第20話 王侯貴族が相手でも遠慮するのをやめた
◆前回のあらすじ
シアとソフィの礼儀作法の勉強成果は上々、ナイスミドルな愛妻家の陛下の本名は家名が5つ付いて長い。
4大貴族のうち2家とはこれからいろいろありそうで胃が痛い。
ゴブリン討伐の後処理のお話は予定通りにまとまっておしまい。
「さて、この件に関してはこれ位にして、レオンとクリスの後ろにいる
我との謁見が初めての3人の子供たちには長々と待たせてすまなかったな」
「いえ、事の重要性は私達も認識しておりますので問題ありません。
お初にお目に掛かります。アクエリアス領プタハ村から参りました。
レオンハルトが嫡男、アルス・アクエリアス改め、
アルス・ヴィ・アクエリアスと申します」
王が社交辞令とはいえ、臣下の子供に謝罪したことに驚いたが、
俺は事前に考えていた名乗りを返して、頭を下げた。
レオンが先ほど褒章として永代貴族の男爵位を与えられたので、
その血縁家族である俺も名前にヴィが付くことになるので、
名乗りに混ぜた。周囲の反応を見る限り、大成功のようだ。
「同じく、アルス様の従者をしております。シンシア・スコルピオと申します」
「同じく、ソフィア・レグルスと申します」
俺の挨拶に続いてシアとソフィが作法に則った礼をする。
礼儀作法についてはエヴァからみっちり鍛えられているので、
下手な貴族の子弟の足元にも及ばないレベルになっているのは
Navi先生にも確認済みである。
「ほおぅ、よい、3人とも面をあげよ。その歳でそこまでできるとは
正直予想外だったが、今回は堅苦しい作法はお主等子供には
酷なので抜きとする。ラクにせよ」
始めにケルヴィン国王から感嘆の声があがり、俺達は許可を得て、
顔を上げる。
王に続いてその場にいた貴族や文官たちからも俺達に感嘆の声が
あがった。ちょっと誇らしい。
「ハロルドから前途有望な子供たちと聞き及んでおるが
どうやら、その言葉通り、否、それ以上のようだな」
そう言って、ケルヴィン国王は口端を釣り上げる。
あ~、これはステータスの『偽装』がバレたかな?
陛下のスキルレベルの【鑑定】なら、まだ使い始めて日の浅い
俺の『偽装』は見破られても不思議ではない。
「身に余るお言葉、光栄にございます」
俺は臆することなく、言葉を返した。
「ふむ、アルスよ。お主は仕える君主を決めておるか?」
ケルヴィン国王は笑みを浮かべて問いかけてくる。
何気ない問いかけに聞こえるが、”この場”でその質問は
なかなかにエグい。
新進気鋭の新興貴族の嫡男が君主と定める者を発言することから、
今後のレオンの国内での立場にも少なくない影響がでてくるだろう。
「いいえ、決めておりません。
私の剣を捧げる相手は愛する者、差し当たり、婚約者のシンシアと
ソフィアの2人と両親である父上と母上、乳母へと決めております」
乳母とはエヴァのことであるが、ここでは敢えて名前を出さない。
ここで次期国王候補について整理しよう。
現国王には名前についている4つの姓から分かるとおり、
正室1人と3人の側室がいて、各々に1人ずつ子供が産まれている。
普通に考えれば正室の子供が次期国王となるのだが、産まれた順番と性別、
後押ししている貴族たちの派閥に問題があってこれが事態をややこしくしている。
但し、どういう訳か4大公爵・侯爵家は中立を宣言している。
意外なことにジェミナス家も後継者争いに中立であることを公言しているのだ。
序列3位のポリマ伯爵令嬢との子供が最年長の長男であり、
現時点で王位継承権第1位。現在御歳14歳で武に秀で、武官貴族が支持している。
1つ歳が離れて、序列2位のザヴィザバ伯爵令嬢との間に産まれた次男。
こちらは兄に対して内政が上手く、文官貴族が支持している。
更に2つ離れて序列1位の正室のペルセポネス公爵令嬢との間に
11歳の長女。彼女は文武両道で国民や中立勢力の支持を受けており、
その見目麗しい容姿も相まって、国民人気で言えば前述の2人を遥かに超えている。
そして、5つ離れて、序列4位のオーヴァ子爵令嬢との間にできた
6歳の三男。彼は母親共々王位に興味がないことを常日頃から公言しており、
後押しする貴族もいない状態だ。能力的にはその辺の貴族の子弟とほとんど
大差ないらしい。兄達の能力を僻んだりせず、誰が王になっても補佐できるよう、
頑張っていると専らの噂である。
勢力的には僅差で第一王子が最有力であり、第二王子と第一王女の
勢力が後を追いかけている三つ巴状態。第三王子は継承権最下位で、
オーヴァ子爵家も子爵家令嬢も権力争いには消極的で中立を貫いている。
そもそも、俺は王子と王女たちには面識がないので、ここで立場を表明したら、
何処かであったのかとか、どうして支持するのかという面倒な問題に発展しかねない。
更に付け加えるならば、中央の権力争いなんて辺境田舎貴族には
厄介ごと以外のなにものでもないので、御免蒙る。
俺は悠々自適なラクな生活がしたいのであって、見栄と欲の皮張った
貴族同士の足の引っ張り合いに巻き込まれるのは勘弁だ。
「なるほど、現時点での勧誘は難しそうだな」
陛下は残念そうだが、俺が王権争いで中立でいる意図を汲んでくれたようだ。
それはそれとして、先ほどからいかがわしい視線をクリスたちに向けてくる
アホどもに釘をさせるか試してみるか、
「加えて、陛下に確約していただきたいことが1つございます」
「ふむ、申してみよ」
「はい。私は自分や愛する者に害を成そうとする者は例え、
王族であろうと遠慮するつもりは一切ございません」
俺の言葉に意表を突かれたのか、陛下の目が見開かれた。
「貴様! 子供とはいえ、陛下に対して、無礼にも程があるぞ!!」
一呼吸遅れてジェミナス侯爵や一部の貴族から非難の声があがり、
対照的にカプリコヌス侯爵とアリエス公爵、ピスケス領侯爵の代理人など、
大部分の貴族は呆れた様に静観している。いろいろ分かりやすい。
今反対した奴等は【世界検索】の目印機能で印を付けて、
覚えておこう。
「……よい」
俺を非難する貴族をケルヴィン陛下が短くだが力強く制すると、
不満を述べていた貴族たちが黙った。
「しかし、陛下!」
「我はよいと言ったのだ。
聞こえなかった訳ではあるまい、ガディアス?」
尚も食い下がろうとするジェミナス侯爵を陛下が諌める。
そして、俺の方へ向き直り、
「アルスよ、お主は我、否、王族、ひいてはこの国を敵に回すことを
ことの次第によっては辞さぬと言っているのを理解しておるのか?」
ケルヴィン陛下は穏やかな口調だが、強い視線で俺を威嚇しながら、
そう問いかけてきた。
「はい。余程のことがない限り、私から手をあげるつもりはございませんが、
たとえ、陛下でもシンシアやソフィア、私や私の家族たちを害するお積りならば、
甘んじてそれを受けるつもりは一切ございません。
そのときは覚悟していただきます」
俺は視線を逸らさず、見返して応える。
「くっくっくっく……あっはっはっはっはっはっは」
不意に陛下が大声で笑いだした。
「はっはっは、いや、すまぬ。まさか、王たる我に啖呵を切る子供が
おるとはな。よかろう。お主の申した内容に合わせた魔術誓約書を
認めよう。そうだな。人道的、倫理的に正当な理由なく、
アルスとその婚約者、アルスが家族と認めた者に害意を向けた者に対して、
我とエレファンティネ王国は擁護せず、アルス達を擁護するものとする」
陛下は快諾し、約束を強固なものとする魔術誓約書までその場で
作って約束を保障してくれた……この王様は傑物か。
魔術誓約書はこの世界の法と秩序の女神の力によって作られたマジックアイテムで、
成された契約は女神の力で強制執行される拘束力が極めて高いものだ。
陛下のおかげでアホ貴族どもが喧嘩を売ってきてもこれで遠慮なく叩き潰せる。
ご一読ありがとうございました。
次回の更新は6月20日朝6時を予定しています。
調査の結果、今後の更新は特に問題が発生しない限り、朝6時にします。




