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05.マリー視点

 はじめて入った冒険者ギルドは、とても静かな場所でした。

 王都にいたときに見かけた冒険者の方々の元気な様子から、とても賑やかな場所だと思っていたのですが、どうやら私の勘違いだったみたいです。

 辺りを見回して受付を見つけた私は、まずは受付に向かってみることにしました。

 今日から、ここが私の仕事場です。

 これからお世話になる冒険者ギルドのみなさんに好印象を与えようと、私は背負っていたバックパックの紐をぎゅっと握って、明るく大きな声で受付のお姉さんに話しかけました。

「私はマリーって言います! 冒険者になりにきました!」

 そんな私を、受付のお姉さんは耳に手を当てて見つめてきます。もしかして、挨拶の声が大きすぎたのでしょうか……?

「元気なお嬢さんね。でも、いまは時間帯が時間帯だから人が少ないけど、朝や夜はたくさんの人がここを訪れるの」

「なるほど。人が少ないのは、いまがお昼ちょっと過ぎだったからなんですね」

 受付のお姉さんの言葉に、私は声の大きさだけはちょっと抑えめにして、明るく元気な声を返します。

 冒険者ギルドの受付だから、お姉さんはきっと冒険者ギルドに詳しいはずです。それに対して、私は今日冒険者ギルドに来たばっかりの初心者です。

 ――亀の甲より年の功。

 ――郷にいらば郷に従え。

 王都で暮らしていたときに親方から耳にタコができるほど聞かされた言葉だったけど、この言葉は王都の工房であっても、冒険者ギルドであってもきっと変わりません。

 だからこそ、お姉さんとの会話から、冒険者ギルドの常識を少しでも身につけなくっちゃ。

「そう。で、そんな人が多いときに大きい声を出されると他の人の迷惑だから止めて欲しいのよ」

「わかりました!」

 私は、受付のお姉さんの言葉に素直に頷きます。

「それで、冒険者になるんだっけ? えーっと……まずは冒険者の説明からするわよ」

 そんな前置きをして、受付のお姉さんは私に冒険者の説明をしてくれました。

 ほとんどが知っていることばかりでしたが、それでもこうして説明を聞いていると、私が冒険者になるんだという実感が段々とわいてきます。

「あなたも知ってると思うけど、すべてのひとたちには国外に移動することができない制約の魔法がかけられているわ」

 受付のお姉さんの言う通りです。

 そして、それこそが私が冒険者にならなきゃいけない理由に関わっています。

「もちろん、冒険者になってもそれは例外じゃあない。だけど、世界を股にかけて活躍できるような有能な冒険者だと認められればその制約は解除されるわ」

 そう。私は有能な冒険者になって、自由に国外に移動できるようにならなきゃいけません。

 冒険者にならなくっても、王城の役人さんから許可を貰えたら、一時的に他の国に行くことはできます。

 だけど、役人さんからの許可は手続きが複雑ですし、それになにより、いまの私に許可が降りるとも思えません。

「だから、冒険者になったからっていきなり喜び勇んで他の国に飛び出したりしないようにね。たまにいるのよ。有名な冒険者の物語に憧れて、すぐ国外に出ようとする馬鹿が――と、説明はこれで終わりよ」

 受付のお姉さんからの説明を聞き終えた私は、用紙に必要なことを記入して冒険者になりました。

 初心者冒険者マリー、誕生です。

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