒエッ! 噂をしていたら部屋に突然お父様が現れた。

 一瞬慌ててしまったが前半の会話は聞こえていなかったようだし、わたしとロゼの陰に隠れてバージル様の姿は見えていない。今は落ち着いて、冷静に対応しなければ。


「何でもないですわ! お父様が起こしにきてくださるなんて……どうかなさったのですか?」

「いや、部屋の前を通ったらお前達の声が聞こえたから寄っただけだ。お客様がいるんだ。朝から大きな声を出してはしたないだろ」

「ごめんなさい。お父様」


 後ろ手でバージル様に掛けていた布団を引き上げる。顔の部分はわたしで隠しておけばバレないだろう。あとはバージル様がこのまま眠っていてさえくれればーー


「……アシュリー、もう朝か?」


 なんてタイミングの悪いことか。

 布団からにょきっと手が伸びてきてわたしの腕を掴んだ。もちろん相手はバージル様で、寝起きの掠れた声にお父様がギョッと目を見開く。そりゃそうだわ、バージル様が娘の布団の中から出てきたら普通びっくりするもの。

 ロゼも頭を抱えてしまっている。


「……何でみんなここに集まっているんだ?」


 寝台に肘をつき、気だるそうな表情で室内を見渡していた。よく見ると扉の所にメイナードまでいる。バージル様の護衛なので、もしかして一晩部屋の近くに待機していたのかもしれない。

 壁に寄りかかってこちらを見ているメイナードを見ていると膝の上にバージル様が頭を乗せてきた。


「どうしたのですか?」

「まだ眠い……」

「眠ることも大事ですけど食事も大事ですよ」

「ああ。ちゃんと食事も食べるから……」


 もう少し一緒に寝てと言うバージル様に同感ですと頷き返した。まだ眠いわたしにその言葉はとても魅力的に聞こえた。

 また寝てしまいそうな雰囲気を感じ取ったお父様が「バージル様!」と慌て出す。


「あの、アシュリーがご迷惑をおかけしませんでしたか?」

「迷惑などかけられていない」

「……そうですか。くれぐれも軽率な真似をなさいませぬように。二人は若く、あの、誤解をされる可能性があります。その」


 バージル様はよく意味が分かっていないようできょとんとしている。お父様も結構失礼なことを言ってるわ。バージル様だけじゃなく、今ここにはメイナードもいるのに。

 わたしもロゼと同じく頭を抱えたくなってしまった。


「ははは、伯爵が心配するのも分かる。お二人はまだ子供とはいえ仲が良すぎるようだからな」


 メイナードが突然声を上げて笑いだす。


「ダメですよ、バージル様。婚約者でもない男女が同衾しちゃ」


 そういう問題か!と思わず心の中でツッコミを入れてしまった。

 わたしとバージル様はまだ子供だし、下心は全くない。もちろんバージル様にだってないはずだ。

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