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『こうして少年はまたひとつ大人になった』(4)

 

 ◇◆◇◆◇



 遺体の状況とか葬儀の話とかは省略する。喋りたくもないし、誰も聞きたくはないだろう。

 ただ一つ言えるのは、そういう不幸とか不運としか言いようがないことが、実際にあったという話。


 小説みたいだけど事実(リアル)な話。

 よく事実は小説より奇なりとか言うけど。

 ()()()()()()()()()()()()

 事実でも小説でも、起こる内容はあまり変わらない。


 違うのは()()()()()()()()()()()()で、

 ()()()()()()()()()()()()である、

 ってことだけ。


 そう考えるようになった。



 ◇◆◇◆◇



 ──それからどうしたんだっけ。


 ああ、そうそう。

 葬儀とか諸々の手続きが済んで、最初、俺は母方の伯父さんの家に引き取られる予定だったらしい。


 でも色々あって。その話自体、気が付けば立ち消えになっていた。

 主な──というかほぼ全ての原因は()()()()にあった。

 まあ当時を振り返ってみれば、伯父さんの判断は至極まっとうなものだ。


 伯父さんの家には受験を控えた息子さんがいたし、それ以上に、俺が当時まわりの人間または器物に対して無差別かつ全方位的に行っていた凶行・悪行(あくぎょう)蛮行(ばんこう)・奇行……平たく言えば徹底的殲滅(せんめつ)的破壊活動…はどう考えてもネジがぶっ飛んでいた。


 当然、俺を引き取りたいなどと名乗り出る、奇特(きとく)な親族がいるはずもなく。めでたく俺はそっち系の(要するに俺みたいな人間を必要最低限の範囲で養育するための)施設に入れられることになった。


 これも極めてまっとうな判断だったと思う。実際、俺もそれでいいと思っていた。


 いっそ親族も知り合いも誰もいないところに行った方が、余計な気遣いも詮索(せんさく)も受けずに済むはずだ。



 ◇◆◇◆◇



 ──で、いよいよ施設に送られる日が迫りつつあったある日。たしか都内某所で今年の最高気温が観測された、くそ暑い夏の盛りのあの日。


 ──俺の前に曜子さんが現れた。



 ◇◆◇◆◇



 ──あの日。


 昼過ぎに不意に玄関のチャイムが鳴ったが、俺はいつも通りのシカトを決め込んでいた。玄関のドアを開けるつもりはなかった。会いたいやつもいなかったからだ。


 警察の関係者が来たなら、予め携帯に連絡があったはずだ。高校には入学式以来行ってないし、友達にも誰とも会っていない。

 なにより俺の徹底的殲滅的破壊活動は学校中に知れ渡っていたから、わざわざ訪ねて来るやつがいるはずもない。

 ──だったら、新聞とか宗教の勧誘でチャイムを鳴らしてるってところか──と俺は当たりを付けた。

 

 もう少し前は、気まぐれにドアを開けることもあった。理由はむしゃくしゃしてたから。誰でもいい、この衝動をぶつける相手が欲しかったから。いわば()()()を求めて。


 ──そんな気分のとき、俺は新聞だとか宗教の勧誘に来た哀れな人間に罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせさらに肉体言語を駆使(くし)して丁重にお引き取り願うことにしていた。


 ──まあお引き取り願う前に、あちらが途中で悲鳴を上げて逃げ出してしまうか、近所から通報を受けて駆け付けた警官にこちらが取り押さえられてしまうことの方が、ずっと多かった訳だが。



 ◇◆◇◆◇



 ──だが、あちらの業界にもブラックリストみたいなものが存在するのだろう。最近は勧誘に来るやつもめっきり見なくなった。

 だからいまチャイムを鳴らしてるやつは、そんなブラックリストの存在も教わっていない、哀れな新米勧誘員かなにかに違いない。


 ──でもこいつは幸運だ。


 俺はもう飽きていた。破壊活動にも、その他人生における諸々一切合切(いっさいがっさい)について。

 だから、施設に行く。行ってぼおっと何もせず過ごす。 自殺とかは考えていない。今のところは。あの事故を引き起こした張本人が、法廷で裁かれて刑罰が確定し、涙ながらに謝罪する姿を見るまでは、せめて生きていようと思う。

 それくらいは見届けてやらないと。親父とお袋に申し訳ないと思っていた。


 裁判が終わったからのことは、まだ考えてもいない。生きていても死んでしまっても。どーでもいい。心底。



  ◇◆◇◆◇



 ──またチャイムが鳴る。

 いったい何回目だ。シカトすると決めていたが、流石にイラついてくる。で、またチャイムの音。


 ──よし、いいだろう。


 売られた喧嘩(けんか)は買おう。どうせ間も無く施設に入る身だ。施設が少年院に代わったとしても、大差はない。俺はこの哀れで不運な人間の顔をおがんでやろうと、インターホンの液晶画面を覗いた。


 ──女が立っていた。


 白のノ─スリ─ブと、肩まで伸びた、柔らかそうで癖のない黒髪。頭にはやたら(つば)のでかい麦わら帽子。背後には入道雲が湧き立つ、抜けるような青空。

 夏──という言葉を、全身全霊で体現したような女が立っていた。


 女の目は、他のものは一切視界に入っていないかのように真っ直ぐこちらを見ている。すなわち玄関のインタ─ホンを。


 身じろぎもせず。





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