第4話 ボーイミーツスライム~遺失魔術と従魔にしたスライムで常識に縛られた不衛生な生活をやめた~
◇前回のあらすじ
世界情勢的に転生したけどチートなのは内緒にしたい。
餓死寸前の腹ペコ犬耳幼女は見捨てれない。
魔術使えるのはバレたけど、正しい魔術のお勉強開始。
クリスに魔術の勉強を教えてもらい始めて、しばらく経ってから、
俺の魔術の実力は【世界検索】の検索機能との相乗効果もあって、
実際に同年代の貴族の子弟や魔術師・魔術使いの嫡男を遥か後方に
置き去りにするレベルまでに成長していたらしい。
なぜ、らしいなのかというと、プタハ村に通常の魔術師・魔術使いが
いないからだ。クリスは聖騎士で、レオンの従者でエルフのケイロン小父さんは
エルフの固有職、精霊魔術師だから基準にはならない。
明確な基準として考えられる同年代の人間の魔術使いがプタハ村に
いなかったため、気づかなかったのだ。
実際、シアも、もう1人も魔術は俺と同じ位使えるので俺は深く考えなかった。
クリスの魔術授業は例えが上手くて、使用する魔術のイメージがし易く、
きちんと知識を踏まえた上で実践を行うので、魔術の基礎も身につくのが
独学でするより断然はやかった。
余談だが、この世界では長い年月と高い難易度で遺失してしまったモノを魔法、
今も広く知られて使われているモノを魔術として区別して呼称されているのだが、
スキルでは区別なく【魔術】とされている。
面倒なので俺は”魔術”で統一して考えることにしている。
魔の”法”というよりも魔の”術”の方が個人的にしっくりきているからだ。
この世界の魔術を身につけることが楽しかったことも魔術の実力が
飛躍的に上がるのに拍車を掛けていた。固有魔術『エナジーシード』の
成功以来、俺は生活を改善する新魔法の開発と専ら、不便過ぎる現状を
打開することを原動力に魔術を磨いていった。
レオンの従者のエルフのケイロン小父さんは自身に適性はない
けれども、今では適性者がいないため失伝された【魔術(時空)】や
俺と同じく地球からこの世界に転生した魔術師と召喚された勇者が
その生涯をかけて構築したが、科学のないこの世界の人には難解で
あったため、ごく一部の魔術使いしか使えない【魔術(工学)】の
秘伝書など俺の目的の達成に役立つ本をたくさん持っていたので、
頼みこんで貸してもらった。
長期間本を借りる訳にもいかないので、【世界検索】の機能を
フル活用して記憶領域に本の内容を個別に保存、密かに写本を作成し、
バレないように細心の注意を払いつつ、トライアンドエラーを繰り返し
着実に覚えていった。
【世界検索】でも未修得魔術を調べることはできるのだが、
その内容は抽象的な表現が実物の書物より多用され、分かりにくいもの
も結構あり、【世界検索】の意外な欠点が分かってしまった。
生活基準の根幹意識が前世の現代日本である俺にとって、現状、
このエルドランドの、プタハ村での生活水準の向上は赤ん坊のころ
からの俺の最優先問題である。
不満をあげるときりがないのだが、大きいもので3つある。
1つ目は食料難。これは言葉を同年代が話せるようになってから、
それとなく二毛作や二期作、転作を実演を交えてレオン達に教え広め、
ようやく大きな成果がでてきて解決しつつあるので今回は割愛する。
2つ目は衛生面、このエルドランドの村ではきちんとしたトイレが
なく、基本、木陰や草むらに自力か魔術で穴掘って、用を足してから、
埋めている。所謂、ぼっとん便所はなかった。
貴族の屋敷や城では手持ちオマルにして窓から投棄するか、置物の
影など目に付かない所に捨てているという現代日本にいたときでは
中世ヨーロッパの歴史授業で教師が雑談のときに話していた冗談の様
な事が実際にされているのだ。
故に悪臭が酷く、貴族達の香水の使用量も半端な量ではない。
芳香の壁をブチ抜き、臭いがドぎつい。香水を使っている本人は臭い
になれているので平気だが、貴族によっては一種の結界とすらいえる
空間が形成されているのだ。
それに加えて、馬車などを牽く馬の馬糞も基本垂れ流して、
社会の最下層の人間、片付けるのを仕事としている奴隷が片付けるまで、
汚物はそのままという、不衛生極まりない環境なのである。
これは大規模な区画整理で村の家並みを変えるなどの交通整理を
しなければ改善できないので、今後、村の人口が増えて拡張する際に
提案する準備はできている。
3つ目も衛生面のものだが、この国では水が貴重なのか、風呂に
入るのは貴族のする贅沢行為という既成概念の所為で風呂文化、湯治、
入浴の習慣がないのだ。あと歯磨きも平民の下層から農民以下には
習慣すらない。
虫歯もきっちりこの世界には存在するのだが、歯医者は存在しない。
故に、歯ブラシと歯磨き粉の調達・作成は優先問題の1つであったが、
歯ブラシは素材に丈夫な魔物の毛を殺菌・洗浄してつくりだし、
歯磨き粉は【世界検索】で使用する薬草をピックアップして、調合し、
ペースト状にして作り出した。
俺が作り出した歯ブラシ・歯磨き粉はレオンたちにも絶賛されて、
村に普及。定期的にプタハ村に来る行商人の人に数点試しに大きな街で
売ってもらい、次回来たときに買い手の反応を教えてもらうことになった。
話が逸れてしまったが、前世でシャワーで済ませるよりも湯船で
じっくり入浴派の俺にとっては辛く、しっかり身体ができ、自由に
動けるようになって、魔術が使えるようになるまではひたすらお湯を
絞ったタオルで身体を拭くだけの我慢と忍耐の日々であった。
そして、クリスから正式に魔術を教えてもらった当日に【世界検索】
で得た情報を元に石風呂を早速覚えた【魔術(土)】で作ろうとしたの
だが、まだLVが低い未熟故に、上手くいかず、思い通りのものが
できなかったので、涙を呑んで、その日も毎日やっているおしぼり
タオルで体を拭いて、眠った。
翌日はリベンジのため、今度はケイロン小父さんの本で覚えた
【魔術(工学)】で不恰好なドラム缶風呂もどきを完成させ、
【魔術(水)】で張り、【魔術(火)】で湯を沸かして、適温にし、
久しぶりの風呂を堪能した。
ようやく全属性適性の恩恵の1部を遺憾なく発揮できるので、
風呂の湯は毎夜俺が沸かしてでもクリスたちにも入浴を習慣にさせるべく、
家に覚えた【魔術(建築)】の練習と称して、レオンを説き伏せて、
浴室を増築することに成功した。
レオン達は俺が遺失魔術である【魔術(建築)】がきちんと使えるとは
思いもよらなかったのだろうできあがった浴室を見て驚いていた。
他にも増築したいところだが、如何せん、材料がないのでできないので、
増築は一時保留。
うちでは【魔術(火)】の適性と覚えているのは俺のみなので、ラクして
お湯を沸かすため、近いうちに魔石を使った湯沸し機能を浴槽に付けるのが
次の目標だ。
「ア~ル♪」
ボグゥッ!!
「グハァ!? うう、……はい今日の分だよシア」
「あむあむあむあむ……ありがとうアル(ぎゅう)」
「ちょ、シア、絞まるっ、首が絞まってるから! 手を離して!!」
「やだ。アル~(ぎゅう)」
助けて以来、ほぼシアの日課になっている俺への抱きつきという名の
突進を受け止め、俺はシアに土、火、風属性の魔力の3種類で作った
『エナジーシード』をあげた。シアはそのうちの1つを食べたが、
うれしさを表現したいのか、シアは俺の首に腕をまわして抱きしめてきた。
まだ体に女性特有の凹凸はないが、子供特有のぷにぷにした肌の感触を
味わうよりも、呼吸を圧迫されるという圧倒的な生命の危険が俺に襲い掛かる。
シアは伸ばしている金髪と茶色の瞳が可愛らしく、同年代の女子と
比べて身長の伸びが速い。その身長は今のところ男の俺達と同じか
少しだけ低い。
天使の母親と獣人のなかでも美形な父親をもっていることもあり、
プタハ村の女の子のなかでも見た目はかなりいい部類なのだが、
【英傑】による空腹問題が解決するまでは肌と顔色が悪かったため、
当初、シアの容姿は全く目立たなかった。
解決した今では肌つやもよく、健康そのもので黙っていて着飾れば
上級貴族の子女といわれても納得できるのだが、天真爛漫で元気いっぱい
な性格なので、成長して落ち着くことを期待することにしている。
それはいいとして、俺は苦しさから必死にタップして苦しさをアピールするが、
シアがなかなか離してくれる様子がない。
「あらあら、今日もシアちゃんとアルは仲がいいわね」
母よ、のほほんとそうの給わずに助けてください。
貴女の息子が今にも三途の川を渡りそうです……。
シアに落とされた俺はクリスの魔術で回復し、クリスに連れられて、
シアを伴って、勉強を兼ねて近くの森で野草や果物の採集にでかけた。
「シアちゃん、これとこれを探してくれる?」
「はい。わかりました」
クリスが持ってきている見本を見て快活に答えるシア。
「大丈夫と思うけれど、魔物が出たら、すぐに合図をするのよ、アル。」
「分かっていますよ。母様。母様が張ってくれた結界の中にいるから
大丈夫ですよ」
魔力面では既にクリスに近づいている俺だが、体力はまだ子供の域を
出ていないので、既に【英傑】の効果で身体能力が人間の成人男性の域に
達していて、獣人の特性である人間よりも遥かに利く眼と鼻で採集の
目標物を探せる半獣人のシアと元Bランクの前衛職のトップ冒険者と
して活動していたクリスで組んでもらったほうがたくさん集められる
ので2人で組んで野草と山菜を探すようにお願いした。
俺の方は【世界検索LV2】鑑定機能で探せるので探す分には問題が
ないのだが、体力的な問題で2人の足手まといになるのは明白であり、
まだ1人で行動させることに不安があるシアにクリスが監督する形に
してもらったのだ。
勿論、その理由は【世界検索】をまだ2人に知られないためでも
ある。
野草と果実を探して2人の姿が森の中に消えていってから、俺も
目的の薬草を探すべく、村から離れすぎない位置で探索を開始する。
実は時々こっそりと村から抜け出して何回か覚えた魔術の試し撃ち
でゴブリンやワイルドウルフといった低レベル雑魚モンスターは既に
難なく倒せるようになっている。
命を奪うことには驚くほど抵抗がなかった。この世界に馴染んだが
故なのかは分からないが、人間の敵対者を殺すことも抵抗なくできる
気がする。
子供を1人で置いていくには森はたしかに物騒な所ではあるが、
クリスが安全確保のために俺の周囲に【結界魔術】で結界を張って
くれているから問題ない。この結界は土地ではなく、俺を対象にして
いるから移動しても支障はないのだ。
いままでに【世界検索】での検索、鑑定も併せてやっていたので、
経験則から、このスキルを成長させるのに必要な法則が分かってきた。
1つは検索機能で調べること。使用して入る経験値が1番低いが、
その分、安全かつ安定して【世界検索】の経験値を得ることができる。
もう1つは事物を鑑定すること。こちらは検索機能で調べること
よりも得られる経験値が多い。けれども、鑑定したものによって得ら
れる経験値の格差が大きく、全く同じものを鑑定しても経験値は一切
入らない。その情報に更新があれば更新内容に合わせて経験値は入手
できるが少ない。
初見のものかつ珍しいもの、価値があるもの、自分と比べて実力が
上の人物や魔物であれば多くの経験値が入る仕様のようである。
また、採取できる植物よりも魔物の方が得られる経験値が多い。
村の入り口に近いところにある穴場の薬草の群生地を【世界検索】
で確認し、そこに移動して必要な分だけ採集を終えたところで、
ふと気配を感じ、視線を向けると、半透明の液体の固まり、水羊羹を
饅頭にしたような丸い、バスケットボール大の大きさのスライムが
結界の外に静に佇んでいた。
今までゴブリンやワイルドウルフ、ワイルドラビットといった
魔物は視たことがあったが、スライムは見ていなかった。
ファンタジー世界でお馴染みながら、某有名RPGで雑魚扱いされ
たため、最弱魔物であると思われているスライム。
そのご他聞に漏れず、この世界でも一般的にスライムは最弱の魔物
として周知されているが、【世界検索】でこの世界のスライムを予習
できている俺は成長しても見た目が全く変わらないスライムがとても
最弱とはいえないことを知っている。
スライムは成長することで覚える【物理攻撃軽減】、【物理攻撃半減】、
【物理攻撃無効】で打撃属性の棍棒などの武器や、素手での攻撃を
減少、あるいは無効化し、【魔力収束破壊光線】や【消化液(射出)】
のスキルで遠距離から攻撃できるようになるのだ。
そして、最も厄介なのが【擬態】を覚える点で、主な生息地である
湿気が多い洞窟では岩などに擬態して、獲物が近寄ると死角から奇襲
してくる習性がある。
スライムの弱点は体内の核であり、それを破壊することで簡単に倒せるが、
成長すると段々それを覆っている細胞膜が厚くなっていき、
前述のスキルの効果も相まって次第に倒しにくくなる。
スライムは倒した獲物を細胞膜で完全に包み込み、体内に取り込ん
でジワジワと分泌する消化液で溶かして吸収していくのだ。エゲツない。
当然、捕らわれた動物は酸欠でも死ぬし、暴れると獲物の体に圧を
かけて、動きを止めようとしてくる習性がある。
とりあえず、俺は早速、【世界検索LV2】で目の前に現れたスライム
を鑑定した。
直後にレベルアップの効果音が脳内に鳴って、【世界検索】のレベル
が上がったのが表示された情報窓からわかった。
……解せぬ。次のレベルが上がるまでバー表示されている経験値が
あと全体の5%くらい必要だったのに。
気を取り直してスライムのステータスを視てみる。
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名前:なし(真名:なし)
種族:スライム 性別:両性 職業:ベビースライム
筋力:G 体力:G 戦速:G 知力:G
魔力:G 魔力抵抗:G 詠速:G 精神力:G
スキル:なし
称号:なし
備考:生まれたてのスライム。生まれたてのため、パラメーターは
最弱。通常、暗くじめじめしたところで群れて生息いる。
生まれたばかりでは他の魔物に倒されたり、捕食されやすいため、
単体で日の光が当たる場所にでてくるのは非常に稀。
大きな可能性の塊であるが、その可能性を体現した個体は少なく。
成長した個体は【分裂】で群れをつくり、高難易度の迷宮などにも
適応して生息しているものもいる。
===============================
どうやら強敵ではなく、希少性が高い方で判定されて、いつもより
たくさんの経験値を入手できたようだ。
なぜ危険な外に出てきたのか分からないけれども、せっかくなので、
【世界検索】と発見したクリス秘蔵の本で覚えたばかりの【隷属魔術】
の『調教』を試してみた。
なんでクリスがそんな本を持っているのかというと、【隷属魔術】に
よる奴隷化を解除するために術理を理解する必要があって、そのため
に持っていたのが本に貼り付けてあった付箋から分かった。
【隷属魔術】は大きく2系統に分かれる。人や天使、悪魔など、
この世界で魔物に分類されない存在を奴隷として支配する『奴隷化』
と、魔物を配下として隷属させる『調教』である。
【隷属魔術】の『調教』だが、一般に詠唱後に対象の魔物の足元に
隷属させる『調教』の専用魔法陣が展開してから戦闘し、HPを1割
まで減らす。または、戦意を喪失させれば術式が発動して、魔物を
”従魔”として使役できるようになるのだ。
一般に魔術のレベルが1~2では初級レベルの魔術でも詠唱を省略
できるスキル【魔法陣展開】で魔術の登録ができないとクリスの講義
で知った。
魔術の成長に関して妥協と自重しない方針でいる俺は勿論、
魔術のレベルは既に3まで上げている。
【魔法陣展開】のような便利スキルは取得済み。当然、使える魔術の
全てを魔法陣に登録して詠唱省略できるようにしている。
ベビースライムの足元の地面に『調教』の魔法陣が展開した。
あとはHPを手加減しながら減らすだけ……かと思ったら、
▼ベビースライムが従魔になりました。
と、【世界検索】で見慣れたログウィンドウに表示された。
呆気ない結果だが、どうやら戦意がなかったため、あっさり成功
してしまったようだ。
従魔化に成功したからベビースライムは友軍判定されてクリスが
俺のために張った結界の中に入ってきて、俺の肩に飛び乗り、頬に
擦り寄ってきた……表情はないけれども、意外と愛嬌があるな。
安直だが、俺は『調教』に成功したベビースライムに”イム”と
いう名前を付けた。
結界の異常に気づいて俺の危機だと急いで戻ってきたクリスがイム
を見て、驚き騒いで、手に持ったバトルメイスでイムを叩き潰そうと
するのを、シアが頑張って押し留める一幕があったのだが、俺が
『調教』で従魔にしたことを説明して、イムが俺の指示通りに完全に
従う様子を見て、荒ぶるクリスはなんとか鎮まり、事なきを得た。
俺の最初の従魔となった”イム”だが、脅威的な速さで成長してい
る。当初はスキルなしの最弱のオールGであったが、俺の従魔になっ
てから急成長して、以下のように成長した。
===============================
名前:イム(真名:なし)
種族:スライム 性別:両性(♀寄り) 職業:スライム
筋力:F 体力:F 戦速:E 知力:F
魔力:D 魔力抵抗:F 詠速:E 精神力:D
スキル:【分裂LV1】【擬態LV2】【魔術吸収LV1】【打撃攻撃半減】
【吸収LV1】【自動HP回復LV2】【魔術(無)LV2】
【魔術(水)LV1】【魔術(火)LV1】【魔術(土)LV1】
【魔術(風)LV1】【魔術(時空)LV2】
称号:【アルスの隷属魔獣】【変異体】
主人:アルス
===============================
両性(♀寄り)ってなんだ? ……考えても分からんから保留。
スライムは雑食、否、悪食といえる位、固体、液体を問わず、本当に
なんでも食べて吸収する。
また、シアに毎日あげている『エナジーシード』を試しにイムにも
あげたら、なんとLV1だがイムはあげた『エナジーシード』の属性の
魔術を覚えた。
更に、しばらくして【隷属魔術】で配下にした対象と意思だけで
疎通・会話できる【念話】を繰り返したところ、イムは言葉を覚えて、
短く拙いが、言葉を返してくるようになった。
俺はイムに俺の指示がない限り、人を襲ってはいけないこと。
俺が指示しない限り、村人に攻撃されたら【擬態】などで周囲に溶け
込み逃げること。俺が指示したもの以外は物を絶対に食べてはいけな
いこと。村人が怪我をしそうになったり、怪我をしたら助けてあげること。
以上の4点をひとまず遵守させることにした。
この世界のスライムの細胞の組成は大気中の水分と自身の魔力によって
できているので、俺の作った『エナジーシード』や家庭ごみなどを
食べて魔力に変換したイムはバスケットボール大から大型犬並みの大きさに
急成長し、自身の分身を作り出すスキルの【分裂】を覚えた。
そこで俺は兼ねてから掃除係りの奴隷がいないため問題になって
いる馬車の馬糞や村のごみ処理をイム(の分身)にお願いすることに
した。
レオンを通して村長に相談して、集会を開いて、村人全員にイムを
紹介し、野生のスライムと間違って攻撃しないように周知。
そして、野良スライムと見間違えないよう、イムには黒色になって
もらっている。なぜ黒かというと、透明だとイムが体内に取り込んで
消化しているゴミや汚物などが透けて見えてしまい、見映えがとても
悪いからだ。あと、常時【魔術(工学)】の『消臭』は汚物を発見次第、
必ず使うように指示している。
一時的に【分裂】で体積が減ってしまい、また元のバスケットボー
ル大になってしまったイムだが、しばらくしてから再び大型犬サイズ
になった。これ以上巨大になると戦闘時以外はなにかと不便なので、
いつのまにかイムが覚えていた【魔術(時空)】の『空間収納』で
余剰体積を収納して、必要なときに取り出すように指示した。
『空間収納』は【魔術(時空)】で覚えられる魔術で、荷物を亜空間
に収納できるようになる素敵魔術だ。例えるなら、未来から来た青い
猫型ロボットのポケットである。【魔術(時空)】のLVの上昇に併せ
て収納容量も増大するが、LV2で事足りるため、使用者の大半はそこ
から先に伸ばすことは【魔術(時空)】の経験値が溜まり難いことも
理由となってほとんどしない。
村のごみ処理当番として、当初はなかなか馴染めなかったスライム
のイムだが、比較的片付けるのがきつくて放置されがちな馬糞と汚物
を苦にせず処理してくれるので、次第に村中の人々に認められるよう
になり、親しくなった村人の挨拶にも手を形作って、ジェスチャーで
挨拶を返したりするようになった。
イムを『調教』して配下にしてから、俺の生活の衛生面の向上は
まだまだ続いた。馬糞処理の次にイム(の分身)にお願いした仕事は
家の汚物処理だ。
この世界に転生してからの数ある大きな不満の中の1つである
[家にトイレがない]をスライムで解決することにしたのだ。
勿論、レオンたちに相談し、使っていない小さめの部屋を改築。
穴で繋がっている地下を作ってそこに汚物処理係のスライムと除臭の
ための香草を植えた。
常駐するスライムには定期的に香草に【魔術(水)】で水をあげて、
枯らさないように命令している。爽やかな香草の匂いが部屋に
行き渡る様にするのと、部屋の換気のための窓と大気中の魔力を用い
た【魔術(風)】の魔法陣も設置している。
要となる便器の形状はU字型の洋式便器をケイロン小父さんの本と
【世界検索】で覚えた【魔術(工学)】を使って造りだし、ゴブリンを
含め全ての魔物が心臓部にもつ魔力の塊である魔石を加工して、数度
の失敗の苦労の末にウォーマー機能とウォシュレット機能の追加に
成功した。
また、肝心のトイレットペーパーだが、【世界検索】で調べた結果、
なんと【魔術(工学)LV1】で作れることが判明。
更にヘルプでスキルについて調べあげたら、従魔には主人が持って
いるスキルの一部を覚えさせたり、従魔が使えるスキル(種族的に
不可能なものを除く。例【分裂】)を使用できることが分かった。
つまり、トイレ番のイムの分身に【魔術(工学)LV1】を使って、
トイレットペーパーも生産してもらおうという訳である。
最初の30ロールを俺が森の間伐材から【魔術(工学)】で作り出し、
使用済みのペーパーを【魔術(工学)】の『殺菌』、『洗浄』、『分解』
させて、ストックが5ロールを下回った段階で在庫が少ない札をたて
させて、紙の材料を俺たちが専用の投入口から入れることで新しい
ペーパーをスライムに作り出すように指示している。
試験的に作って設置したトイレの評判は抜群で、村長の家とシアと
もう1人の幼馴染で、天使とエルフのハーフ、ケイロン小父さんの娘
であるソフィア・レグルスの2人の家に設置した。
数日後に村長の下に設置を希望する嘆願が殺到して対応を手伝っている
ウェインが悲鳴をあげていた。
これに対して俺は村の数箇所にイムの分身体の待機場所を兼ねて、
公衆トイレを設置することを提案した。
実際、一軒一軒回って作ることも可能ではあるが、回る順番で不満
が出るのを防ぐのと、イムの分身体の待機場所を数箇所作って安定
かつ迅速に村の汚物処理をできるようにしたかったからだ。
加えて、村民の家の中には隣家との敷地の問題で部屋を増築できない
家がかなり多かった。
公衆トイレは前世の公園にあったトイレを参考に、男女別の入り口
は勿論、イムの分身体が常駐できるスペースとして、屋根裏に大きな
空間を確保した。イムの分身体には不審者が居つくことがないように
公衆トイレの警備もお願いしている。不埒な目的での使用も許さん。
設置場所は勿論、村の井戸から離れた場所だ。
イムが俺の従魔になってくれたおかげで懸案事項だったトイレ問題
が解決し、それ以外の面でも活躍してくれている。
あと、スライム風呂も試した。いつものお湯の風呂もいいが、
スライムのぬるぬるした感触が意外に心地よく、中で浮遊する感覚が
身体に負担をかけないので、心地良かった。これはこれでありだ。
また、ウォーターベッドならぬスライムベッドも試してみた。
こちらは前世の低反発マットの様に体重を分散して受け止めてくれるので、
寝起きの疲労感がなくなったので常用している。寝汗も吸ってくれるため、
とても便利だ。
ご一読ありがとうございます。
ストック清書中につき、
次回は5月1日24時予定です。