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雪美条高校探偵部員たちの事件簿  作者: 香富士
File12 江藤とクリスマスの再会
43/56

File12-3 ~2人の推理~

事件関係者

南村みなみむら剛隆ごうりゅう(70) 小説家 元高校教師〔被害者〕

古町ふるまち宗則むねのり(33) 南村の助手 

平郡ひらごおり洋子ようこ(32) 南村の助手

田野たの花絵はなえ(16) 高校生 江藤・日野田の中学の同級生

稲永いななが好恵このえ(28) ルミナスシアタースタッフ〔第一発見者〕


現場周辺

挿絵(By みてみん)

「失礼いたします」

ノックして部屋に入ると、助手の2人は僕らの方に顔を向ける。手には、休憩室にあった紙コップがある。髪をやや茶髪にした気の強そうな女性が平郡洋子さん、薄青の縁の眼鏡をかけた色白の男性が古町宗則さんだ。男性の古町さんより女性の平郡さんの方が背が高い。ルミナスランド入園前、南村さんに怒鳴られていた男性は古町さんだったが、元々背が低いのだと思う。かなり小柄だったし。

その2人に示すように岩間刑事は警察手帳を示す。

「私、雪美条警察署強行犯捜査係の岩間秋奈と申します。少々お話をよろしいですか?」

「構いませんが……そちらの高校生はなんです?」

平郡さんがごく当たり前の疑問を口にする。

「この2人は少し捜査に協力してもらっていまして。もちろん個人情報は守らせますのでご理解をお願いします」

助手の2人は曖昧に頷いたのを見て岩間刑事は早速本題に入る。

「ではまず被害者の南村さんとの関係を」

「1年半前から助手として働いてるんですよ」

先に口を開いたのは古町さんだ。

「僕や洋子は南村先生に高校で教えを受けた人物の1人なんです。先生の本を読んだ時、この人についていきたいって思って1年近く頼み続けてようやく。何人も諦めて行きましたが僕と洋子は別です」

「ええ、ホントに南村先生の作品に感動して助手という形で傍にいさせてもらったのに、まさかこんなことになるとは……」

平郡さんは目を伏せて本当に残念そうだ。古町さんも神妙な面持ちで頷く。

「では、今日の行動についてお話しいただけますか?」

彼と彼女が話したのは、まず昨日古町さんと南村先生が昨日喧嘩して仲が悪くなったこと。そして隣の部屋に陣取ってからの経緯。何度部屋を出て行ったとか、何をしに行ったか等々。そして9時半過ぎ、2人はルミナスシアターを抜け出した。クリスマスの遊園地で男女が遊ばない訳ないだろうし。

「それで抜けた後はどうしたんですか?」

「かなり混んでましたからできるだけ空いてるのに乗ろうと思って、比較的空いてそうな『ロングリバーゴンドラ』へ」

「その前に宗則がトイレ行ったじゃない。それの近くの」

「あぁ、そうだったな。でもその後はずっと列に並んでて、降りたところで連絡が来たんですよ」

稲永さんが遺体を発見した後、助手の2人のことを思い出して電話をしたらしい。すでに連絡先はシアター側に伝わっていたようなので。

「平郡さん、ちなみに古町さんのトイレの時間はどれくらいでしたか?」

「多分3分もかかってないと思いますけど。男子トイレは空いていたようでしたし」

つまり銃声の聞こえた9時35分、2人は「ロングリバーゴンドラ」に移動中といったところだろう。3分のアリバイがあやふやな時間ではルミナスシアターに戻るのも難しいだろうから、2人は犯人ではないのか?

「ではルミナスシアターに戻った時のことを教えてください」

今度は平郡さんから話し出す。

「スタッフさんから連絡を受けたあたしたちはすぐに向かいました。時間は確か10時過ぎくらいだったと思いますが。そして急いで南村先生の部屋に向かうと、男女2人のスタッフさんが待っていました。それで一応中も見せてくださったんです。本当に先生が亡くなっているなんて信じられなかったので……」

「先生が亡くっているのは一目見て分かりました」

古町さんが引き継ぐように続ける。

「ちょっと僕は気分が悪くなってすぐに隣の部屋に。椅子に座って心を落ち着けていたら洋子も戻ってきて、あとは警察が来るまでそこにいました」

そこまでいったところでドアが開き、江木畑刑事が助手の2人を呼びに来た。僕らの顔を見るなり、

「な、なんでリエちゃんや江藤君が? それに岩間警部補まで?」

「それは色々とありまして……」

「ま、まあ良いわ。古町さん、平郡さん、少しよろしいですか?」

2人は岩間刑事と江木畑刑事の顔を見比べ、訳が分からないというような顔をする。だが渋々江木畑刑事の方についていく。そして江木畑刑事は去り際に、

「リエちゃん、この部屋の施錠をお願いね」

と言って控室の鍵を投げる。

「――これはチャンスね」

江木畑刑事たちが去ると同時にフフッと笑う理絵花。

「ちょ、ちょっと。さすがにそれはダメだって!」

「ええ。警察官、というか大人として言わせてもらうけどそれは――」

必死に止める僕や岩間刑事の声を無視して、理絵花はどこからか白い手袋を取り出す。まさか常備してるのか?

「でもね岩間刑事、慎ちゃん。多分犯人は――もちろん花絵ちゃんの無実を信じるならだけど――古町宗則さん、彼だと思うの」

理絵花はいつになく真面目な顔で断言する。

「なぜそう思うんだ? 田野さんの無実の部分は置いとくとしても、そう考える根拠は何だ?」

「そうだよ。あの冴えない感じの助手が、恩師を射殺するなんて考えられないよ」

僕らの質問を無視するようにおもむろに鞄の中を探り始める理絵花。僕らに背中を向けたまま答えた。

「よく考えてみて。さっきの2人の話からして、何か細工をできる時間を持てたのは古町さんじゃないかしら。互いの行動が分からない時間を作ったのは彼の方だから。トイレに行ったり、意図的に平郡さんを部屋から追い出したりね。だから何か彼がしたんだと思うんだけど……ダメね。何もないわ。平郡さんと外に出た時にゴミ箱とかに捨てちゃったのかしら」

鞄から手を放して残念そうな顔をする。その時、何かが鞄の中で光った。どうやら小さな鏡が入っていてそれが電灯の光を反射したようだ。

「ところで理絵花。古町さんが犯人だとして、トリックの目星はついてるの?」

「それも分からないのよ。死亡推定時刻からして、殺害したのは洋子さんとシアターを抜ける直前にトイレに行ったとき。その時はタオルだかを使って銃声を消したんだろうけど、慎ちゃんや稲永さんが聞いた銃声は何だというの?」

「確かに。それに南村さんを殺しに行くタイミング、それも重要だろ」

「どういうこと?」

理絵花は疑問の表情を浮かべる。

「だってほら、南村さんはスタッフの稲永さんと話し込んでたんだろ? それがいつ終わるかも分からないのに、隣を尋ねる訳にいかないじゃん」

「盗聴器の類じゃないか?」

岩間刑事が僕の後ろから言った。

「南村の鞄とかに目立たないように取り付けておいて、今日それで音を聞いていた。2度、平郡を追い出したのもそれをイヤホンで聞くためじゃないか? 殺しに行ったときに回収すれば、現場には残らんからな」

「回収した後、盗聴器や受信機はどうしたんですか? いまわたしが調べましたがそんなものは見当たりませんでしたよ」

「まあ今も古町がポケットに入れてるってことはほぼないだろうからどこか、『ロングリバーゴンドラ』に行くまでかトイレに捨てたんだろうがな。とりあえずあたしはそいつを探すことにするよ。どうせ貝崎もそろそろ暇になる頃だろうからな」

岩間刑事は片手を挙げ、去ってしまう。ふと、テーブルの上を見るとこの部屋の鍵がのっている。

「そういえば施錠を頼まれてたっけ」

そう言いながら僕が鍵に手を伸ばすと、ふと閃くものがあった。

「ねえ理絵花。このテーブルにのって少し背伸びすれば隣の部屋が見えるんじゃない? 盗聴器なんか使わないでも」

僕は壁の上部にある小窓を見てから振り返る。たが同じように見上げていた理絵花は首を横に振る。

「まあ確かにそうかもね。でも古町さんは男性にしてはかなり小柄。ギリギリ届かないかもよ。それに部屋の中央にあるテーブルを壁の傍まで運ぶのはそんなに軽々運べるものじゃないし結構面倒だと思うわ。椅子くらいなら楽だとは思うけど、それに乗ったら尚更覗くのには足りないわよね」

「じゃあこっちの小棚は? 壁際にあるし――と思ったけど無理だよね。色々置いてあるから上に乗るなんて」

小棚の上にはフィギュアが並んでいる。ガラス細工のようなものから紙人形、発泡スチロールでできているものまである。この部屋の使用者に、土産物をアピールしているつもりなのだろう。でも不良品をここに置いているのか、やけに背中が削れていて変なものがある。


あれ? 僕の頭にはある閃きがあった。もしかしてこれって――だとしたらあの銃声は……

「ま、ともかく行きましょ。ずっとここにいたらあらぬ疑いをかけられちゃうわ」

理絵花がそう言ったので、僕らはしっかり鍵をかけて部屋を出た。


 ◆


古町さんと平郡さんの事情聴取も終わり、真井田警部は椅子にのけぞりながら言った。

「……さて、どうするんだ江木畑? 古町さんも平郡さんも銃声が鳴った時のアリバイは完璧。古町さんになら、死亡推定時刻内に南村さんを殺しに行くチャンスがあったかもしれんが腑に落ちん。そもそもいつ、稲永さんとの話を切り上げるか分からないのに殺しには行けないだろう」

「それは――盗聴器で部屋の様子を窺っていたとか?」

すると、私の携帯が鳴った。岩間警部補からだ。

「はい、江木畑です」

『実はな、スタッフに頼んで古町たちが歩いた道にある3つのゴミ箱を調べてたんだよ。幸い、回収されていなかったからな』

「え、なんで歩いた道をご存知なんですか? さっき聞いたばかりなのに――いや、予想はつきますが。それで何か収穫はあったんですか?」

『ゴミ箱からは特になかったんだが古町が行った男子トイレから発見があった。清掃員に話を聞いたんだが、個室にコートとタオルの忘れ物があったらしい。もしかしたら、真犯人が発砲した時に発射残渣を残さないように使ったコートと、銃声を消すために使ったタオルかもしれんだろ? だから今、貝崎に持ってきてもらって――お、来たぞ。ともかく調べてみることにするよ』

そう言うと電話は切れた。私が報告をすると、真井田警部はそれに興味を持ったようだ。

「なるほど。それから硝煙反応が出れば田野花絵の無実はより濃いものになる。だがいまいち決め手に欠けるんだ。クラッカーを使った人の忘れ物かもしれないだろ?」

「で、でも……」

「あぁ。確かに俺も江藤君の推理は正解な気がする。だが何かこう、犯人はこの人であるという確実な証拠、それを見つけん限り田野花絵の疑惑を払拭することは難しいだろうな」


 ◆


「……で、まあ硝煙反応は出たんだけど決め手がないのよリエちゃん。仮に古町さんが犯人だとしたらどういう犯行を行ったのかしら?」

「そうねぇ……まだ全然分からないのよ。慎ちゃんはどう?」

「僕? さっき助手2人の控室を見た時に銃声のアリバイは分かったよ」

「本当に?」

目を輝かせながら理絵花は聞いてくる。こういう表情も何か新鮮で良いね。

「なんとなくね。でも犯行のタイミング、それをどうやって決めたのかが分からないんだよ。そこで江木畑刑事。岩間刑事が回収したゴミを見せてもらえませんか? 古町さんが処分できるのはそれしかないですから」

ほどなく3つのゴミ袋が運ばれてくる。中身はほとんど売店で買えるお菓子や軽食の袋などだが。少し目を引いたのはジュースの空カン、開いてある1リットルの牛乳パック、分解された黒ボールペン。どれもルミナスランドでは買えないもののはずだ。

理絵花がフフッと笑った。あるものを手に取りながら。

「これと、古町さんの持っていたあれを使えば隣の部屋が覗けるはずよ」

「ど、どうやって?」

「まあそれは本人の前で説明してあげましょ」

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