7.社員登録しましょう!
片側だけ開けっ放しになっていた扉から、この前の会社見学兼面接でお世話になった仁丹さんが顔を出した。
「シェリルさん。そこには寄りかからないでと前にもお伝えしたはずですよ。」
「☆&@¿*‰◆。」
「全く…仕方のない方ですね。」
シュンと項垂れた桜色の女性はシェリルさんというらしい。
そしてお互いに違う言語を話しているのになぜか通じ合っているようだった。
「市村様、おはようございます。朝からお騒がせして申し訳ありません。」
「いいえ。大丈夫です。」
シェリルさんは仁丹さんに近付くと耳元で何か呟いている。
「え?ああ、そうですよ。」
仁丹さんの言葉に、シェリルさんはガックリと膝から崩れ落ちてぶつぶつ独り言を呟いている。
そのシェリルさんの隣には、キリッとした表情の仁丹さんが何事もなかったかのように佇んでいる。
ええー…?
何でしょうかこのカオスな状態は。
さすがに会ってすぐの外人さんに突っ込みを入れる勇気を持っていない私は苦笑するしかなかった。
「本日から社員の一員としてよろしくお願い致します。それに伴いまして市村“様”から市村“さん”へ敬称を変更させていただきます。それでは初めに市村さんの社員登録をしますので、こちらへ。・・・ほら、シェリルさんもいつまでもメソメソしてないで行きますよ。」
フラフラ立ち上がったシェリルさんは、自分の両手で顔をパンッと叩くと、仁丹さんに続いて歩き出した。
私も2人の後ろ姿を追いかけるようについて行った。
今日も会社見学の時と同じ部屋だったので、仁丹さんの隣にシェリルさんが座り、私は仁丹さんの正面に座った。
シェリルさんはさっきまでと別人のように真面目な顔で座っていた。
「初めに本日の予定ですが、これから社員登録を行い、終わりましたら社長からのお言葉を賜ります。その後一ヶ月は勉強会と今後の打ち合わせがありますので実際にお店を開店できるのは早くて一ヶ月後になりますのでご了承ください。」
「はい。わかりました。」
「では社員登録を始めます。まずは左の手の平を上に向けて出していただけますか?」
「? はい。」
「失礼します。」
仁丹さんは私の人差し指を軽く触り、少し湿ったコットンで指先を撫でるように拭いた。
そこにペンのような物を押し当てて
チクッ
「いたっ!」
ほんの一瞬指先に痛みが走ると、指先から少量の血がぷっくりと出ていた。
え?何で血が出てるの??
社員登録するんじゃなかったっけ???
突然の出来事にポカーンとしてる私。
その間にも仁丹さんは雫型の小さな石が付いたアクセサリーを血が出ているところに押し当て始めた。
透明の綺麗な石がみるみる血の色に濡れていく。
「あの、なにを・・・」
「もう終わりますので、動かないで。」
仁丹さんが私の手を掴んでいるので、そのままじっと石を見つめていると、透明だった石がだんだんと赤みを帯びて石を濡らしていたはずの血が無くなっていた。