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雪美条高校探偵部員たちの事件簿  作者: 香富士
File9 宝石と一緒に消えた真実
30/56

File9-7 ~殺意は忠誠?~

事件関係者

5年前

・榊田幹彦(50)  榊田宝石店従業員

・赤岸美佐枝(29) オーナー秘書

・関根麻雄(49)  榊田宝石店従業員

・藻川梅子(51)  榊田宝石店従業員


・榊田伸彦(51)  榊田宝石店オーナー 幹彦の兄

            事件の3か月後に病死

・竹井長治(42)  榊田宝石店従業員

             事件の年の8月に榊田宝石店の裏で死亡しているのが発見される

・青葉桐人(37)  榊田宝石店強盗事件の犯人 

            事件の1時間後に事故で死亡

・中松房生(35)  榊田宝石店強盗事件の犯人

            事件の1時間半後に自殺(?)

・P          青葉と中松の仲間

           榊田宝石店襲撃事件があった年の前年に火事で死亡(?)


現在

・村杉育也(33)  中泉学院非常勤講師  

            音呂部西公園で殺害されているのが発見される

・柳野里実(31)  喫茶店店員  (育也の元妻)

            楠鳩中央公園近くの藤巻ビルから転落死

・柳野和繁(34)  自動車整備工場勤務  里実の夫

◇現在 12月17日 13時15分◇



「それで大した情報も現れない中、オーナーである榊田伸彦は病死してしまったんだよ。事件によるストレスで体調を崩してしまってね。榊田オーナーが亡くなった後、弟の幹彦さんが次のオーナーとなって、今の体制になったという訳さ」

網倉刑事は大きなため息をついた。最終的に被疑者死亡だというのが心残りなのだろう。しかも宝石も見つかっていないから、真の解決はしていないし。網倉刑事の話の途中で江木畑刑事から送られてきたメールからすれば、村杉さんが見つけて里実さんが離婚の慰謝料にしたんだろうけど。つまり、結局2つの殺人事件の謎の始まりは「どうやって宝石は移動したか」。もっとスタートを後ろにして5年前に迫らなきゃね……。


僕らが雪美条警察署にやってきたのは1時間前。本当は江木畑刑事に直接会って、色々と話をしたかったらしいが、大事な話をしているということで会えなかった。でも偶然手の空いていた網倉刑事と出会い、5年前の事件について教えてもらっていたのだ。そんなことをしている間に江木畑刑事たちはどこか行ってしまったけど。


「あの~」

「ん、何だね江藤君」

「僕、1つ気になっていることがあるんですけど……小森っていう刑事さん……今は?」

理絵花は腕を組んでジッと考え込んでいるので網倉刑事に聞いてみた。

「ム、そ、それは……」

急に網倉刑事はうろたえだした。少し考えたかと思うと、丁寧な口調で言った。

「小森君は行方不明――なんだ。あまり公にしてほしくないんだがね」

彼の目はいつになく哀しげな目だった。

「あ、す、すみません……こんなこと聞いちゃって」

「良いんだよ。榊田宝石店襲撃事件、まだ彼女は調べたかったようなんだが別の事件が少し後に起こってさ。俺や小森君はそっちを捜査することになったんだよ。でもその事件の捜査中、彼女は行方をくらましたんだ。何かを調べに行ったらしいんだが、上司だった凪沢課長も詳しくは知らないらしくて……それらしい死体もあがってなくてさ。彼女には小学生高学年くらいの妹さんもいたのに……運命ってもんは残酷だよな」

そう言いながら網倉刑事は榊田宝石店襲撃事件のファイルを開いた。

「彼女が持っていた事件の捜査メモとかは、事件資料になってんだよ。ほら、最後のページに挟まってんだろ?」

そこには手帳のコピーが挟まれていた。小ぎれいな文字が並んでいる。小森という刑事が調べて書いたものなのだろう。僕が取り出して読もうとすると、横から手が伸びてきた。

「慎ちゃん、ちょっと見せてくれない?」

僕の返事も待たずに理絵花はそいつをひったくる。横から見ると、従業員について調べられているようだ。

『・赤岸

最近店に来たばかり。9月に前任のオーナー秘書が体調を崩して辞めたため、彼女が来た。byオーナー

仕事に関しては真面目だが、プライベートのことは誰も詳しく知らない。by藻川

・関根

妻と息子がいるが、少し夫婦仲が悪くなってきている様子。by藻川

幹彦の中高の後輩。競輪選手を目指していたが、成績がふるわず幹彦のツテで宝石店で働き始めた。店の開店当初から働いている。仕事の質が良く、店の中でも評価が高い。by幹彦

・幹彦

兄弟仲はすごく良く、伸彦が引退すれば次期オーナーは幹彦らしい。by藻川

オーナーとともに店を支えている。たまに言い争うこともあるが、すぐに和解する。by赤岸

少し前に宝石店の改装をオーナーに提案していた。(通ったかどうかは不明)by関根

・藻川

オーナーの妻、菊乃きくのの中高での友人。オーナー夫妻、藻川は同年齢。幹彦は1つ下。関根はもう1つ下。中高は皆同じ。byオーナー

中高の時はオーナーのことが好きだった? 菊乃とも仲が良かった。by幹彦

独身で1人暮らし。休みの日にはよく弟家族の家に行っている。姉弟仲はかなり良好。by関根

・オーナー

最近、煙草を吸う量が増えた。店で煙草を吸う人はオーナーと藻川のみ。by藻川

几帳面で真面目な性格。当初から店で働いている幹彦、関根、藻川の3人と秘書の赤岸には絶大な信頼を置いている。事件のことが相当ショックだったのか、元気がない。by幹彦

事件の2週間前、彼しか持っていない裏口の鍵をなくした。鍵は交換したので防犯上は問題ない。by赤岸』


付け足したり、塗りつぶすようにして文字を消しているところもあるので少し読みにくいが、字自体はきれい。誰から誰の情報を聞いたのか、しっかり書いてある。

そしてもう1枚、同じ字で書かれた手帳のコピーがヒラッと飛び出た。僕がキャッチすると、そいつも理絵花がひったくった。

『※葛岡ビル

住所:雪美条市楠鳩町○-××-△△

12月13日取り壊し

入っていた会社は13日の少し前に出て行った。青葉や中松に似た男の出入りが度々確認されている。日時は不明(9月頃?)

入っていた会社

・萩中印刷

偽札造りの噂。偽札の出回りは今年7月。金回りはその頃から良くなった。

・芹川探偵事務所

依頼が少ないはずなのに羽振りが良い。誰かを脅している?』


「これ、住所からすると榊田宝石店の裏辺りだな。でもこんな資料、見たことないな……」

網倉刑事が呟いた。どうやら彼にとっても初めてみる情報のようだ。

「やっぱり、こういう5年前の事件という『後ろのスタート』を考えないと今の事件の真相は見えないんですかね」

「江藤君、どういうことだ? その『後ろのスタート』とは」

網倉刑事が意外にも食いついてきた。

「いや、あの……村杉さんと柳野さんが殺された2つの事件。それに5年前のことが絡んでるんなら、『今の事件』というスタートではなく、『5年前の謎』に注目する。つまりスタートを後ろにセットする必要があるんじゃないかなぁって」

「ほぉん……なるほどな。なかなか面白いこと言うじゃないか、江藤君」

「べ、別に面白いことを言うつもりは……」


「……あ!」

そんな会話をしていると突然、理絵花の目が光った。そしてフフッと微笑んで僕に言った。

「分かったわよ。今の話で誰が榊田宝石店の黒幕だったのか。そして多分、村杉先生と柳野里実さんを殺したのは話に出てきた4人――」

そう言う彼女は、いつになく魅力的な表情だった。



 ◇



「あ、もしもしサヤ姉ちゃん? メールよんでくれたの? 網倉刑事から榊田宝石店に向かったって聞いてたから……」

「う、うん。とりあえず、真井田警部に代わるわね。そっちの方が話は通じると思うし……」

あの後、理絵花は江木畑刑事に黒幕は宝石店の中核メンバーの中にいることをメールで告げた。しばらく網倉刑事と警察署で待っていると、江木畑刑事から電話が来たという訳だ。

「真井田だが」

スピーカーにされている電話口から男のかっちりした声が聞こえてきた。

「……本当なのか? その……なんだ。あの……」

「ええ、分かりました。5年前の全ての真相がね」

口ごもる真井田警部にあっさり答える理絵花。電話からは声にならない声が聞こえてくる。そんなのも無視して理絵花は続ける。

「ですが村杉先生や柳野さんを殺害した犯人。それを突き止めるには警察の協力が必要なんです」

「な、ど、どういうことだね?」

「2人が殺された前後のアリバイを確かめてほしいんです。特に榊田幹彦さん、赤岸美佐枝さん、関根麻雄さん、藻川梅子さんの4人をね」

「――なぜその4人なんだ?」

「それは……」

そう問われると理絵花は少し黙る。そして短く息を吐き出してから言った。

「忠誠ですね」

「え?」

それは真井田警部だけでなく、ここにいる網倉刑事、僕からも出た。その少女から「忠誠」などという言葉が来るとは思いもしなかったからだ。

――理絵花がチラリと僕の方を見たような気がした。

「あの人への深い忠誠。それが2人への憎しみに変わったんでしょうね。あの人を殺した・・・のが村杉先生と柳野さんと知って、犯行に向かってしまった――そう思っているからです」

しばらく沈黙があったが、「分かった」とだけ聞こえて電話は切れた。理絵花は何も言わずスマホをポケットにしまう。

「理絵花。今のは……何だったんだ?」

鞄に手を伸ばしている理絵花に声をかけると、ピクッとその動きを止めてこちらに振り向いた。

「今のって?」

「忠誠から憎しみに変わったっていうのだよ。なんか少し変な感じがしたから」

「あぁ……」

理絵花はにっこり微笑んだかと思うと、こう言った。

「愛や友情、信頼、もちろん忠誠もだけど、人を想う気持ちっていうものはとてつもなく大きなパワーを持っているのよ。想い人の望みを叶えてあげたい、もしくは望みを叶えてほしい――そういう時、自分でも予想できないことをしてしまう。それは身をもって感じたことがある、でしょう?」

気が付くと理絵花は僕の目の前に来ていて、上目遣いで僕を見上げている。その瞳には僕が映っていた。あの時・・・の僕が。

「だからきっと犯人も驚いているんじゃないかしらね、自分がそんなことをしてしまったなんて。あの人への想いがそれだけ大きかったのかもね」

理絵花はまた微笑むと鞄を肩にかけてドアに向かう。

「網倉刑事、大丈夫なら榊田宝石店に送っていただけませんか?」

「あ、あぁ……構わねぇよ」


僕はぼんやり2人を見送る。

そしてしばらくしてから追った。

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