表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

『こうして少年はまたひとつ大人になった』(2)

 

 ◇◆◇◆◇



 城の名を『胡桃割城(くるみわりじょう)』という。


 お椀を伏せたような形をした丘陵(きゅうりょう)の頂上付近に、天守閣のある本丸が築かれている。

 そしてこの本丸を中心として、丘陵の頂上から丘裾に向けて、斜面を削るように二の丸、三の丸が楕円状に広がっていた。


 この城は規模こそさほど大きくないものの、北は鋭い穂先を揃えた気高い山々、東は深い水掘、西には轟音けたたましい急流に囲まれ、まさしく天然の要害と呼ぶに相応しい、威厳と風格を備えている。


 そして本丸や二の丸には、有事に備えて櫓や蔵がいくつも建てられ、白く塗りかためられた漆喰の壁には、弓矢鉄砲を放つための銃眼(じゅうがん)があちらこちらに穿(うが)たれている。

 いまは時代が時代だけに、城全体が眠っているように映るが、在りし日の威勢と風格が、隠しようもなくそこにはあった。



 ◇◆◇◆◇



 ちなみに、この『胡桃割城(くるみわりじょう)』という、一風変わった名前の由来には諸説あるらしい。


 ──曰く、天守閣のある本丸のかたわらに、胡桃の大木が昔から自生していて、長きに渡り御神木として大切に(あが)(たてまつ)られてきたから──という説。


 ──曰く、この城が胡桃の硬い実のように堅牢な作りで、割る(落城させる)ことが容易でない難攻不落の城であると、広く近隣に知れ渡ってきたから──という説。

 他にも諸説あって、はっきりしない。


 今もって、自称郷土歴史風俗保護なんとか組合(正式名称は不明)の組合員達と、公民館の爺さま連中が、日夜喧々轟々(けんけんごうごう)の言い争いを繰り広げているらしい。


 正直、あまり興味も湧かない。

 ──というか、できれば関わり合いたくない。


 だってこの前見たときなんか、自称郷土なんとか員さんの目、血走ってたし。爺さまの方は爺さまの方で、口角に泡飛ばす熱弁がすぎて、入れ歯が宙に舞ってたし。

 ──別の意味で、見物する価値はあるような気がしてきたが。



 ◇◆◇◆◇



 ──まあ名前の由来はわきに置いといて、何故こんな冬のくそ寒い朝に天守閣に登って街を見下ろしてるか。

 それは単純に、俺がここからの景色を気に入っているからだ。


 さらに言えば、去年の夏。

 ()()()()()()()()()()()()以降。


 俺がこの城に[居候(いそうろう)]させてもらっていて、天守閣への出入りを自由に許可されているからだ。


 ──うぅ、居候

 なんだか聞くだけで空しく、肩身が狭まる。

 ──『居る』に『候ふ』と書いて[居候]

 アルファベットだとisoro(oは長母音)。

 リピ─トアフタ─ミ─

 ──isoro


 間違っても歯槽膿漏(しそうのうろう)とかではない。音の響きはすごく似ているが。

 ──うん。

 漢字にしようが、アルファベットにしようが、情けなさは変わらないことを確認。


 システムオ─ルグリ─ン。我、コノ城二居候ス。ユエニ我アリ。

 ──いかん。

 あまりの情けなさに理性と感情がショ─トしてきた。



 ◇◆◇◆◇



 ──俺がこの城に居候させてもらうことになった経緯を、有りていに言おう。俺の家族がまだ東京に住んでた頃。より正確に言えば、俺が近所の都立高校に入学する当日。


 両親が死んだ。

 俺を高校まで車で送り届けたその帰り道に。



 ◇◆◇◆◇



 ──思考が記憶にアクセスしようとしている。

 滅多に思い出すこともない記憶だから、アクセスには少し時間がかかる。少し経って、ピ─っと温かみのまるで欠如した電子音が脳内に響き、無事アクセスが成功したことを告げる。


 ──うん、大丈夫なようだ。


 まあ忘れようと思って忘れられるようなシロモノではない。いっそ綺麗さっぱり忘れられたらどんなにか楽だろうに。脳の海馬(かいば)というやつは余程意地悪く出来ているらしい。


 さすがは俺の身体の一部だ。



  ◇◆◇◆◇



 ──ああ、また寄り道が過ぎた。


 では久々に振り返ってみるとしよう。もう過ぎ去った日のことなのだから。


 だから大丈夫。

 誰に言い聞かせるでもなく、呟く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ