3.いざ!会社見学へ!
翌日。
仕事が終わりパンツスーツに身を包んだ私は見学先の会社がある最寄り駅から徒歩で向かっていた。
昼食は時間があまりなかったので、コンビニでおにぎりと野菜ジュースを買ってササっと済ませておいた。
周りの景色を眺めながら歩いていると、建物のガラスに自分の姿が映りこんだ。ビル風で少し乱れた髪を手櫛で梳くと毛先まで引っかかることなくするりと指の間を通り抜けていく。その様子に思わず笑みがこぼれた。
昨日は馴染みの美容師さんにカットとトリートメントをお願いした。その方は黒髪ロングが大好きで、「トリートメント使用前後の写真撮らせて!」と髪の撮影をお願いされていた。そのお返しにと毎回ワンランク上のトリートメント剤を使ってくれるのだ。おかげで艶々サラサラいい匂いになって今回も大満足である。
再び歩き出し駅前の雑多なところを抜けて、閑静な住宅街に景色が変わってきたころ正面に二階建ての白い建物が見えてきた。
「あそこかな?予定より少し早く着いちゃったけど会社の前で待ってればいいよね。・・・ん?」
まだ距離があるけれど、入り口に誰かが立っているように見える。徐々に近付いていくと紺色のベストに同色のスカートを着た女性だった。ふわふわした栗色の髪は右耳あたりで緩く束ねられており右肩から前に下ろされている。その女性は周辺に植えてある木を眺めているようで、こちらにはまだ気が付いていない。
予想だけど、昨日電話くれた人かな?
じーっとその人を見つめていると目が合った。その人は一瞬ビクッと身体を震わせたがすぐににこりと微笑んでそのまま綺麗に一礼した。
あ、驚かせちゃった。無表情でじっと見てくる女が居たら怖いよね。
心の中で「ごめんなさい」としておいた。
「こんにちは市村様。お待ちしておりました。」
「こんにちは。市村です。今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。どうぞ、中へお入りください。」
女性に促されて建物内に入ると正面に受付があり、右側には建物の奥に繋がる廊下が見えた。内装は外装と同じ白を基調としておりとても清潔感がある。壁と床もピカピカに磨かれて輝いていた。
す、すごいキレイ!傷も一つもない!!
私が勤めている会社のロビーは基本黒で統一されていて床には黒地に赤で装飾された絨毯が敷かれているから白いロビーで絨毯を敷くことなく傷もないとは・・・驚きが隠せない。
パンプスで来たことに若干後悔しつつ、床を傷つけないように爪先立ちのような変な歩き方で女性について行く。
不思議なことに受付には人がいなかった。それどころか建物内には人の気配がほとんどないように感じる。けれど正直今は誰もいなくて良かったと思った。
こんな変な歩き方見られるとか恥ずかしい・・・。
遅れないように女性について行くと、一つの扉の前で立ち止まり扉を開けるとこちらに振り返った。
「奥の席にお掛けになってお待ちください。今お茶を持ってまいります。」
「ありがとうございます。失礼します。」
室内に入ると部屋の真ん中にローテーブルがひとつとソファーが向かい合うように置いてあり、右の壁には異国の街並みが書かれた絵画が飾ってあった。絵画が見える位置に座ると限界ぎりぎりだった脹脛をそっと擦った。
ふぅ。何とか床を傷付けずに歩くことができたかな。
謎の達成感を感じつつ、女性がお茶を持って戻ってくるまで脹脛を擦り続けたのだった。