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03.アーノルド視点

 同業者たちのがやがやとした騒ぎ声が聞こえてきたのは、俺が冒険者ギルドに併設された食堂で夕食を摂っているときだった。

 なにか珍しいことでもあったのだろうか?

 明らかに動揺を含んだその騒ぎ声に、俺は食器に向けていた顔を騒ぎ声の方向へと向ける。

 騒ぎ声の中心にいたのは、昼過ぎに見たハンマーと剣を提げた少女だった。実用的なデザインのなめし革の服は血にまみれ、真っ赤になっていた。

 その光景に少女が怪我をしているのかもしれないと心配した俺だったが、少女がほどなくして冒険者ギルドの受付に置いたものに俺はその心配が杞憂だったことを理解する。

 少女が受付に置いたのは、ギルドが発注しているモンスターの討伐依頼で、モンスターを討伐した証拠として扱われるモンスターの部位だった。

 少女の装備を良く見れば、背に提げたハンマーの先端に赤く染まった肉片がこびりついている。

 どうやら、あのハンマーでモンスターを撲殺してきたのだろう。

 受付に置いた討伐部位と引き換えに報酬を得た少女は、しかしその報酬を見てガクッと肩を落としているようだった。

「これだけなんですか……」

 落ち込む少女の様子は、報酬の額に不平不満を言って額を釣り上げようとしている様子ではない。

 ただただ、報酬の少なさに愕然としている様子だった。

「いったい、なにを討伐してきたんだ?」

 そんな少女を先輩冒険者として放っておけず、俺は彼女に声をかけてみることにした。

 報酬の少なさに震えているのは、それほど金に困っているのか、それとも自分の腕によほどの自信があるのか。

 どっちかまでは俺にはわからないが、冒険者になって早々、モンスターの討伐依頼に向かうような命知らずだ。

「俺はアーノルド。これでも、冒険者としてやってきた期間は長いんだ。きっと、お嬢ちゃんに色々とアドバイスできると思うぜ」

「えっと、その……」

 俺からの突然の言葉に、戸惑った様子で視線を反らす少女。

 まあ、俺のような初対面の男性がいきなり話しかけてきたのだ。年頃の少女としては当然の反応だろう。

 そして、少女が向けた視線の先に置かれているモンスターの討伐部位を見て、俺は目の前の少女がどのモンスターを討伐していたのかを理解する。

 ゴブリンだ。受付に置かれていたのは、ゴブリンを討伐したときの証拠として扱われるゴブリンの耳だった。

「ゴブリンか。確かに、そりゃ安いだろうな」

 このゴブリンというモンスターは、この町の付近によく出没するモンスターだった。

 あまりにも良く出没するものだから、冒険者ギルドも通常の依頼というていでは発注を出しておらず、常時依頼という特別な形式で依頼を掲示している。ようするに、討伐部位さえ持ってくればいつでも報酬を払いますよって形式だ。もちろん、そんな形式だけあって報酬は安い。

「見たとこ、お嬢ちゃんは成り立てみたいだしな。良ければ、俺が色々と冒険者のいろはって奴を教えてやろうか?」

 少女に警戒心を抱かせないように優しく笑いかけながら言ったつもりだが、きっと少女の側からしてみれば怪しいことこの上ないだろう。

 年端もいかない少女に優しい声をかける俺のような男性。俺自身が少女だったとしても、間違いなく警戒する。

 だが、それでも、俺は冒険者になったばかりでモンスターの討伐をしてくるようなこの命知らずの少女をなるべく危険な目を合わせたくなかった。

 彼女のような子供が金欲しさに命知らずな無茶をして死んでしまったら、それこそ目覚めが悪い。

 俺からの申し出に数秒ほど視線を空にさ迷わせて悩んでいた少女だったが、彼女のなかで結論が出たのか、俺を力強い目線で見上げながら少女は口を開く。

「私、マリーって言います。アーノルドさん、お願いします!」

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