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第16話 馬に蹴られたくないので、他人の恋路を邪魔するのをやめた!…寧ろ応援することになった。

◆前回のあらすじ

ゴブリンエンペラーの武器だった魔剣(複製)の出所はどこだ?

ケイロン小父さんと遺失していた『飛翔』魔術を復活させて洗練し、完成させる。

王都からの召喚。容姿が目立つシアとソフィを『幻影』で変装させての馬車旅行。

 俺達の王都行きの他にも連絡事項が2つあり、その1つは今回の事態を引き起こした

デズモンド伯爵家の処罰。もう1つは権力の空白地となったアヌケト鉱山と鉱山都市に

ついてのものだった。


 デズモンド伯爵家は先々代辺りからこれまで行っていたアヌケト鉱山都市での

悪政が俺達が持ち帰った資料から露見したので、その責任も追及されることになった。


 更に統治領の重要都市の陥落報告を偽ったばかりか自分の娘を生贄にして保身を計り、

その結果、魔王種を生み出し、隣国のテーベ共和国にも被害を出すという情状酌量の余地が

微塵もない反国家行為、人類社会への裏切り行為により、被害者である囮にされてゴブリンに

捕らわれていた娘と留学していたために事態に関与していなかった3男を除き、テーベ共和国に

一族郎党、連座で身柄を引き渡された上で、極刑にかけられることが決まった。


 捕らわれていたデズモンド家の息女のエリザは、未だに人形の様に物言わぬ状態になっているが、

これは【魔術(闇)】の『封心(シールドマインド)』で心と精神を守るために封じ込めたから

というのが廃棄都市アヌケトを探索したときに見つけた執事の亡骸が【魔術(闇)】の『遺言(ラストウィル)』で

教えてくれている。


 【世界検索(ググール)】の鑑定機能で分かったことだが、エリザはデズモンド家の次女では

あるが、伯爵がメイドに無理矢理産ませた庶子であり、その母も既に亡く、姉弟で

仲睦まじく生活していたが、伯爵がエリザの素養に目をつけ、無理矢理引き取っていた。

 エリザの魔力と魔術の素養に関しては伯爵家で随一だったという。


 そのため、エリザの意向で留学していた同じ母をもつ3男以外との関係は悪く、

父親の扱いも血を分けた子に対するものではなく、体のいい交渉道具、

もしくは長男と次男を交えて情欲の対象にしようとされていたようだ。


 まぁ、金髪茶眼の容姿は整っていて悪くはないし、発育も同年代のなかで

かなりいい方であるのが一目瞭然で、ゴブリンの襲撃がなければ交渉の道具として、

どこぞの有力貴族に嫁がされていただろう。


 さて、問題となるのは彼女の今後の身の振り方である。

王都の学園に留学している弟は現在国の保護下にあって卒業後、

国が仕官先を決めて仕事を斡旋するので生活していくことができるが、

学園に通学していなかったエリザはそうはいかない。


 被害者とはいえ、国賊であり、今では全人類の反逆者とまで評判が

堕ちているデズモンド家の遺児に対する世間の風当たりは今現在、最悪である。


 このまま死を望むか、平民としての新たな人生に希望を繋ぐかは

彼女次第。俺は本人の意思を尊重したいので、思い切って、封印された

彼女の精神世界にお邪魔して、聞いてみることにした。


 無論、これは単独でするには危険極まりない行為なので、両親と

ケイロン小父さんとエリシアさん、フィリスさんの許可を取り付けている。


 更にエリザに一目惚れした村長の息子のウェインが彼女と最初で

最後になるかもしれないなら是非対話の場へ連れて行ってくれと土下座して、

承諾しなければ梃子でも動かない覚悟を見せた。

 これにガウ小父さんとシア、ソフィが賛同してきた。


 結局、クリスとケイロン小父さん、天使の義母(予定)たちの4人の補助の下、

俺とウェインはエリザの精神世界に潜りこんだ。




「貴方たちは誰?」


先ほどまで見ていた無表情とは一変した好奇心がもたげている表情で

金髪茶眼の美少女が俺達に問いかけてきた。


「僕はアルス・アクエリアス。貴女の身体とここの外の世界について伝えに来た者です。

こちらは……」


「ウェイン・ブルーウッドです。」


ウェインは自分で名乗ったが見て分かるほどに緊張でカチコチである。


「初めまして、エリザ・ヴィ・デズモンドです」


そう告げて彼女は見事な貴族の礼式に従ったお辞儀をしてきた。


「長い話になるので、座りましょう」


そう言って、俺はテーブルと椅子を3脚出して、2人に着席を促す。

ここの精神世界は潜った時点で俺の支配下に置いたので事物の構築は自由にできるのだ。


「まぁ、貴方も魔術使いなのね」


感嘆の声を上げてエリザは俺の勧めに従って席に着いてくれた。

 魔術使いではなく、魔術師なのだが、話題が明後日の方向に行くので

ここではスルーだ。


 まずはこちらの話を聞いてくれるようである状態でなによりである。

打ち合わせ通り、ウェインも着席した所でティーポット、カップと

ソーサーを3組、シュガーポット、ミルクポットを出して、カップに

紅茶を注いで2人と自分の前に置いた。


「早速ですが、まずはどこまで貴女はご自身の状態を把握されているかを

教えてください」


彼女が知るべきことと、知らなくていいことはイコールではない。


 特に彼女が魔王種であるゴブリンエンペラーを産み落としたことを

知っているのは俺とレオンとクリスと従者4人と村長家族とウェイン。

あとは国王陛下とハロルドさんだけだ。この事実は彼女が新たな人生

を歩む際に枷になりこそすれ、益になることは全くない。


 彼女の酷使された肉体に関しては俺が遺失していた【魔術(時空)】の

時間遡行(タイムリバーサー)』をケイロン小父さんの協力の下、再現に成功したので、

ゴブリン達に捕らわれる前までに遡行させている。


 『飛行(フライ)』と同じく大幅にブラッシュアップしたが、MPの消費量が

尋常ではないので、使用直後、全魔力を使い切った魔力枯渇で俺は気絶してしまった。


 肉体は戻せたが、精神は別物なので、彼女に戻る意思がなければ、

肉体は人形の様な状態のままで、意識体が活動しなければ肉体は緩慢な死へ向かう。


「わたしは、たしか屋敷にゴブリンの大群が攻めてきて、

お父様に魔術で拘束されて……そう、執事のセバスチャンが

動けないわたしを抱えて逃げてくれていたのは覚えています」


あの地下で亡くなっていた執事のことか……。


「……そうですか。まず、結論から申し上げます。

その襲撃から外の世界は3年の月日が経過しています。

そして、此の度、デズモンド家はゴブリンに襲撃されたことを秘匿し、

ゴブリンの勢力が拡大することを国に報告しなかった責任を問われ、

爵位を失いました」


「……そう、なんですね。遂にお父様の悪行が世間の知る所と

なったのですね。あの、私と私を抱えて逃げていたセバスチャン、

あと、王都に留学していた弟はどうなったのですか?」


爵位を失ったことに関してはあまり驚かず、エリザ嬢は自身と

執事のセバスチャン、弟のことを尋ねてきたので、内心で少し驚いた。


「執事の方は残念ですが、僕の父たちが救援に駆けつけたときには

既に手遅れの状態でした。しかし、貴女のことを必死に守り通し、

後事を託されて逝かれました。

 その際、自分の力不足で貴女がゴブリンどもや悪漢の手に落ちるのを

危惧して心を封じざるをえなかったことを悔やまれていたと父から聞いています」


「……そう、でしたか」


エリザの両目に涙が浮かんだ。


「……どうぞ」


ウェインが俺がテーブルの下で具現化して渡したハンカチを取り出し

てエリザに差し出した。


「ありがとう」


エリザが泣き止み、落ち着くのを待ってから俺は話を再開する。


「セバスチャンさんの遺体は僕の父たちが丁重に埋葬しました。

 弟様に関してはゴブリン襲撃時に既に留学して王都にいたため、

本件との関わりは認められず、実家が爵位を失いましたが、お咎めはなし

ということになり、現在では奨学金と軽就労働で生活されているそうです」


軽就労働とは端的に言えば、所謂、アルバイトである。


 また、セバスチャンの遺体の埋葬は村の墓地にした事実だが、

セバスチャンがエリザを守り通したことは事実とは反する。


 エリザのことを慮ればゴブリンに陵辱された事実は墓まで持っていくべきだ。

これは関係者全員納得の上、周知済みの緘口令である。


「さて、貴女のことですが、精神を開放する方法をセバスチャンさんが父達に

伝える前に負傷が悪化して亡くなったので、解析に時間が掛かってしまったことを

お詫びします。


 爵位を失くされた貴女には2つの選択肢があります。

1つはこのまま死を待つか。もう1つは平民として、新たな人生を始めるか、です」


さて、彼女はどう答えるかな。このまま死を待つというなら、それもよし。

できれば後者を選んでほしいところだが、はてさて。


「……わたしは貴族の生活には窮屈さを感じていましたので、

平民としての新たな人生を始めたいと思います」


「……そうですか。その件に関して、このウェインから話がある

そうです」


俺はそう言って、カップに入って少し冷えてしまった紅茶を飲む。

お膳立てはしてやったぞ。ウェイン、頑張れよ。


「……俺と…結婚してください」


見れば、ウェインは顔を真っ赤にしながら、エリザの手を両手で

包みこんで告げていた。


 俺は口に入れた紅茶を噴出しそうになるのを必死に耐えた。

おいい、ストレート過ぎるだろウェイン! もうちょっと捻れよ!

と俺は心のなかでツッコむ。


「あの……初めてお会いした私のどこがよろしいのですか?」


「最初は物言わぬ貴女に一目惚れしていました。

ですが、言葉を交わせる貴女に惚れ直しました。俺と人生を共に歩んでください」


ウェインは顔を赤くしたまま、真っ直ぐにエリザの目を見て告げる。


「わたしは国賊のデズモンド家の娘ですよ?」


「それは俺には関係ありませんし、貴女にそういう輩は俺が絶対に許しません。

どうか、貴女の答えを聴かせてくれませんか?」


エリザの問いに淀みなく即答するウェイン。


「……ええ、喜んでそのお話を受けさせていただきます」


エリザは柔らかい笑顔とともにそう答えた。


「ありがとうございます」


感謝の言葉を告げるウェイン。

まぁ、当人同士がいいと言うならいいか。

俺はティーカップに残っていた紅茶を飲み干した。

 

「では、この世界から出ましょうか。

エリザさん、またお会いしましょう。いいなウェイン?」


「はい」


「ああ、頼んだぞアル」


2人の返答を聞いて、俺は【魔術(闇)】の『封心』の対になる『解心マインドリベレーション』を

使った。


 辺りは暖かな光に包まれ、ウェインは照れた表情で、エリザは穏やかな笑みを終始浮かべ、

あらゆるものが『解心』の放つ光の中に消えていった……。



こうして、第2の人生を11歳の平民のウェインと歩むことにした13歳の元貴族令嬢のエリザは

将来、村の運営に関わるために頑張っている。


 年下だが、知識と実務力は上である俺に積極的にウェインと一緒に師事して、

堅実に算術と文字を学習している。


 元貴族の令嬢だったこともあり、教養に関する下地は整っていた上、本人の気概もあって、

学習の成長は早い。計算の速さと正確さは村で僅差でソフィに次いで、5番目である。


 人間関係に至っても、驕ったところがないので、同年代の女子との関係も良好で、

ウェインとの関係でよく話題になっているようだ。

 関係で話題になる筆頭が俺とシア、ソフィであるのが揺るがないのは納得がいかない。何故だ!?


 ウェインとエリザ、平民同士の2人が今の歳で婚約することはこの世界では問題ないが、

結婚できるのは成人とされる15歳を過ぎなければこの国、この世界の常識ではできない。


 ちなみに、エリザの後見人はクリスである。レオンだったら、世間体的によろしくないので、

クリスが名乗り出た。


 ウェインとエリザは平民同士なので生活基盤がしっかりしていて、今後の当人同士の関係に

問題がなければ諸々の手続きが必要ではあるが、結婚することに問題はない。


 ともあれ、これでゴブリン討伐の件は粗方片付いたので、明日俺はレオンたちとともに

王都へ馬車に乗って行く準備を再開したのであった。



ご一読ありがとうございました。


 一挙更新は今回で最後です。

執筆コンディションが良かったのと5月中に2章を終えたかったので、予定を前倒ししました。

水曜日あたりに幕間と登場人物ステータスまとめをはさんで、次章に入ります。


第3章 第1話は6月3日24時(4日0時)に投稿予定です。



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