全身全霊で
ザクッ……ザクッ……
処女雪を踏みしめる音……
それにかぶさるようにして聞こえる足音……
かすかに聞こえる乱れた息遣い……
「お前はなんでつけてくるんだ……お前が俺の後を追う必要はもうないはずだ。」
「おいらは黒狼さんに弟子にしてほしいんだ!! だから、追いかけてるんだい!!」
「なんで俺なんだよ。おれじゃなくても白狼だとか黒上だとかがいるだろう。」
俺は群れの中で一匹浮いた存在だった。
もちろん過去形だ。
灰色の毛の狼の中で俺は一人黒いけをしていた。
長は悪魔の子だという。
もしかすれば本当にそうなのかもしれない。
群れの中で年に関係なく一匹ずば抜けて身体能力が高く、知能も高かった。さらに、狩りの才能も秀でていた。
ただでさえ白い眼で見られているのに余計にひどい扱いを受ける。居心地が悪いなんてものじゃない。
そこで俺は当然のごとく一人抜け出してきた。
俺を追うものはもちろんおらず、一人静かに雪山を歩いていた。
少なくともそう思っているようなそぶりでここまで来た。
しかし、唯一俺のことを追いかける追跡者は甘くなかった。
群れを離れてから丸二日。
俺のことを追いかけてくる狼はまだ子供で、俺は休息も取らずに歩き続けているから途中であきらめて群れに戻るだろう。
あるいは、夜の暗闇の中でまけるだろうと考えていた。
しかし、追跡者はあきらめなかった。ろくな休息も取らずに二日間懸命に歩み続けている。
「おい、いい加減あきらめたらどうだ。ここから先、まだ子供のお前には危険だ。あきらめて群れに戻れ。」
「いやだ……おいらは黒狼さんに弟子にしてもらえるまで絶対あきらめないんだ…………」
追跡者は最後の力を振り絞り言った。そして倒れてしまった。
「ったく……めんどくせぇ餓鬼だぜ……」
俺はこれだからダメなんだ。
なんだかんだ甘やかしてしまう。
ぶつぶつ言いながら、俺は追跡者の首根っこをつかみ横にある洞穴に入れた。
そして雪の舞う岩山を駆けた。
ライオンはウサギを狩るのに本気を出さないというが、その時の俺は違った。
守るものがある。だから必死に駆けた。
全身全霊で。
さてさて~
最近1人称の作品が多い黒羽でございます~
え?? この話の主人公と名前がおなじ??
僕の作品ではこんなことぐらいしょっちゅうですよ。
と、いうわけで、この物語はあくまでも「短期集中連載」という形で頑張ります。
でも、もしも反響が良ければ、そのまま頑張り続けるかも……??