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幕間その3 舞台裏3 王都クヌム ヴィシュネ伯爵邸執務室 / ジェミナス侯爵第3屋敷

お待たせしました。

短いですが、幕間になります。

「お父様、ご機嫌がよろしいようですがなにかいいことがありました?」


わたくしの父、トッド・ヴィ・ヴィシュネは先程、当家の屋敷に来訪された新興の

貴族で在らせられるレオンハルト・ヴィ・アクエリアス男爵との商談を終えられて

から、娘のわたくしが言うのも憚られますが、その如何にも悪いことを企んでいま

すよという悪役のお顔に肉食獣が浮かべる様な獰猛な笑みを浮かべていました。


 その強面から多くの人に誤解されるのですが、お父様がこの様な笑みを浮かべら

れるときは本当に誤解されてしまうのですが、心の底から嬉しいことがあったとき

だけなのです。


「ああ、先程のアクエリアス男爵との商談は実に有意義なものであった。

昨日、リアンナが私に渡してくれた当家が市販している石鹸よりも高品質で品質も

均一なあの石鹸と洗髪剤、洗髪剤と一緒に使うことで髪を保護するリンスという毛

髪保護剤の販売を当家を介して行う契約を結べた。

 更にあの仕立て屋キャロルの所で今後大々的に販売する新作の女性用下着の販売

にも一枚噛めるようになった」


あの、お父様。その泣く子がもっと泣きだしそうな獰猛な笑みはどうにかならない

でしょうか。流石に娘のわたくしもすこし怖いですわと流石に声に出すのは憚られ

たので、わたくしは相槌を打って、内心で苦笑いをしました。


「ふむ、リアンナはアクエリアス男爵の令息のアルス殿のことはどう思う?」


不意にお父様は思案顔になられて、わたくしにそう問いかけられました。

わたくしの脳裏には昨日偶然出会った、女のわたくしから見ても綺麗な銀色の髪を

頭の後ろで束ねて、特徴的な強い意志を感じる蒼い切れ長の瞳をしたわたくしより

もたしか3歳ほど歳下の男の子を思い出しました。

 本人は非常に気にされているようですが、一見すると女の子にしか見えない年齢

不相応に賢く、大人びた彼の顔が浮かびました。


「容姿と中身が伴っていないことからはある意味、お父様に似ている方ではないか

と思いますわ」


世間一般の方に誤解されていますが、悪役顔のお父様は女衒(ぜげん)という家業が母方の家

に多大な迷惑をかけることを承知しているため、お母様の家の家名を商売のときや

貴族同士の外面的な付き合いのときには名乗らない様にされています。

 しかし、心から信頼できる人間には身分を問わず、折を見て、改めて母の家名を

名前に加えて名乗るほどの愛妻家です。


 本当に世間には悪徳貴族と大きく誤解されますが、お父様の経営指針は信賞必罰、

公明正大です。「勤労には褒章を、不正には厳罰を」を常に提言されているので、

他の隠れてこそこそと不正や悪政を敷いて貪っている本当の意味で王国に寄生して

いる悪党と比べるべくもない誠実な姿勢を貫かれています。

 世間に完全に誤解されていますが、お父様はどこかの恥知らずな大貴族と違って、

使用人を散々酷使した挙句の果てにボロ雑巾の様に放り捨ててはいません。


 わたくしのお母様はヴィシュネ伯爵領でお仕事をされているのですけれども、

週末の1日にはこの王都にあるここの屋敷に領地の運営報告を兼ねて訪れられて、

わたくしを交えてお父様と一緒にお食事をされ、お父様と一夜を共にして戻られる

生活をされています。その生活への不満は微塵もなく、生きがいを感じられている

のが端から見ていてわかる程充実されています。


「ほほぅ、なるほど。

お前が幼馴染のあのトリニティア侯爵家の息子と婚約していなければ、是非とも、

アルス殿の所へ嫁がせたいのだがな。その侯爵の息子はどうしている?」


わたくしの返答に少し驚かれて、なにやら納得されたお父様はわたくしの幼馴染で

許婚である侯爵家三男の話題を振ってきました。


「最近はあまりお会いしていませんわ。

軍閥貴族を後見にされている第一王子派の貴族のご子息たちと仲がよろしいようで、

お会いしてもエリカ様の下から第一王子のニール殿下へ鞍替えするようにしつこく

誘ってくるばかりですわ」


わたくしは最近の許婚であるニック・ヴィ・トリニティアの無粋(ぶすい)な行動に辟易して

いる。同年代の貴族の子弟が将来のため、この国のためにと切磋琢磨しているのに

も関わらず、彼は繋がりを作るでもなく、刹那的な快楽を優先して遊び惚けている。

 虎の威を借る狐の様に周囲を威圧する彼の行動はわたくしにとって許容し難いも

のであり、それがポーズではなく、彼の本心だと思い知らされたときのわたくしは

彼に激しく幻滅させられました。


「そうか」


お父様はそう短く仰っていますが、ニックに対する感情はわたくしと同じ失望の様

でした。向こうの爵位が上のため、侯爵家に瑕疵なくわたくしの婚約を破談にする

のは世間の風当たりの強い当家の貴族社会での立場を更に悪くします。

 このままではわたくしとニックは結ばれることになるのですが、そこは貴族社会。

無事成人するまでに何らかの状況変化があるのが予想されます。

 その元凶になりそうな王位継承問題と新興貴族であるアクエリアス男爵家が台頭

してきているなど話題には事欠きませんから。


 このときのわたくしのこの軽い懸念が後年、まさか現実のものになろうとは

このときのわたくしは知る由もなかったのでした。




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王都クヌム 貴族街にあるジェミナス侯爵家所有の第3屋敷

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「くそっ、くそっ!」


オレは王都の菓子屋から屋敷に帰ってきてから、親父と兄から自慢話と小言を言わ

れた後、自室に戻り、手近にあった椅子を蹴飛ばした。


「気にいらねぇ、気にいらねぇ!!」


オレは今日、菓子屋(リュッシュ)で見かけたエリカ殿下とリアンナ伯爵令嬢に似た容姿の貴族の

娘2人を本物を堕とす前の予行演習として篭絡するつもりだったが、思わぬところ

で邪魔が入り、その目論見を狂わされた。


 オレはこの憂さを晴らすため、屋敷で飼っている奴隷を部屋に呼ぶことにする。




 オレが奴隷どもを相手に存分に憂さを晴らしたところで部屋の扉がノックされた。


「おじ……アンジェロお兄様、入ってよろしいですか?」


親父の家族でオレは末弟なので、オレを兄呼ばわりする者はこの屋敷で1人しか

いない。


「ああ、丁度終わったところだから別にかまわないぞ」


オレはハンガーにかけていたバスローブを裸身に纏い、別段断る理由がないので、

その声の主に入室を許可した。


「あらあら、今日もお盛んですわね……って、態々赤髪とストロベリーブロンドの

ウィッグを奴隷に被せてされているのですか」


オレがバスローブ姿で奴隷どもが痙攣して気絶している部屋に入ってきた幼女は

年齢に見合わぬ発言をしてくるが、いつものことなのでオレは別段気にしない。


「飼っている奴隷相手にナニをしようがオレの勝手だろう、ヴィーナ?

それで、なにしに来たんだ?」


ヴィーナ・ヴィ・ジェミナス。俺の目の前にいる輝く金髪をツインテールにした

紫水晶(アメジスト)を思わせる瞳をもつ幼女の名前だ。

血縁としては俺の淫乱な姉の娘の1人で庶子となって当家の名を語るのを許されて

いない姉の子供の中で唯一例外としてこの幼女は許されている。


 その理由は生来もった美と愛の女神の祝福があるかららしい。生まれてすぐに、

暗殺などを防ぐためにジェミナス家の嫡子は魅了魔術を完全に防止する代々伝わる

秘術を施している。故にオレを始め、親父と兄にはヴィーナにかけられた祝福(呪い)

効果がない。魅了効果はヴィーナにとって異性、つまり男性にきわめて強い効果が

あるのが判明したため、家長である親父の一言でヴィーナは本邸に自室をもつこと

を許された。


「王都で評判のお菓子の店のお茶菓子をもらったから、おじ……お兄様と一緒に

お茶をしようと思ったのですが、いかがですか?」


あざとく、上目遣いで潤んだ瞳で懇願してくる。

身内贔屓を抜いても、可愛らしいその仕草に断れる人間は同性か余程の女嫌い位

だろうとオレは感心しつつ、その小さな茶会によばれることにした。


 出された茶菓子が先刻晴らした憂さの原因となった(リュッシュ)のものだと知らされて、

その菓子が思いの外、美味かったので、オレは渋面をすることを強いられた。


ご一読ありがとうございました。


次回は第3章登場人物ステータスを投稿予定ですが、記載されるのは台詞があったり、

きちんと本編で名前が出た人物のみになります。


※第一王子と第二王子、今回の幕間で出たヴィーネに関しては今回は記載しません。


投稿は7月15日金曜日朝6時投稿を予定しております。

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