5.いざ!会社見学へ!
「お気遣いありがとうございます。それでは次に二枚目に移らせていただきます。」
二枚目には社長の挨拶から始まり所在地や従業員数が書かれていた。
「こちらについては後で黙読いただければ結構ですので、三枚目にいきましょう。」
二枚目についてはこれといった説明もなくアッサリ終了し、最後の三枚目に移った。
三枚目には履歴書のように氏名、生年月日、住所などを記載する箇所があり、下方には箇条書きで《志望理由》や《入社後やりたい仕事について》とその他にも何項目か書かれていた。
「こちらは社長より預かりました書類で、見学に来られた方に記入していただきたいとのことでした。よろしければ、お名前などのご記入をお願いできますか?」
「はい。もちろんです。」
ボールペンを貸りて氏名や生年月日をサラサラと記入していく。
「こちらでよろしいでしょうか?」
記入した書類とボールペンを仁丹さんへ渡す。
「拝見いたします。…はい、結構です。ありがとうございます。」
仁丹さんは書類を机上へ置くと小さく咳払いをした。
「それでは、今回弊社では『好きなことを仕事にする』という初の試みをしようと計画しております。まずは市村様が弊社に就職された際にどういった事をされたいのかをお聞かせ願えますか?」
「は、はい。…子供の頃からやりたいと思っていた夢があります。それは駄菓子屋です。」
「駄菓子屋…ですか?」
先程までキリッとした仁丹さんの表情がキョトンとしている。
「はい。昔、近所にあった駄菓子屋さんには子供達の笑顔が溢れていました。駄菓子屋さんは子供たちの交流の場であり、お金の使い方を学べる場でもあったと思っております。今の子供たちは駄菓子に限らず、物を“親に買ってもらう”ことはあっても“自分で買う”ことができる機会が少なくなったと思いますので、そういう貴重な場所を私の手で蘇らせたいと考え、今回のチラシを見て募集させて頂きました。」
「ありがとうございます。では市村様としては駄菓子屋でお金の使い方を学べる場を作りたい、ということでしょうか?」
「それもありますが、子供も大人も交流できる場にしたいと思っています。」
「わかりました。それでは次にお聞きしたいのは…」
それから暫く仁丹さんから質問に私が答え、私が答えたことを仁丹さんが書類に記入していくのが続いた。
「質問は以上になります。ありがとうございました。」
ニッコリ微笑んだ仁丹さんの手元の書類は、先程私が答えた内容がビッシリ書かれていて、ほぼ白紙だった紙は文字で真っ黒に変わっていた。
突然面接のような感じになったから受け答えがしっかり出来てたかとか支離滅裂なこと言ってなってなかったか今更になって心配になってきた。
いただいた書類をまとめてカバンにしまう。
「お疲れさまでした。合否につきましては後日改めてご連絡させていただきますので、それまでお待ちください。」
…あれ!?やっぱりさっきの面接だったらしい!
驚きで固まる私をよそに仁丹さんはニコニコととてもいい笑顔をしている。
途中から何となく「あれ?なんか面接みたいに詳しく聞いてくるな…」って思ってたけど、まさか会社見学でさらっと面接挟んでくるとは!
キリっとした表情よりも笑顔のほうが仁丹さんの雰囲気にはとてもあっている気がした。
それにしても…仁丹さんはなかなかの策士だったようである。