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第27話 もう初対面で性別を間違えられないと期待するのをやめた。

◆前回のあらすじ

アルスは穏やかな朝をシアとソフィ、2人と迎え王都を訪れた目的の1つのために動き出す。


王都の人気店『白猫食堂』のシェフのおすすめを堪能するシアとソフィ。

仲良くアルスを含めて3人で料理を分け合って食べる。


目的のお店の前でアルス達は偉そうな貴族とその取り巻きに絡まれている美少女2人を助けて店内へ。

「アル様、こっちですよ~」


シアが王都のケーキ専門店蜂の巣(リュッシュ)店内のイートインスペースにある

個室の入り口で手を振っているのを見つけ、俺は足早に向かった。


 既に3人がけの長椅子側にシアとソフィが座り、年上の2人は

テーブルを挟んだ向かい席に着いていた。

 会話を盗み聞きされないよう既にソフィが『無音領域(サイレントフィールド)』を

張っていた。


「先ほどはありがとうございました。

わたくしはアリア・ヴィ・ミーティアと申します。

……セリカ? セリカ? 大丈夫?」


お姫様然としたストロベリーブロンドの子が丁寧に名乗ってくれたのだが、

残念だがそれが偽名であるのは【世界検索(ググール)】の鑑定機能で既に

確認済みだ。


 もう1人の赤髪の子がなにやら俺を見て呆けているのだが、

アリア(偽)さんの数度の呼びかけでようやく正気に戻ったようだ。


「…ああ、わたしは大丈夫だ。エ…こほんッ、失礼。

わたしの名はセリカ・ヴィ・シルフィーディスだ。さっきはありがとう」


はい、こちらの騎士然とした赤髪の美少女も案の定、偽名である。


 まぁ、実際このお2人はここ(・・)にいたらいろいろ問題のある人たち

でもある。


 その言葉使いと何気ない仕草が付け焼刃のものではなく、

きちんとした教育と教養から身につけているのが見る人間が見れば

一見してわかるれっきとした貴族の御令嬢たちなのだ。


「アル様の従者をしているシンシアと申します」


「同じく、ソフィアと申します」


シアとソフィも簡単に自己紹介を返して済ませた。


 さて、どうしたものか。俺は目の前にソフィが淹れてくれた

紅茶を一口飲み、少し思案した。


 ここでお互いに偽名を名乗り合って腹のうちを探り合うために牽制しあい、

この場限りのお付き合いをするのは折角来た王都で美味しいと評判のこの店の

お菓子の味が酷く不味くなりそうだ。


 予想外の道連れはいるけれども、元々はシアとソフィとデート目的で

来たのだから、それは避けたい。

 そう思った俺はシアとソフィに相談せずにすぐに行動に移すことにした。


「僕の名前はアルス・ヴィ・アクエリアスです。

田舎の成り上がり貴族の1人息子ですが、よろしくお願いします。姫様がた(・・・・)


そう言って、俺は一時的に『幻 影(ミラージュ)』を解いて、少し短いポニーテイル

にしている真紅の赤髪をクリス譲りの誇りでもある綺麗な銀髪に戻した。


「アクエリアス? 息子? 君は本当に男性なのか?」


 案の上、凛々しい表情をしていたセリカ(偽)さんの目が点になり、

アリア(偽)さんに至っては俺の変貌にカップに口をつけたまま目を

見開いて固まっていた。


 未だに女の子と間違えられていたことにそろそろ諦めの境地に入ったが、

2人の驚いた表情に……計画通り! と俺は内心でほくそ笑んだ。


「お2人が素性を隠そうとされるのは分かりますが、

その変装ではすぐにバレて連れ帰らされてしまいますよ?

せめてこれ位はしないと」


地毛のままで髪型を少しいじっただけのお2人に俺は苦笑いしつつ、

『幻 影』を再び使用して銀髪を真紅に染めた。


「シアとソフィは紅茶の追加とシュークリームとアップルパイを

人数分買ってきてくれないかな? お金はこれから出してね」


そう言って俺は『空間収納』にしまってある金貨を入れた袋を

シアに渡した。


「はい、行ってきます!」「……シアの手綱は任せてください」


俺の行動の意図を読んで元気よく返事をして部屋を出て行くシアに

ソフィが続いて部屋を出て行った。


「貴方の狙いはなにかしら? アルス君?」


アリア(偽)さんが俺を警戒した目で見据える。

セリカ(偽)さんも険しい視線を俺に向けてくる。


「ん~、とりわけなにも? 強いて言うならば、先ほどの貴族と

同じ理由で甚だ、とっても不本意ですが、偽りのないお2人と一緒に

ここの美味しいお菓子を食べて、美味しくお茶が飲みたいという所

でしょうか?」


「君がそこまであの貴族の彼を毛嫌いしているのはわかったが、

なんでそこで疑問形なのだ?」


セリカ(偽)さんが先ほどからの険しい視線を一転、少し呆れたよう

に問いかけてきた。


「お2人を助けたのは偶々でしたし、実際、あの場に介入しないで、

このお店に入ることはできたのですが、お2人を放っておいて、

個人的に因縁のあるあの馬鹿貴族の思い通りにさせるのが気に入らなかった

からですね」


「彼が誰だか貴方は知っているのかしら?」


アリア(偽)さんが問いかけてくる。


「ええ、知ってますよ。

南を治めるジェミナス侯爵家の5男、アンジェロ・ヴィ・ジェミナス様ですね。

 あと、外に音が漏れないように魔術を施していますので、

できれば貴女がたのお名前を教えてくださいませんか?」


さっきの取り巻きを連れた貴族は心底嫌だが、アンジェロはジェミナス侯爵家の

3男であったレオンの弟になるので俺の叔父にあたる。

 向こう(アンジェロ)の年齢は俺の2つ上だが。

それは現ジェミナス家の当主がお盛んだったある成果だ。今はどうだか知りたくもない。


 最も、向こうは『幻影』で変装していたので俺の素性に気付いていないはずだ。

まだこちらに仕掛けられた訳ではないのでこちらから攻勢に出るつもりはない。


 あと、【世界検索】の鑑定機能で目の前の2人の名前はわかっている。

けれども、きちんと名前を名乗ってもらったほうがいいという判断でお願いした。


「……わたしの名は正しくはエリカ・ヴィ・バルゴス。

名前からわかる通り、この国の第一王女だ」


ケルヴィン陛下譲りの燃えるような真紅の赤髪を揺らし、

エリカ殿下は毅然として俺に名乗ってくださった。


「エリカ様!」


本名を明かしたエリカ殿下をアリア(偽)さんが声を荒げて咎める。


「アルス殿は助けてくれたばかりか、偽名を名乗っていた

わたしたちに誠意をもって、変装も一時的にだが解いて、

自身の正体を明かしてくれた。

 誠意を以って応えねば不義理ではないか?」


「ええ、それはたしかにそうですけれども……」


「ここで名前を教えとかないと次に会ったときにアルスが困るだろう?」


「果たして次にお会いしたとしても、どこでお会いしたかということが

問題になりますのに。はぁ、全く仕方ありませんわね。

 わたくしの名はリアンナ・ヴィ・ヴィシュネと申しますわ」


「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」


「……ええ、よろしく」


リアンナさんの反応が少し固く、家のことを俺と違って語らなかったが、

これは仕方ない。


 何故なら、彼女の実家ヴィシュネ家は代々王国の女衒ぜげん

娼館を取り纏めて運営してい貴族だ。


 爵位では4大貴族に遅れをとっている第3位の伯爵であるのだが、

財力では国内第1位で僅差で2位のジェミナス家と首位を争っている。


 余談だが、財力3位はアヅチと貿易して利益をあげている

ジェラルド御祖父様のアリエス公爵家だ。


 ヴィシュネ家は現当主、リアンナさんのお父上のトッド氏が公正かつ

厳格な経営者でもあり、女性を商品として扱わざるをえない仕事柄上、

しょうがないとはいえ、ついて回る風聞は根拠なく酷いものばかりだ。


 しかし、本人は気にもしていないし、それに踊らされているのは

ヴィシュネ家をろくに知らない愚かな自称貴族や平民たちだけだ。


 王国の娼館のイメージは地球の江戸時代の日本にあった吉原の遊郭の

イメージが一番近い。独特の作法や”粋”を求める価値観があるとか。

 男たちが一夜の夢を蝶々と戯れるためにお金を落としていく場所なのだ。


 男として興味はあるけれども、残念ながら可愛い婚約者が既に2人いるので、

俺がそこの蝶々のお世話になることはないだろう。


 どう間違ってもこの身体年齢の子供が話題にする話ではないな。うん。


 ちなみにヴィシュネ家はその仕事の関係上、化粧品・衛生品にも

力をいれている貴族で、市井で売られている石鹸や香水などの大半の

生産・販売も錬金術組合と商人組合と連携して行っている。


「失礼します」「アル様、買ってきました!」


話が一段落したところで、カートにティーポットと頼んだお菓子を

載せてきたソフィとシアがドアをノックした後、一礼して入ってくると、

固かったリアンナさんの表情が和らいだ。


 堅苦しい話はここまでにして、味わわせてもらおうか!

王都で評判の蜂の巣のお菓子とやらを!!




「本当にいいのか?」


「ええ、構いませんので気にしなくていいですよ」


「エリカ、ここはアルス君の厚意に感謝しましょう」


この店で飲み食いしたお金の支払いに関するやりとりである。


 リアンナさんのエリカ殿下への口調が砕けたものになっているが、

ここ数時間で俺達に打ち解けて気を許してくれている証左だ。


 本来、エリカ殿下は王城から出られない身であり、リアンナさんも

ヴィシュネ伯爵の用事、アクエリアス領での仕事の話で召喚されたのに、

親友である殿下が心配でついて来たのだ。本来ここにいるのは

殿下と同じくありえない。


 ストレスが半端なく溜まるあの不衛生な悪臭漂う王城にいただけあって、

エリカ殿下のストレスはかなり溜まっていて、遂に爆発し、かねてより、

リアンナさんと計画していた城下へのお忍び訪問を敢行したのが、

今ここにいる発端であった。


 最も、全く2人共飲み食いするためのお金を用意していなかったが。


「しかし……」


「楽しい時間を過ごさせてくださっただけで僕は構いませんよ。

それとは別にリアンナさんにお願いしたことがありまして

……この3つをヴィシュネ伯爵様にお渡しください。


 もう1つはリアンナさんと殿下も、身を清める際に宜しければ

お試しください。もし、肌に合わなければ使用はすぐにやめてくださいね」


そう言って、俺は『空間収納』から自作して村で配布から販売に切り

替えたラベンダーのアロマオイルを使った石鹸とシャンプー、リンス

を出し、さらに『空間収納』の魔法陣を応用して作った

『マジックバッグ(小)』を3つ出して、先の3つを其々に入れ、

1セットをリアンナさんに渡し、もう1セットをエリカ殿下に、

残りの1セットをリアンナさんにプレゼントした。


 さらにエリカ様には『消 臭(デオドライズ)』と『清 浄(クリーン)』の

魔導具も数個おまけして、使い捨てだけではなく、複数回リチャージ使用が可能な試作品も

使い方を説明して渡した。


 袋には小さくではあるがアクエリアス家を象徴する宝瓶の家紋を

この『マジックバッグ(小)』を解析しようとすると袋が自壊する魔法

陣を糸に付与して刺繍してあり、袋自体にもこの刺繍部分を切除しよ

うとすると袋の中身をその場にぶちまけて袋が爆発する魔法陣を刻ん

だ糸で作ってある。このことはリアンナさんにも伝えている。


 手間は掛かっているが、第3者がマジックバッグの技術を盗作しよ

うとしても無駄というか寧ろ台無しになる仕様にしている。


「あと2日は王都の『太陽の恵み亭』にいますので、そう言い添えて

伯爵様にお渡しください」


「……ええ、承りました」


なにか思うところあるのか少し間があったが、リアンナさんは

承諾してくれた。


「ありがとうございます。

さて、この後お2人はなにかご予定はありますか?」


「いや、特にないが……」


「……そうですわね。このお店のお菓子が目的だったので、

特に決めてませんでしたわね」


「では、僕達の買い物に付き合っていただけないでしょうか?

この後、シアたちの服を買いに行こうかと思っているのですが、

男の僕ではそちらのセンスがないから2人に似合う服が選べなくて、

困っていたんですよ」


「そうか! わたしは構わないが、リアンナはどうだ?」


嬉しそうにエリカ殿下がリアンナさんに尋ねと、


「わたくしも構いませんわ」


リアンナさんも快く返答してくれた。


「ありがとうございます」


「「ありがとうございます」」


こうして、5人で先日クリスに連れられて行ったキャロルさんの服飾店に

足を運んだ。


 店の外でアンジェロの取り巻きをしていた貴族が待ち構えていたが、

霧隠れ(ミストハイド)』をクリスたちへのお土産にシュークリームを買った直後に

全員に付与したので、俺たちが横を通り過ぎても見向きもしなかった。


街の警備、お疲れ様です(違)。


 そうして、目的の服飾店に着いたあと、追加発注していたシアたち

の下着を受け取った。シア達の下着、この世界になかったブラに興味

を持ったリアンナさんは店員に頼んでエリカ殿下と併せて、

すぐに採寸してもらい、予備も含めてシアたちのとサイズは違うが

デザインは同じシンプルなものを発注していた。


 シアとソフィの服をエリカ殿下たちの助言を交え試着しながら、

シアとソフィが気に入ったものを2着ずつ選んで買った。

 今回の代金はゴブリン討伐時に一緒に居られなかったお詫びも含めて、

俺が持っている。


 殿下たちには手伝ってもらったお礼として、馬車旅の道中で食べるために

たくさん作ってきた試作品のお菓子の1つである『どら焼き』を渡した。


 最初はなかなか受け取ってもらえなかったが、シアとソフィの援護もあって、

笑顔と共に手にとってもらえた。


 結構な出費になったが、辺境であるプタハ村ではお金は溜まるが、

使い道がほとんどなかったのと、レオンたちからもらった今回の魔王

種討伐の報酬から出たこづかいが多かったのもあって、お金にはまだ

余裕がある。


 ただ、


「アルにはこれも似合うな」


「エリカ、次はこれを着てみてもらいましょう」


「おお、それはいいな!まるで王女のようだぞ!!」


現王女である貴女が言わないでください。と心の中で突っ込む。

姿見の自分の表情は笑顔を浮かべてはいるがそれは苦笑いだ。

口端が盛大に引きつっているのがわかる。


「うんうん、とってもよく似合っているよ。アル♪」


「……クリス様とはまた違うアプローチ。勉強になる」


先日のクリスたちと同様にエリカ殿下とリアンナさんにも服飾店で

たくさんの女性用の衣服で、俺が性別をきちんと明かしたのに

嬉々として着せ替え人形にされるとは思っていなかった。


しかも、


「流石、アタシの認めたクリスの子供。殿下たちの見立ても素敵ね」


 その様子を終始、店内で姿が見なかったキャロルさんに物陰から

見られていたのを後からNavi先生に指摘されるまで俺は気づかなかった。


 シアとソフィとデートするつもりがどうしてこうなった。。。。orz


ご一読ありがとうございました。


次話投稿は本日12時を予定しています。

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