月の光
「そっちに逃げたぞぉぉ!! 追えぇ!!」
怒声が飛び交う真夜中の森林。
そこは狼たちの戦場となっていた。
「兄弟よ、なぜ逃げ出したんだ。」
「群れ全体が腐ってたからだよ。」
「確かにボスが変わってからは腐ってたかもなぁ。でもわざわざ逃げなくてもいいんじゃないのか?? 俺もお前も強い。おれたちならあれぐらいのボス潰せただろ??」
いいや、たかだか狼一匹。わざわざ白狼の手を借りなくとも殺せた。
だが、俺がしたかったのはそんなことじゃない。
だから逃げたんだ。白狼ならもしかしたらわかるかも、と思っていたが……
「お前の群れの掟は逃げ出したものは殺す。だろ?? なら俺を殺せよ、白狼。それとも、もしかしてビビってんのか……??」
「ふっ、何がビビってるだよ……憎き実の兄を今ここでちゃんとした理由で殺せるんだぜ?? 武者震いが止まらねぇぜ。」
そうか、とだけ言い俺は半歩後ろへ下がる。
それに合わせ白狼が半歩前に出る。
その半歩により俺は月明かりの中、白狼は木の陰に入った。
昔から月明かりには無限の力が含まれており狼はその特殊な体毛でその力を自分のものにするのだという。
月の光を体内に取り込んで俺の体はあわく輝き始めた。
ついに実の兄弟が牙を交える時が来た。