第17話 旅で温かい食事はご馳走だから、自重するのをやめた!
新章突入です。
パカラッパカラッと馬車馬が歩を進める音が街道にこだまするのだが、
俺達が乗る馬車を牽くのは馬は馬でも石人形を発展させた石馬形である。
通常の馬と違い、疲れ知らずで夜間も走行可能。馬力は本物以上でコストは
魔術使いが注ぎ込む魔力分だけで、指示には忠実に従うという素敵仕様なゴーレムだ。
そして、それに牽かれる馬車も俺特注の特別仕様。
初めての馬車旅なので、楽しい思い出にしようと考えた俺が、レオンたちを説き伏せ、
この世界で前代未聞の馬車を作り上げたのだ。
この世界の一般的な馬車は揺れが激しくて快適とは全力で明後日の方向に
駆け出している仕様だったのは【世界検索】を使わずとも、ハロルドさんたちが
乗ってきた戦車もどきの馬車を見れば一目瞭然だった。
そこで現代の知識、【世界検索】を駆使して、サスペンションやベアリング、
タイヤの知識を存分に用いて馬車の設計図を作成。
後は【魔術(建築)】と【魔術(工学)】を駆使して材料をこだわり抜いたうえで、
部品を精製・作成して、組み立て。
ちなみにサスペンションとベアリング部分の設計図は村の職人のおっちゃんたちに渡して、
今後これからプタハ村で作る馬車に組み込んでもらうようお願いした。
おっちゃんたちは狂喜乱舞して、おかみさんたちに殴り飛ばされて、ようやく正気に戻って、
俺に礼を言って、今後の売り上げの一部を情報料として払うと言って、契約書を作成した。
無料で渡すのは駄目だとおかみさんに怒られた。よく考えてみれば当然か。
正直に教えてくれたおかみさんに感謝の気持ちとして、ラベンダーの石鹸とシャンプーを
後で贈った。
それはさておき、通常の馬車は向かい合って座るものなのだけれども、
俺が魔術を駆使して作った馬車は全席進行方向を向き、2、2、3の定員7名の馬車で、
3人席の後ろの荷物置き場の補助席を使って、更に3人が座れる。
つまり、シアとソフィの両親達とエヴァも俺の今生の家族全員が乗れるのである。
座席はリクライニング仕様で完全に倒せばベッドになるうえ、
長時間座っても疲れない様に座り心地にもこだわった。
馬車の屋根部分も広く取っており、旅暮らしのときの洗濯物を干すのもOKだ。
外見は【魔術(水)】の『幻影』で普通の馬車に偽装しているうえ、
防犯装置も完備。今なら警備兵兼御者の専用ゴーレムもついてお得!
今回はここまでで我慢したが、資金と資材にもっと余裕ができたら
キャンピングカーみたいなゴーレム馬車を作るつもりだ。
そんな快適な馬車に乗って、今、俺達は王都を目指して進行中。
エヴァとガウ小父さん達は残念だが今回は村で留守番することになった。
勿論、留守番組みのためにきちんとお土産買うのは規定路線だ。
「う~ん、次の機会があればみんなでピクニックにも行きたいね」
「そうだねぇ~。お父様たちとも一緒にお出かけできたらいいね」
「(コクコクッ)」
俺の何気ない言葉にシアとソフィは笑顔で同意してくれる。
現在、俺達3人は3人掛けの座席の各々の肘置きを収納して長椅子の様にして、
並んで座って、前の席にはレオンとクリスが座っている。
「久しぶりに長時間馬車に乗ったのだけれど、こんなに乗り心地が良かったかしら?」
「ううむ、この前に乗ったのはたしかアルが産まれる前……プタハ村に来るときに
乗った乗り合い馬車だったか?」
「そう、それよ! あのときは揺れが酷くて気分が悪くなったのよね。
今回は不思議と揺れを感じないから景色を楽しむ余裕もあるわ」
「ああ、アルに馬車の用意を任せて正解だったな」
「そうね、貴方…」
「クリス……」
とまぁ、後ろにその話題の息子がいるのだが、身内だけになると、
時折2人の世界を作るくらい未だに新婚の様に仲がいい。
無論、夜の方もお盛んだ……。
「ア~ル、お願い♪」
シアが俺が作ってプレゼントした愛用のデフォルメされた犬の肉球の絵が
描かれているブラシを俺に渡して、可愛らしい尻尾を俺の太腿の上に乗せてきたので、
俺はふさふさの尻尾を手にしたブラシで優しく梳いてあげた。
「♪~、~♪~」
シアはご機嫌である。
獣人にとって自分の耳と尻尾を触らせるのは親しい関係の者に
限定され、両方を触らせるの家族以上の信頼を寄せている相手のみ。
俺は受け取ったブラシでシアの尻尾を丹念にブラッシングする。
「シア、耳も触っていい?」
「うん、いいよ~」
本人の了解を得て、ブラシを返して俺はシアの綺麗な金髪を撫でたあと、
ふかふかの犬耳に触れる。特有の肌触りの良い、ふかふかした感触を楽しむ。
「あッ……ッ……あッ……///」
ううむ、シアの橙色の瞳が蕩けて、表情を崩して悶えている。
遂に、シアは腰砕けになって俺の膝の上に上半身を倒して横になった。
だが、俺はシアの犬耳をもふるのを止めない!
「……はい。アル、あ~ん」
俺の両手がシアのふかふかの犬耳を堪能して塞がっている状態で、シアの様子をしばらくして
見かねたソフィはエヴァが道中食べる菓子として用意してくれたクッキーを差し出してきた。
「あむっ」
俺はソフィのくれたクッキーを食べ、よくかんで飲み込んだ。
丁度、シアが完全に蕩けてのびてしまったので、俺はシアの犬耳をもふるのを終えて、
『空間収納』からティーポットと人数分のカップとソーサーを出して魔術で湯を沸かし、
紅茶を淹れ、前の座席の背もたれ部分に付いているテーブルを引き出して、カップを置き、
紅茶を注いで表情が緩んでしまっているシアを含めて、みんなに渡した。
穏やかな空気のなか、馬車は平和にパカパカと街道を進む。
「よし、この辺で今日は野営をしよう」
レオンの言葉でちょうどいい広さの場所に馬車を止め、俺たちはテントを設営を始める。
今夜はレオンとクリスにはリクライニングを倒した馬車の簡易ベッドで眠ってもらい、
シアとソフィで2人用のテント、俺は1人用テントを使う予定だ。
珍しいことにいつも一緒に寝たがるシアが大人しくテントをソフィと一緒に
自分達の使うテントを設営していた。
今設営しているテントも俺が試作した防虫、防音、防水、防火、
防寒効果を高めた『五防テント』である。
布地に【魔術(工学)】の魔法陣を魔石で作った特殊インクで描き、
魔力を流せば5つの効果を発揮できるようにしているのである。
プタハ村から王都まで概算で普通の馬車で6日、早馬で3日。
プタハ村を出てから既に2日の時点で大体半分の距離を消化しているから、
この調子で問題なく行けばあと2日で王都に着くので、
このゴーレム馬車の通常速度では片道4日ということになる。
最大速度ではどうなるか分からないので、早めに試したいなぁ。
「では、レオンとソフィちゃんは狩りで、私とシアちゃんは採集、
アルはイムちゃんたちとお留守番でお料理の準備をお願いね」
「「「異議なし」」」 「……」
剣の達人でプタハ村の狩りの実力No2のレオンとNo1の娘であるソフィが組み、
薬草知識のクリスと獣人の嗅覚をもつシアの採集組が山菜を狩りに行き、
単体戦力として分かりにくい俺が留守番役になった。
俺独りでも【魔術(工学)】で簡単に炉を作れるからクリスの判断は
適材適所と言える……別に1人だからって寂しくはない。
そう思っているとイムが擦り寄って慰めてくれたので、お返しに
撫でてあげた。
皆が戻ってくるまでに俺は炉を複数作って、『空間収納』からこの日
のために作って準備した肉などを焼く金網、スープのための寸胴鍋、
バーベキュー用の鉄串や包丁、まな板の調理器具に食器、おまけで
調味料の用意をした。
調味料は揃えるのにとても苦労した。
生産方法は【世界検索】で分かるのだが、実際に上手くいくのかは
別問題であったので、難解も失敗した。
醤油は勿論この世界には現存していなかったが、6歳になってから、
なんとか生産体制が整った大豆と王国の東から流通ルートを確保できていた塩を使って、
とってもチートな【世界検索】で調べた製造方法でいくつか試作し、俺の【魔術(時空)】の
結界内の時間の進みを速める『加速結界』を張って、製造期間を短縮した。
まだ【魔術(時空)】のレベルと『加速結界』の練度が低かったので、
流石にその日のうちには出来上がらなかったが、作り始めて4日の昼食に
クリスとエヴァに醤油を使ったソースの肉料理を試食してもらったら、大絶賛。
その日の翌日にはレオンから村長に醤油専用の倉を造る許可を
取っていると言われた。よほど醤油が気に入ったんだねクリス……。
更にエヴァが井戸端会議で醤油を宣伝したため、村の奥様方に醤油
は知れ渡り、試用されて大絶賛のコンボが続き、小さいながらも村にある
食堂の無口で気難しい料理人からも大好評を得て、村の中で醤油の需要が急増。
しかも、醤油の可能性に魅入られて醤油を造って生きたいという人まででてきた。
その人には醤油造りに必要な魔術の適性があったので、一部の【魔術(工学)】と
製造法を教えて、醤油の研究と生産をお願いした。
無口で強面な人だけれど、真面目で職人気質の人なので信頼できるし、
子供だからとこちらを侮らないから助かる。
これでラクして醤油を確保できる。並行して味噌の作り方も教えると、
目を輝かせて快く引き受けてくれた。
塩は生産できる海に近いところでは安価だが、内陸になるほど値があがる。
王国では東のアリエス公爵領で盛んに生産されているのだが、
現代の生産方法で食塩は大量生産されていないので、気軽に入手できないが、
流通自体はされている。
今回の魔王種討伐の報酬で領地に加わる地域に死海のような塩湖を
【世界検索】で見つけたから、王都への旅が終わり次第、出向いて、
塩を大量に入手しにいくつもりだ。できたら、塩の自領で生産もできるようにしたい。
一方、胡椒は塩と違ってプタハ村が所属している王国内では値段が高めで、
作物がない共和国で買おうとすると大金を用意しなければ手に入らない位高い。
所謂、胡椒一粒、黄金一粒状態なのだ。
幸いにもプタハ村周辺に胡椒などの香辛料の原料となる植物が運良く群生していたから、
俺は【世界検索】と使える魔術を最大限に使って大量に作り出すことに成功。
村に供給するとともに『空間収納』の中に保存している。
「うむ、今日は大猟だ」
「……今夜もごちそう」
「こっちもなかなかいい山菜が採れたわよ」
「アル、ほめて! ほめて!」
しばらくして、レオンとソフィはイノシシの魔物のワイルドボア2匹、
牛の魔物のビッグブル1匹とニワトリ似の魔物であるチキンバードを
6羽とその卵を10個持って帰ってきた。
一方、籠一杯にクリスとシアは山菜を取ってきており、
シアはいいものが採れて嬉しそうに勢いよく尻尾を振っていたので、
成果をあげたソフィと一緒に頭を撫でてあげた。
「はううう……」
「えへへへ♪」
ソフィは顔を少し長めの耳まで真っ赤にしているが、嬉しそうだ。
それに対して、シアも笑顔で更に尻尾の振りが更に速くなっただと!?
「では、アルが準備してくれているので早速調理をはじめましょうか。
アル、イムちゃんにお肉の血抜きをお願いしてね」
「はい、母様」
「イム! お肉を解体するから血抜きを頼むよ」
<<……あい、ますた~>>
2人を撫でたあと、俺がイムを呼ぶと、馬車の中にいたバスケットボール大の
黒いスライムが返事をして、レオンが解体を終えたワイルドボアとビッグブル、
チキンバードの肉から不要な血を体内に吸出して、【魔術(水)】の『水球』に
通して洗う。
「さぁ、こっちも山菜を洗いましょうね」
「「はぁ~い」」
クリスの指示に従い、クリスとソフィが出した『水球』で
シアを交えた3人は手分けして山菜を洗っていく。
チキンバードの卵は今回使わないから俺は『空間収納』に保管した。
炉の燃料に火を点けて、金網を熱し、俺は事前に用意した香辛料と肉の旨みを
固めたペースト状のスープの素をクリス達が洗い終わって、手ごろな大きさに切った
山菜類と水を入れてほどよく煮立った鍋に入れて、スープを作った。
魔物肉の解体が終わったレオンと共にイムの血抜きが終わった肉に
塩と胡椒を振って鉄串に刺したり、金網に載せて焦げないように焼いていった。
最後に『空間収納』からたくさん作り置きしているパンを取り出す。
常食となっているパンに至っても、この世界では硬くてパサパサして、
とても美味しくなかったので、簡単な酵母菌作成方法を【世界検索】で調べて作った。
なかなか大変な作業であったが、苦労の甲斐あって、大成功。
作り方をクリスとエヴァに教えたので、それまで村で食べられていた
固くて美味しくないパンと瞬く間に入れ替わり、まるで貴族が食べるパンの様に
柔らかくて美味しいと大好評……計画通り!
「はい、貴方」
「ああ、ありがとうクリス」
「……ウマウマ」
「はぐ、はぐ、んくっんく……アル、おかわり頂戴!」
<<…おい…しい>>
クリスとレオンは相変わらずラブラブで。ソフィはスープが気に入ったようで、
マイペースに食べ、シアは物凄い勢いで肉、スープ、パンの三角食べをしている。
また、血抜きを頑張ってくれたイムにもきちんと焼けたボア肉をあげた。
「うん、おいしい」
ワイルドボアの肉は豚肉に近いものだったので薄く切って、醤油で作ったタレに浸して、
きちんと火が通ったのを確認したあと、半分に切ったパンの間に山菜と一緒に挟んで作った
ボアサンドを食べた……美味い。
ゆくゆくは王国の東で栽培しているお米を手に入れて、ボア肉を使って生姜焼きと
生姜焼き丼を再現したい。そのための生姜と醤油の貯蔵は既に十分だ。
「あ、アルそれあたしにもちょうだい」「ボクにも……」
「はいはい」
俺の作ったボアサンドを見た2人がねだるので作って渡した。
イムも仲間はずれにせずあげた。
レオンにはクリスが作ってあげていた。
「「美味しい」」「美味いな」「美味しいわね」<<……美味>>
ボアサンドは4人と1匹にも好評のようである。
更にビッグブルの肉もステーキにして食べつくして、残った肉は魔術で
ミンチにして『空間収納』内の食材領域に入れた。
『空間収納』は習熟することで領域を分けたり、領域の時間の流れを調整できるようになる
便利な魔術だ。分類は【魔術(時空)】になる。
今の俺の『空間収納』の領域は5つで、武器、防具、道具、食材、食材(時間停止)だ。
こうした平和な野宿を2回繰り返し、1人用のテントで寝ていたはずなのに、
俺は翌日と翌々日もシアとソフィの寝るテントで目を覚ますということがあったが、
他は至って順調に進んだ。
そして毎朝、クリスは艶々して上機嫌で、レオンは疲れが少し残っている様子だったが
気のせいだ……たぶん。気のせいだ……たぶん。大事な事なので2回言った。
そして、俺達は大きな城壁に囲まれたエレファンティネ王国の首都、クヌムに到着した。
ご一読ありがとうございました。
次回以降はテストケースとして2回程06時投稿を予定しております。
よって、次回は6月10日06時に投稿予定です。
結果によっては06時投稿に移行するか、これまでどおりの24時(0時)のに戻す予定です。




