第15話 厄介ごとが片付いて、恩人から遺失魔術の共同研究の依頼がきたので、この世界の知識だけで自重するのをやめた。
◆前回のあらすじ
チートトラップコンボでゴブリンエンペラーのお供は残さずウルトラこんがり焼きすぎました。
激おこゴブリンエンペラーは叫ぶのが専門の仕事になったようだ。
レオンたちの安定の連携攻撃! 手負いのゴブリンエンペラーは首と胴体は泣き別れて死ぬ!!
レオン達と第二騎士団がゴブリンエンペラーを討伐してから5日が経過した。
レオンがとどめを刺したゴブリンエンペラーの首と奴の武器だった大剣はひとまず、
俺の『空間収納』に保管することになった。
大剣の方は改めてみるとなんか魔王種とはいえ、ゴブリンが持つにしてはかなり造りが精巧で
いわくあり気だったので【世界検索】の鑑定機能で調べたら……うん、模造品だったけど、
立派な”魔剣”だった。
ちなみに鑑定結果はこれだ。
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アイテム名:魔剣怨 嗟レプリカ
種別:大剣・魔剣
ランク:B
攻撃力:A
固有能力:怨嗟の研磨:敵を斬り殺すことによりその魂を刀身に取り込み、攻撃力が上がる。
但し、装備者が変わるもしくは大きなダメージを受けるとそれまでの累積は
リセット、取り込んだ魂が解放され、冥界に行く前に仇である装備者に
反撃してくる。
装備条件:筋力B以上。【大剣技LV4】
備考:模造品であるため、ランクは本物よりも2ランク下で、
攻撃力も下がっているが、劣化とはいえ、本物のもつ固有能力である敵を
斬り殺すほどに攻撃力が上がる呪いのコピーに成功している。装備者に
与える悪影響も劣化しているため、ある意味本物よりも性質が悪い。
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敵を斬り殺すほどに切れ味が上がるというなんとも禍々しい剣であるが、模造品なのか、これ。
つまり、どこかに本物があって、模造に成功したということだから、他にも何本か同じものが
あるということか。出所を探る必要がありそうだけれど、それは国に任せたほうが良さそうだね。
1騎士爵の息子が出しゃばる案件ではない。【世界検索】あるけれども、ここは自重するべき
ところだろう。というか関わりたくないな。
とはいっても、むこうから絡んできそうだから、念のため、頭の片隅には置いておこう。
さて、ハロルドさんが慣れた様子で騎士団の人たちに損傷の少ないゴブリンの死体から
魔石の取り出しと処分、周辺警戒の指示を出して事後処理を進めている。
簡単に倒せたゴブリンエンペラーだが、魔導爆弾と粉塵爆破という
チートトラップコンボの弱体化と取り巻きのゴブリンたちを全滅させなかったら、
ゴブリンエンペラーの高い戦闘力とゴブリンたちの数の暴力で苦戦し、負けないまでも
死人がでていたのは奴のステータスを思い出したら想像に難くない。
もしかしたら、魔剣の呪いのダメージがあったかもしれないが、そこまではわからなかった。
最終結果としては入り口と鉱山を繋ぐ粉塵爆破で使用するトンネル部分に
侵攻する際に多少怪我人がでただけで、他は目立った負傷者はでなかった。
鉱山へのダメージは俺が【世界検索】で確認しながら【魔術(建築)】で
崩れそうなところを補強したから採掘の再開はいろいろ整えれば十分可能だ。
プタハ村には採掘をする余力はないからどこかの貴族が請け負うのだろう。
ゴブリンの討ち漏らしがいないのを確認して、すぐにハロルドさんは王都に早馬を出し、
国王に討伐成功の報を送った。
こうして、ゴブリン討伐が終わったので、俺は偵察のときに約束した、
力を隠していた件をほぼ全て、レオンとクリス、エヴァ、ガウ小父さん、
ケイロン小父さんたち従者4人と村長、ハロルドさんを交えて話した。
ハロルドさんを交えているのはレオンたちの意向である。
実は異世界から転生してきましたと馬鹿正直に言っても信じてもらえないのは
分かっているので、前世の記憶は夢で得た知識ということで説明し、
加護スキルに関しては水の女神様の神託でもらったことを話して、なんとか
納得してもらえた。
自分の力の行使に関して、レオン達から再度確認されたときには以前レオンに
答えたように当面は生活を豊かにする以外使うつもりがないことを伝えると、
クリスに抱きしめられて、村長からは涙ながらに感謝され、他の6人にも納得して
もらえた。
レオン達に話てすっきりしたため、これからはこそこそ力を隠して使う必要が
なくなった俺は以前に比べて自由に動けるようになったのだった。
それに関して喜んでいる人たちの1人が目の前で俺の構築した術式を検証している。
「ふむふむ、なるほど、ここで風をこの向きに発生させるのはなぜなんだい?」
「はい、その向きに風を起こすことで揚力という力が発生して……」
ケイロン小父さんに俺は【魔術(風)】で遺失していた『飛翔』の再構築を提案し、
共同研究を持ちかけてきたので、俺は2つ返事でその話を引き受けた。
ケイロン小父さんはゴブリンエンペラーを倒した後に精霊魔術師から昇格して、
魔術のエキスパートであるアークメイジになっていた。
魔術研究が趣味で古今東西あらゆる魔術の本を手に入る限り集めているケイロン小父さんの
コレクションには俺もお世話になっており、その中に不完全な形で残されていた中の1つに
『飛翔』があったのを早い段階で見つけていた。
ケイロン小父さんもなんとか復元できないかと苦心していたが、なかなか上手くいかず、
頓挫していたところに俺という、異世界の知識を持つ同じ魔術研究を持つ仲間が
現れたのだ。
俺はチートスキル【世界検索】でも過去の『飛翔』の術理を検証し、今回構築したものは
過去に使われていたものを更にブラッシュアップし、必要な魔力を最小限にして、安全性と
長時間飛行に耐えうる様に組みなおしたのだ。
スキルの【魔法陣展開】を使いこなしていくうちに魔法陣の記述内容、術理が分かるようになり、
派生スキルの【魔術改変】を使えるようになった。
【魔術改変】は魔術を文字通り改変し、消費魔力は大きくなるが威力を上げたりなど
同じ魔法陣で使う魔術でも調整ができるようになるスキルだ。
【魔術改変】を更に派生させることで【魔術創造】のスキルを入手でき、
自分だけの固有魔術を生み出せるようになる。俺は既にもっているが、なにか?
魔術は現代で言う所のプログラムと同じで、術理に使っている法則と理論さえ
理解できれば面白いようにいろいろなことができる様になる。
魔法陣ではなく、魔術陣では?というツッコミをいれたくなったのだが、
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N:そういう仕様なのでどうしようもありません。
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とにべもなく言われてしまったので、スルーすることにした。
「うん、安全面では全く以って問題ないね。
魔力が切れて飛べなくなったときにゆっくりと地上に落下するというアイディアも
素晴らしい。
過去の文献でも己の力を過信して魔力切れで墜落死した使い手が多すぎたために
遺失したという逸話がある魔術だから、この安全機構を組み込んだのは非常に
素晴らしい判断だね」
ケイロン小父さんが太鼓判を押してくれた。
「ありがとうございます。では、試験飛行はケイロン小父さんがなさってください」
「……いいのかい?」
「はい。基礎理論の一部分は小父さんが研究されていた所を拝借してますし、
積み重ねた努力と年月を考えれば子供の僕が魔術の歴史に名を刻むよりは
余程説得力がありますよ」
「そうか、ありがとう」
ケイロン小父さんに両手で手を握られて感謝された。
後日、
「ああ、これがフィリスとソフィが感じていた空を飛ぶ感覚なんだね……」
「貴方……」
「お父さん……」
『飛行』の試験飛行は無事成功し、晴天の青空でエルフと天使の家族は仲良く空を
飛行して、ケイロン小父さんは感涙していた。
妻と娘が空を快適に飛んでいて自分だけ1人、地上から見上げているというのは
流石に悲しかったんだろうなと思った。
『飛翔』の試験飛行が大成功した翌日、早馬が戻ってきて、
今回の事後処理が終わり次第、レオンは王都に召喚されることになった。
今回の褒章について王直々の授与されるとか。
付き添いは4名まで良しとあったので、クリスと俺、シア、ソフィの4人が
同行することが決まった。
ガウ小父さんたちは今回留守番するつもりらしい。
俺とシア、ソフィはこの国の王様に謁見するのも初めてで、王都に行くのも
初めてなので楽しみだ。
予め褒章については知らされており、内容はレオンに今回の討伐の恩賞として
一気に男爵の爵位を与え、永代貴族として認め、プタハ村を含め、王領の一部を
新たな領地として進呈するという内容だった。
これで俺の名前にも貴族を示すヴィが付くことになったので、
俺はレオンの様に家を出奔しない限り、平民として生活することはなくなった。
貴族となると他家との面倒な付き合いがあると思うと憂鬱だが、
今のうちに自領内を繁栄させておけば将来的にラクができると前向きに考えることにして、
王都で今後のためにいろいろ買い漁ったりすることに決め、レオンとクリス、
果ては従者4人とエヴァにも相談した。
「アルと旅行~♪、アルと旅行~♪」
「ボクも王都は初めてだから楽しみだね」
シアもソフィも楽しみしているようでなによりだ。
しかし、2人とも可愛い上に容姿が目立つからどうしたものかとケイロン小父さんに相談したら、
「ならば、【魔術(水)】の『幻影』を使って、容姿を変えれば大丈夫だよ。
くれぐれも悪用しないようにね」
とありがたいお言葉と『幻影』の術式が書かれたケイロン小父さんのコレクションを貸してくれた。
俺はお礼の言葉と王都のお土産を1つケイロン小父さん用に追加することにした。
ご一読ありがとうございました。
次回の更新は前回と同じく、本日3時間後の21時を予定しています。




