表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪美条高校探偵部員たちの事件簿  作者: 香富士
File5 江藤とミスコンの消えた凶器
13/56

File5-1 ~ルミナスランドのミスコン~

僕の名前は江藤えとう慎一郎しんいちろう雪美条ゆきみじょう高校の1年生で探偵部員。探偵部とは何か。別に探偵としての何かをする訳じゃなくてただのミステリー好きが頼まれた雑用をミステリーについて語りながらこなす部活。そんな感じ。ま、今日の話は部活は関係ないんだけどね。

僕は今日、なんだかんだでつき合うことになった日野田ひのだ理絵花りえかさんと『デート』というやつに来ていた。彼女とは同じ中学校で3年間学級委員として一緒に仕事をしていた。彼女は雪美条高校じゃなくて中泉なかいずみ学院(このあたりではかなりヤバいレベルの学校だ)に進学したから学校では今は会えないのだ。

今回はルミナスランドという遊園地へ来ていた。僕が待ち合わせ場所の入口へ待ち合わせ時間の8時の10分前に着いた時にはもうすでに彼女は到着していた。彼女はいつも行動が速い。

「あ、おはよう慎ちゃん」

「おはよ、理絵花……」

紺色のトップスにクリーム色のスカート。それが今日の彼女のスタイル。夏も終わり、秋からだんだん冬になっていく時期に合ったファッションだと思う。

ともかく僕らは『デート』というやつを開始した。

そこで今日わかったことがある。両者共にこういうことに慣れてないからなんとなくぎこちない。今日より前にも何度かデート的なことはしてきたものの、やっぱり駄目だね。でもこれって普通なのかな?でも最初の頃と比べたらましにはなったと思うけど。

でも一応2人で楽しむことはできた。意外と彼女は絶叫系のアトラクションは大丈夫なようだ。僕は結構苦手だよ……。



「ふ~、結構楽しめるわね、慎ちゃん」

「そうだね。じゃー次はどうしよっか……」

僕はふと、すぐ前を歩いている女性に目がいった。

「ねぇ理絵花。あのあそこを歩いてる人、白崎しらさきさんじゃない?」

僕の指差した方を理絵花も見る。

「あら、そうね。優姫ゆうひちゃんね。どうしたのかしら1人で……ってあら、気が付いたみたい」

白崎優姫さんは3年生の時に同じクラスだった人だ。クラスの中ではかなり明るい性格で、皆のムードメーカー的存在だった。体育委員でもあり、しかもかわいいと思う。いや、誤解を招きそうなので言っておくが僕のタイプは理絵花だからね。白崎さんは僕らのことを見つけるとこちらに近寄ってきた。

「理絵花ちゃんに江藤君、久しぶりね~。そういえば2人とも付き合っ…」

「優姫ちゃん、それ以上は言わないでちょうだい。恥ずかしいから。でも優姫ちゃんこそ1人でどうしたの?」

すると1度フフッと笑みを浮かべ言った。

「実は私このルミナスランドのミスコンの最終審査まで残っちゃったのよ!ここのミスコンは…」

彼女の説明をまとめると2年に1回、ルミナスランドではミスコンを開催している。しかも結構な人気で最終選考まで残るには私ほどじゃなきゃね!(本人談)とのこと。まあでも本当マジに最後まで残るのは大変らしい。と考えると彼女の言っていることは間違いではないのかもしれない。それで彼女が今日ここに来たのは決勝に出るため。5人いる選ばれし者の中から1人を今日来園した人の投票によって決まる。採点の仕方も細かいそうだがそれは割愛。今日の2時からステージで選ばれし者が色々とアピールをして3時半から投票開始。5時ごろに優勝者が決まるという予定だそう。

今は腕時計を確認すると11時少し前。そろそろ白崎さんもステージへ向かうとのことなので後で見に来てと告げて彼女は行ってしまった。

「ふ~ん、そんなイベントがあるとはね。道理で人が多いと思った」

「じゃあ理絵花、あとでステージに行こうか。せっかくだし」

「そうね。もしかしたら私たちの知り合いも応援に来てるかもしれないし……」

すると理絵花は突然歩き出して、何か拾った。そして僕に見せながら言った。

「このハンカチ、優姫ちゃんのじゃない?」

「本当だ。さっきポケットからスマホを出してたからその時に落としたんかな?どうする、今追いかける?」

「うん。今ならまだ近場にいるだろうし」


  ◇


ステージ裏手の控室のようなところまで行くと警備員がいたのでその人に声をかけてハンカチを渡してもらうことにした。

「はい。じゃあミスコンの出場者の白崎さんに渡せば良いんですね?あとでスタッフに渡すか警備の交代の時に渡しておきますね」

「それじゃ、お願いしま…」


「きゃぁぁぁぁッ」



悲鳴が聞こえた。

僕はデジャヴを感じた。1か月ほど前になるだろうか、あの文化祭の打ち上げをやった店で起こったあの事件の時。


「今のは……と、ともかく私は様子を見てきますからあなたがたはここでお待ちください」

そう言い残し警備員は行ってしまった。が、やはり気になってしまうのは仕方がない。理絵花の目を見るとやはり、友人のことが気になっているようだ。僕らは急いで中に入る。するととある部屋の前で人が集まっている。ミスコンの出場者と思われる人が集まっていてその中には白崎さんもいる。恐る恐る部屋を覗くと……1人の女性が血の中に倒れていた――。

「早く、誰か警察に連絡をお願いします!今私が救急車を手配しますので…」

警備員が強い口調で言う。僕はスマホを取り出し警察を呼ぼうとする。すると1人の女性が遺体に触ったりしてから首を振り、冷静な声で言った。

「警備員さん、救急車は必要なさそうですよ。もうこの方、亡くなっていらっしゃるようですから」

「あなたはいったい?」

警備員がその女性に聞く。その女性はさっきと同じような調子のこえで答える。

「私、大学で医学を勉強しているので」


まさかまた遺体を目にする破目になるとは。しかも理絵花と一緒の時に……。



  ◇



すぐに警察が来た。吉峰警部や網倉刑事が来ると思ったが違う人達だった。1人はすらっとした体型の人。髪がキッチリと整えられて几帳面そうだ。多分、吉峰警部よりは年上。もう1人はまだ多分20代くらいの……男性? でも顔からしたらなんだか女性にも見える……。

するとそっちではない刑事さんがかっちりした声で話し始めた。

「私は雪美条署、刑事一課強行犯捜査係の真井田さないだ淳介じゅんすけと申します。

事件のことを確認いたしますと、小説家の灰川はいかわ降子ふるこ、本名、新舘しんだて麗良れいらさんがこのルミナスランドのミスコン出場者控室で殺害されました。

このステージ裏の防犯カメラは2か所。外との出入り口のところと、ステージへつながるところ。そこから確認すると遺体発見当時、ここにいたのはミスコン参加者の白崎優姫さん、国母こくぼ彩寧あやねさん、安戸やすど玲奈れいなさん、沓見くつみ梢子しょうこさん。それから遺体の第一発見者で新舘さんの担当の編集者、踏分ふみわけ舞子まいこさん。そして警備員の仲保なかぼ道也みちやさん、高校生の江藤慎一郎さんと日野田理絵花さん。

ただし、踏分さんの悲鳴を聞いてからこの建物に入って来た仲保さん、江藤さん、日野田さんに犯行は不可能。となると犯行可能な方はその3人を除いたあなた方5人。つまり白崎さん、国母さん、安戸さん、沓見さん、踏分さんとなりますね」

真井田警部は右から順に、名前を言いながらその人の顔を見る。

「そして」と、さらに続ける。

「見つかっていないんですよ、凶器がね。つまりあなた方がまだ所持しているか、あなた方の控室にあるはずです。仲保さん、お尋ねしますが警察が来るまでにこの方たちは警察が来るまでに外には出ませんでしたか?」

彼は急に名前を呼ばれ、きょとんとした顔を浮かべたがすぐに気を取り直して答えた。

「は、はい。誰も出てないです。彼女たちには1回自室で待っていてもらいましたから。それから編集者さんと高校生たちには休憩室にいましたので。それに入ってきたのもスタッフが数名くらいですし……」

「ありがとうございます。ということは凶器を捨てることは不可能。やはりまだ誰かが持っているんでしょうね」

そう言いながら真井田警部は1人ずつ指差した。その女性陣の真ん中に立っている人がやけに汗を掻いて、目線を真井田警部と合わせないようにしているように見えた。


  ◇


~ルミナスランド ミスコン控室~

挿絵(By みてみん)



僕と理絵花は空いていた部屋で待たされることになった。凶器なんて持ってないし、犯行も不可能なんだから別に良いじゃんね。ま、でも仲保警備員も同じように待たされているみたいだし……。すると理絵花が僕に言った。

「ねぇ慎ちゃん、あそこで亡くなってた人って灰川降子だったんだね。私この前彼女の作品読み始めたばっかりだったのに……」

「理絵花はあの人のこと知ってるの?」

「当たり前じゃない! 2年前に彼女は『これはすごいミステリー』大賞で優秀賞をとったのよ!」

理絵花は声を張り上げて言う。理絵花はかなりのミステリー好きだしね。

「そのおかげで結構な有名人になったの。その時受賞した作品は『謎解きは桜の霊と』。ある放火された家に生えていた桜の木の霊がその家に放火した犯人を突き止めるために人の姿になって刑事に助言をしていくって話。私は最初にそれを読んだけど結構面白かったわね。その後も色々と作品を出してたんだけど――まさかこんなことになるなんてね……」

理絵花ははぁとため息をついた。どうやら結構注目していた小説家らしい。

「そういえば灰川降子って名前は先輩が言ってたような気がするよ。今度読んでみなって言われてたなぁ。他にどんなの作品書いてんの?」

「う~んとね、私が読んだのは『五行ごぎょう刑事の事件簿』シリーズの『木とともに伸びる怨念』とか『火の中の亡霊記者』とかかなぁ。このシリーズはこの間最終巻の『ひかりかげ』が発売されたばっかりだったのよ……」

「結構面白そうな作品を書いてたんだね」

「ええ。でもなんでこんなことに……」

そんなことを話しているとガチャッとドアが開き、刑事さんが入ってきた。真井田警部ではなく、あの男なのか女なのかわからないあの刑事さんだ。刑事さんの顔を見るなり、理絵花が切り出した。

「サヤ姉ちゃんよね?」

……ん? もしかして知り合いなの?僕がそう思いながら視線を理絵花から刑事さんの方に向ける。

「やっぱりリエちゃんよね! 久しぶりね~!」

「最後に会ったのは……受験の前の年のお正月?だから2年ぶりよね~!」

僕はしばらくそのやり取りを見つめていた。そんな僕を尻目に彼女ら(『姉ちゃん』って言ってたしこの刑事さんは女性だよね?)はしばらくぶりの再会を喜んだ。ひとしきり話し終えるとようやく僕の存在を思い出したようで慌てて自己紹介した。

「ご、ごめんなさい。私は江木畑えきはた紗也子さやこ。雪美条警察署、刑事一課強行犯捜査係の刑事です。この理絵花ちゃんと従姉なんです。それでつい……。ごめんなさいね」

彼女は少年のような声で言った。いくら理絵花の従姉といえども彼女は年上だ。そんな彼女の声を『少年の声』と言ってしまうのは失礼だと思ったが――やっぱり『少年の声』だ。姿を見せず、声だけならば若い男だと思われても仕方がないだろう。まあ姿が見えていたら勘違いされないかと言ったらそうではないと思うが。すると今度は江木畑刑事の方が切り出した。

「実はリエちゃん、あなたの知恵を借りたいのよ。頭の良いあなたならきっと何か気が付いてくれると思って」

「何、どんなことなの?」

理絵花が身を乗り出すような感じに聞く。そんな理絵花の顔はキラキラしている。理絵花が最も楽しそうにするとき、それはこんな遊園地で遊ぶときではなく、謎解き・・・をする時だ。その時の彼女の表情はなんというか――女性でも心惹かれる人がいるんじゃないかって思うくらいのものだ。

僕がそんなことを思っていると江木畑刑事は丁寧な口調でゆっくり言った。

凶器がどこにもないの・・・・・・・・・・


……しばしの沈黙。そしてその沈黙を破るように理絵花が口を開いた。

「つまりサヤ姉ちゃんはその凶器を探してほしいわけね。それってどんなものなの? そのこと、聞いてないし」

「あぁ、そういえばそうね。刃渡り15センチ程度のナイフのようなものだと思うんだけど、それで腹を一突き――ま、とりあえず聞いてよ…」

江木畑刑事は得た情報を語り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ