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私達の青春謳歌  作者: 沙月
2/2

もういない誰かとした大事な約束はとうに忘れてしまった

1.



 がしゃんがしゃんと漕ぐたびになる自転車はガタが来て何年になるだろうか。左手のブレーキは少し握るだけで高音が響いてうるさいし、右手は効いているのかも分からない。うるさい自転車は安全と迷惑をかけないためにもスピードが全く出ず、正直バスに乗った方が断然速かった。単純な出る速度の問題ではなく、利便性の問題で、だ。それでも乗っている以上漕ぐしかない。溜息と共に足を回していると通り過ぎた人に見覚えがあったので、うるさいブレーキ音を鳴らし止まった。後ろを向くと相手はこちらを見て笑っている。笑うな。限界きてるのは分かってるんだ。


「早月は物を大事にするタイプだったんだな。」

「正直に言ったらどう?佐久間。金がなくて困ってんだなって。」

「んなこと言わねーよ。まあ自転車くらいならバイト代で買ってやる。」

「自転車いくらだと思ってんの?バイト何してんの。」

「んー……早月には向かないこと?」


 相変わらず誤魔化すのは得意なようだった。噛み合っていて噛み合っていないような、互いを探る会話を私がするのは佐久間という男一人に限ることだ。胡散臭い笑顔が取り柄の男は私と同い年だという。その貫禄と嘘臭さはもう十七のものではない。夜の仕事を十年以上やった三十手前のようなものだ。

 彼は彼の器用さが活かせるどこかでバイトをしているらしい。金回りが良いのはそのバイトが少し法から外れているからではないかと私は見ている。彼の表情が読めないのもそこから発信されているのだと。

 だけど彼も思っているのだろう。私の顔は十七のものではない。人には言えないようなことをしてきた奴の顔だなんて馬鹿げている考えを巡らせているに違いない。

 佐久間は黒の英字が入った白いシャツ、紺のジーパンを履いていて遠目からでも良い人の雰囲気が分かる格好をしていた。ただ危ない雰囲気もセットされているので、近寄る勇気がある女子はいなかったのだ。


「器用な佐久間は今からそのバイト?綺麗な格好してるけど。」

「いやそうじゃない。早月がここに来るだろうなと思って待ってた。」

「はあ?槍でも降るわけ?なんで待ってんのよ。ご飯なら付き合えないけど。」


 現在の時刻は午後六時を過ぎた辺りである。私は駅に向かう途中だった。六時四十三分の電車で十五分、最寄り駅まで帰ったら母の迎えが来ている。そうして温かな夕食が待っているはずだ。基本私が夜付き合えないことを佐久間は既に知っているはずだ。


「飯じゃない。明後日の土曜日、暇かなと思って。」

「暇だけど。」

「なら九時半に三丁目の日サロ前集合な。ご指名のダブルデートに付き合ってくんね。」

「いきなりダブルデート?私と佐久間、カレカノじゃないんだけど……てか他の二人は誰なの。」

「横山司と波川ありさのバカップル。早月も知ってるだろ。」

「あー……あの二人か。」


 あの二人は確かに知っている。佐久間経由の知り合いで超弩級のラブラブバカップル。性格が良いからすぐに仲良くしてもらったが、二人の間にある熱烈な愛にかなり引いてしまった覚えがある。

 大方、佐久間と遊びたいとか彼氏・横山の方が言い出したのだろう。彼は佐久間をとにかく気に入っていて勝手に親友とか言いふらしている。佐久間も佐久間で、横山のことを蔑ろにしていないことを見ると良く思っているのだろう。そんな関係性の人に頼まれては断れない。しかしバカップルに独り身は辛い。一人きりになるのが目に見えている。

 モテモテの佐久間は相手を選べるはずなのだが、ここでありさが私を指名したと見える。彼女は私のことを妹にしたいと初対面でハグしまくって来た人だ。後々の佐久間の立場や関係性、自分が楽しめること、様々なことを考慮してというか自分のために私を指名したと見える。


「あれだな、佐久間も大変だな。」

「早月に言われたくねー。とりあえずそういうことだから。ドタキャンせずに最後まで付き合ってくれたら、後日、一緒に自転車選んでやる。」

「付き合ってあげる人に対するお礼は選んでくれるだけ?そんな非常な人だっけ、佐久間くんは。」

「……買ってやるよ。最新のブリヂストンでも何でもな!」

「やった、さっすがー、佐久間くん太っ腹!」


 それだけリア充バカップルに挟まれるのは嫌なことである。私の近くにそんな人がいなくてよかったとこれほど強く思うことはない。してやったり顔で佐久間には手を振り、ぎこぎこペダルを鳴らす。ついにこいつともおさらばだ。愛を込めて愛車を漕ぐと風が頬に勢いよく辺り、気持ちが良い。

 季節は春も半ば。桜の葉は私のじいちゃんが塩漬けにし、桜餅の一部になって冷蔵庫にあるはず。母と私と母方のじいばあが好みのこしあんと桃色の餅米は、甘く包まれている。それが今日のデザートです。そうラインが母から来ていたことを思い出して舌が唇を通る。夕食は鯖のみりん干しを焼いたやつがメインだ。


 電車の時間には、まだ間に合う。余裕をかまして遅れたりすることはない。信号待ちで止まると、ポケットから出した袋を噛んでレモン味の飴を開ける。空いたお腹を誤魔化すように口に含むと、すっぱ甘い味が広がって余計にお腹が空いてきた気がした。

次話の投稿は未定です。

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