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雪美条高校探偵部員たちの事件簿  作者: 香富士
File4 江藤と打ち上げ店の密室
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File4-1 店で聞こえた悲鳴

 僕の名前は江藤えとう慎一郎しんいちろう。雪美条高校の1年生。探偵部員。探偵部とは、簡単に言っちゃえば探偵小説研究部の真ん中が抜け落ちただけの部活。ミステリーについて語りながら頼まれた雑用をこなす部活。そんな感じだ。これはそんな部活に所属している僕に起きたとある出来事。


 3日間続いた雪美条高校の文化祭も終わり、僕はクラスのみんなと打ち上げに行っていた。同じクラスの城野じょうの留奈るなさんの親戚がやっているお店でそれは行われた。もちろん彼女の勧めで。「ヒルタ」というお店で、彼女の叔母にあたる昼田ひるた初穂はつほさんとその御主人、昼田ひるた昭友しょうゆうさんが経営している。

 みんなで楽しく打ち上げを終え、駅へ向かっている時だ。

「あら、お店にハンカチ忘れちゃった」

 僕と同じ探偵部員の森浦もりうら凛花りんかさんが言った。

「じゃあ一緒に戻ろっか?」  

 すぐに城野さんが声をかける。

「あら、ありがとう」

「でも女子ふたりってのはちょっと危ないかもしれないし……江藤君、ついてきてくれない?」

 僕はなぜか、こういう時によく頼まれる。別に悪い気はしないので構わないのだけど。


 ◇


 僕らは夜道を歩いた。その日は半月が照っている夜だった。だんまり歩いているのもちょっとアレなので、僕は彼女らに話を振ってみる。

「……こういう時って、何か出たりするものじゃないかな? 危険な何かが」

 すると城野さんが乗っかってくれた。彼女はどちらかといえば静かなタイプではないしきっと乗ってくれると思ったけど。

「そうかもねぇ。後ろから追いかけられるか前に突然現れるか……」

 城野さんはフフッと笑って言った。もしかして結構この手の話が好きなのだろうか? 僕はあんまり……。

「江藤君?」

 突然後ろから声をかけられた。驚きのあまり跳び上がってから後ろを振り返ると、そこには街灯の明かりに照らされ、僕の良く見知った人物の姿がそこにはあった。

凪沢なぎさわ先輩……」

 僕はほっと胸をなでおろした。探偵部の副部長、凪沢ほのか先輩である。よかった、“危険な何か”じゃなくて。

「あら、凛花ちゃんもいるの。こんな夜道に3人でどうしたの?」

「わたしが打ち上げをした店に忘れ物しちゃって。それを取りに戻ってるんです。凪沢先輩はどうかしたんですか?」

「わたしねぇ、まあだいたいあなたたちと同じよ。忘れ物を取りに戻った帰りなんだけど……道に迷っちゃって。スマホの電池も切れて困っているところで、あなたたちを見つけたのよ」

「それならわたしたちと一緒に帰りませんか? 1回お店に寄ってからになりますけど」

 城野さんが言ったのを聞くと、凪沢先輩の顔がパッと明るくなる。本気で迷っていたことを僕は察した。もし僕らと出会えなかったらこのあたりでずっとさまよってたんじゃ……。危ないところでしたね、と言おうとしたけど後で面倒なことになりそうなので、グッとそれはこらえる。


 ◇


 僕らがヒルタに到着すると初穂さんが迎えてくれた。初穂さんはかなり小柄で、150センチくらいしかないと思われる。薄い赤の眼鏡が印象的だ。

「あら留奈にさっきの子たち。どうかしたの?」

「友達が忘れ物しちゃったみたいで。ハンカチ、テーブルの上になかった?」

「あぁ、そういえばあったわ。ちょっと待ってて。ねぇ酒井さかいく~ん、薄木うすきさ~ん?」

 初穂さんが呼びかけると「なんすか奥さん?」と言いながら奥から20代後半と思われる男性と、歳は同じくらいの女性が出てきた。男性の方は“そこそこイケメン”みたいな形容がピッタリな風貌。その若干乱れた髪か、大きな丸い目のせいか、“イケメン”ではない。女性の方は、ひょろっとした体つきでかなり痩せている。優しげな目や丸い顔からは穏やかなイメージも感じられる。ふたりともここの店員であることは、客であった僕は知っている。

「さっきテーブルにハンカチがあったでしょう? あれどうしたっけ?」

 尋ねられると、男性の店員の方が答える。

「それなら更衣室の机の上に置いておきましたよ」

 すると今度は女性の店員の方が言う。

「酒井君ホント? さっき行ったけど無かったわよ」

「あれ、おかしいな。じゃ、とりあえず倉庫とかも探しますか。レジのところには無かったんでしょ、奥さん」

「ええ。ザッと見たけど無かったわね。じゃあちょっと探してくるから待っててね」

 そう言い残し、その3人は奥へ厨房へ戻る。すると凪沢先輩が話を振ってきた。

「ねぇ、あなたたち。打ち上げはどうだったの?」

「別に何かすごく特別なことがあったわけでもないけど、普通に楽しみましたよ。ね、ふたりとも?」

 凛花ちゃんはいつもの通り黙って頷くだけだったが、城野さんはそうしっかり答えた。

「ま、確かに特別なことはなかったかもしれないけど、みんなで集まって食事するってことはある意味特別なのかもよ」

「そうだね、確かに。このクラスで集まれるのは今年だけだし……」


「きゃぁぁっっっ!」

 突然、奥から悲鳴が聞こえた。

「い、今のは叔母さんの声?」

 城野さんが言った。僕は女性陣3人からの視線を感じ、渋々様子を見に行く。厨房に入ると左奥にドアが見えた。他にドアは無さそうなのでそこ開ける。目の前にはトイレがあり、近くには空の段ボールが散らかっている。右側「お客様の立ち入りはご遠慮ください」という立札があるが、声はおそらくこの奥から聞こえてきたので向かってみる。目の前の部屋のドアは鍵がかかっていたので、咄嗟に近くの左側のドアを開ける。しかしそこは外に通じる裏口だったので、右へ走る。角で左を向くと初穂さんと女性の店員のふたりが一室の前に立っている。普通に立っているのではない。よく見ると膝がガクガク震えているのだ。僕のことなど全く気にしていないようなそのふたりの後ろから部屋の中を覗くと、そこには男性の店員がしゃがんでいた。そしてその傍には――――僕は絶句した。店長の昭友さんが横たわっていてその近くには赤い液体が溜まっていた……。


「叔母さん、どうかしたの?」

 その声に僕はハッとした。凪沢先輩たち3人だ。

「何か叫び声が聞こえたんだけど……」

 そう言いながら部屋の中を覗くと、大きく目を見開き何か声にならぬ声を発した。

 凪沢先輩がすぐに大声で、

「は、早く救急車を呼びなさい!」

 しかしその救急車が役立つことはなかった。

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