第28話 王都を出てゆっくりできると思うのをやめた
◆前回までのあらすじ
アルスは変装解いて正体明かしたら、偽名で自己紹介していきた美少女2人は王国のエリカ第一王女と
その友人のヴィシュネ伯爵令嬢であるリアンナさんだった!?
今回のお忍びは姫様のお城でのストレスが爆発して計画されたが、その計画には微妙に穴があった模様。
性別をきちんと伝えたにも関わらず、アルスはクリスにされた様に王女たちにも着せ替え人形として
遊ばれる羽目に(合掌)
翌日、「太陽の恵み亭」にヴィシュネ家から遣いの人が来て、
ヴィシュネ伯爵が話しがあるということで俺とレオンが呼び出された。
遣いの人が乗ってきた場所に乗せられて、王都の貴族街に移動した。
貴族街は王都のでも優先的に馬糞などの処理がされているようで、
貴族街の入り口を過ぎたところから汚物は視界に入らなくなった。
あらかじめ『消 臭』と『清 浄』を使用しているので悪臭は感じないが、
どうやら汚物の臭いは香水で誤魔化しているみたいだ。
遣いの人が俺の作り出した『消 臭』と『清 浄』の圏内に入って驚いていたので、
その辺のことを聞いてみてわかった。
俺達は貴族街の中程の所の周囲の屋敷より2周り程大きい屋敷に辿り着き、
門番が守る大きな門を過ぎ、広い庭を越えて屋敷に案内された。
屋敷の中は国内第1位の財力をもつからといって、豪華な調度品がごろごろ
並んでいる訳ではなく、品格を落とさない程度に高価な調度品が計算された配置で
並べられていた。
執事の人に応接室に案内され、俺とレオンは待っていたヴィシュネ伯爵と
軽く挨拶を交わして、本題の商談に入った。
話の内容は俺が作った石鹸とシャンプー、リンスの販売をヴィシュネ家の店舗でも
扱いたいというものと、俺がデザインして仕立て屋のキャロルさんが作りあげた
女性用下着の販売に伯爵が一枚噛みたいということと、拡張するプタハ村に娼館を建てるなら
必要な人材をプタハ村に送るから任せてほしいとのことだった。
前者は2つ返事で了承して、後者もこちらにとっては渡りに船の話だったので
お願いすることにした。
派遣する娼婦の準備も必要なので、1週間後に視察にヴィシュネ伯爵がプタハ村に
行くのでそれまでに娼館を建てる場所の候補地をいくつか決めておいてほしいとのことだった。
今後村の開拓のために屈強な男たちが参加してくるが、そこで彼らの性欲の捌け口が
問題になる。前世の世界では倫理的に大問題だが、こちらの世界では娼婦たちの存在は
許容されている。
女衒に関してはヴィシュネ家が代々国から任されていて、勝手にやったら
家ごと叩き潰されてしまうので、必要ならば必ずヴィシュネ家に話を通さないといけない。
ヴィシュネ家に隠れてそういう商売をして爵位剥奪のうえ、路頭に迷った貴族の数は
結構多い。
話しがまとまったあと、先日リアンナさんに伯爵に渡すようにお願いしたのとは
別の香りのする石鹸のサンプルを数点をヴィシュネ伯爵に渡して帰った。
リアンナさんに挨拶しようと思ったけれども、今日は王城に出かけていて屋敷にはいない
そうだ。
その後、「太陽の恵み亭」に送ってもらった俺とレオンはクリスたちと合流して、
プタハ村では入手できない香辛料、野菜は栽培するのに必要な種類を入手できるものを
全て購入した。ガウ小父さんたちへのお土産も確保済みだ。
「この辺なら大丈夫かな」
「ふむ、ならばアル。頼んだぞ」
ジェシカさんにプタハ村が落ち着いたらまた来ると告げて「太陽の恵み亭」を
後にした俺達は石馬形馬車で王都を周発した。
そして、周囲に人や魔物などがいないのを確認して俺は『転移門』を使った。
扉の向こうにはプタハ村の光景が広がっている。
「臭いは酷かったけどいろいろ楽しかったね。アル」
「そうだね。トラブルがあったけど楽しかったね」
「アルの『転移門』でいつでも来れるから便利になった」
「……ソフィも『転移門』覚えない?」
「空を飛んでいけばいいからボクはいいや」
「あたしもお空を飛べるからいらないよ」
「うう……」
「悪いが適性の問題もあって俺達では『転移門』は使えないんだ」
「ごめんなさいね」
「僕は乗り物じゃないんですけどね……」
ため息とともにそう呟いて、俺は御者石人形に村に入るよう指示を
だした。
「数日中に資材が届くので、届き次第、工事を開始します」
「ああ、頼んだぞ。アル」
「はい」
短く返答したあと、馬車は『転移門』を抜け、見慣れた風景の場所に
着いた。
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「お帰りなさいませ」
エヴァが村の入り口で出迎えてくれて、俺はようやくプタハ村に帰ってきた
という実感がした。
「うんうん、やっぱりプタハ村の空気の方がおいしいね♪」
「同感。王都の空気はアルがいなかったら耐えられなかった」
「お? てっきり2人は初日で帰ってくると思っていたが、
あの悪臭にはアルのおかげで耐えられたのか?」
シアとソフィの会話にいつの間にか現れたガウ小父さんが混ざっていた。
「むぅ~、お父様なんで王都の臭いがきついこと教えてくれなかったの?」
なにも言わずに送り出したガウ小父さんにシアは頬を膨らませて怒っている。
「ん? あの悪臭は言葉じゃ言い表せないからな。
実際に嗅いでみてわかっただろ? 俺達が王都に行くのを嫌がった理由が」
悪臭と汚物が飛んでくる所には俺も流石にもう必要な物品の買出し
という名目がない限り行きたくない。
だがジェシカさんの「太陽の恵み亭」に着いて初日にご馳走になった夕食、
こちらの世界の”カレー”は例外だ。
仕事の合間に『転移門』を使って食べに行こうかと考えている。
「太陽の恵み亭」では当初、大人向けの辛口しかなかったが、
俺の発案で甘口と中辛もできた。
王都で香辛料も買い揃えて、配合比率も俺の【世界検索】で調べたから、
あとはプタハ村でも研究あるのみ。
「男爵になってしまった以上、俺達は陛下の御呼びがあったら、
嫌でも行かなければならないのだぞ、わかったかアル?」
レオンに俺が王都に行きたがらない考えを見透かされてしまう。
「それも僕がアクエリアス家を継いでからのお話ですね。
まだ8歳の子供の僕が王都に呼び出されることはまずないでしょうから、
それまでは父様に『消臭』と『清浄』の魔導具を持って行って、
陛下の御下命のために頑張ってもらいますよ」
俺の笑顔と言葉にレオンの表情が引き攣っている。
そう、俺は肉体的にはまだ8歳の子供なのである。
この世界に転生してまったり異世界ライフを満喫するつもりが、
不潔、不便、不足の3Fを解消しようと頑張ってきた。
けれども、気がついてみればガウ小父さんたちに死にかける修行を課され、
魔王種という天変地異クラスの災害の魔物を退治することになり、
なぜか、武闘派大貴族と死合うことになって……んん?
どんどん快適なまったりライフの道から外れていっている気がするぞ。
まぁ、修行したり、退治したり、死合わなければこれからラクできないから、
文句は言えないのだけれど、年齢に比して波乱なイベントの連続に軽く凹んでしまった。
「ほら、アル、行こう?」
「村長さんとエリザさんたちが待っているから行こう」
俺に笑顔を向けてくれるシアとソフィに手を引かれて、
俺は思い出した。
空腹で死にそうだったシア、魔力過剰症で苦しんでいたソフィを
助けたときのことを。
俺は2人の言葉に頷いて歩き出す。
あのとき”別の”選択をしたときのたらればが、有り得たかもしれない
2人のうちどちらか1人がこの場にいない未来が脳裏を過ぎって、幻視させ、
俺の背筋にひどく冷たい嫌な汗が流れた。
同時にあのときの”助ける”選択をしたことが間違いではなかったのを
両手を引いている2人の手のぬくもりを感じて俺は実感していた。
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その夜、議事堂に村の住民を集めて、改めてレオンが男爵に昇爵されたことが
告知されて、ささやかながらとは言葉面だけの村をあげての盛大な祝宴が開かれる
ことになった。
狩人組は森で祝いの料理に出す獲物を狩ってきて、料理のできるクリスとエヴァ、
村のおばちゃん連中は議事堂に俺が【魔術(建築)】で作った臨時の調理スペースで
狩人組に届けられた肉をよどみのない見事な連携で次々にどんどん調理していく。
俺とレオンは溜まった書類の処理と村の周囲の近況報告をガウ小父さんと
ケイロン小父さんから受けていた。
シアとソフィは狩人組に加わって森に行っている。
概ね不在中は村に問題らしい問題は起こっていないことがわかった。
溜まった書類が片付いたところで俺は醤油と味噌の倉の様子を
見に行くことにした。
醤油は通常のものに加えて、甘口も試しに作っていて、
更に刺身向けの醤油も上手くできていた。
味噌の方も上手くいって、白味噌と赤味噌、合わせ味噌の生産に
成功した。
ただ、問題がない訳ではなく、醤油も味噌も塩が足りないため、
若干塩気が物足りないので、特産品として村の外に流通するには
まだ難しいことがわかった。
今回の王都へ行ったときにケルヴィン陛下から塩湖のある領地を
下賜されたから、塩の生産体制を整える計画を練ることにしていたので、
この計画の重要性がまた上がった。
今後の村の拡張で倉も大きくする旨を伝えて俺は倉を後にして、
村の中を歩き回ることにした。
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村はお祭り状態で活気に溢れていた。
今後の村の一層の発展と明るい未来にみんな希望を持っているのが
見て回ってわかった。
だが、そのなかでも遠くから苦々しげな視線を俺に向ける複数の
存在がいた。ウェインの従兄がリーダーをしている集団の男達だ。
彼等は当初、村の大人の仕事の手伝いを始めて仕事を覚えるために
働きだしたが、仕事のきつさに途中で逃げ出したた者たちが集まっている。
俺やクリス、ケイロン小父さんたちが開いている勉強会にも出席せず、
狩人組の人たちに師事する訳でもなく、日中遊びまわって愚連隊を
気取っている困った集団だ。
リーダーが村長の血縁ということで働かざる者食うべからずが本当に現実で
とても厳しいこの世界の寒村でも食料が回されていて、その権威を笠に着ている
節があり、村民たちからは鼻摘み者扱いされている。
クリスとレオンたちは何度も更生させようとしていたが、全く効果はなかった。
俺にもクリス譲りで女性と間違えられる容姿をネタに絡んでくることがあったが、
あまりにしつこく絡んできたので俺は【魔術(水)】で低威力の『水 球』を作り出し、
奴等の男の尊厳に直撃させて、失禁したかのように奴等のズボンを濡らした。
次の日には全員で俺に復讐しようとしたが、全員『水 球』の餌食にして追い払った。
それ以来、俺に不愉快な視線を向けてきて事ある毎に因縁をつけてくるのだが、
残さず返り討ちにしている。逆恨みされても困るのだが、向こうは一向に懲りていない。
奴等の様な集団は目先のことしか考えていないから、今後大それたことをしそうなので、
早めになんとかしたいが、肝心のレオンとクリスが踏み切れないところがある。
少なくとも奴等の中からこの世界で成人扱いになる15歳の人間が出始めると
奴等の存在がプタハ村にとって致命的になりかねないと俺は考えていた。
まさか成人が出る前、早くも翌年にこのとき考えていたことが正しかったと
思うハメになるとはこのときの俺は考えもしなかった。
ご一読ありがとうございました。
第3章本編はこれにて終幕です。
次回から幕間、次々回は登場人物ステータス紹介となる予定です。
次回投稿は7月11日月曜日朝6時を予定しています。




