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第11話 まだ慌てる時間じゃないので、焦って余裕を失うのをやめた

◆前回のあらすじ

アルスの『霧隠れ』! 効果は抜群だ!!

ゴブリンの苗床にされている女性達の様子がおかしいぞ?

ゴブリンロード……? 違う、魔王種のゴブリンエンペラーだ!?

「戻ったか、アル」


レオンが声をかけてくるが、今はそれよりも無事に戻ってこれたことへの

安堵感で身体から力が抜けた。


 エンペラーを鑑定した経験値でレベルが上がった【世界検索(ググール)LV5】

のMAP機能で現在地、レオンたちとの合流地点、俺が建てたセーフハウス内であることを

確認し、呼吸を整える……と体から力が抜けて俺はその場に座りこんでしまった。


「おい、大丈夫か?」


その場に崩れ落ちた俺をガウ小父さんが助け起こしてくれた。


「すいません。緊張の糸が切れてしまいました」


「まぁ、いいさ。それで敵の親玉はどうだった?」


「落ち着きなさい、ガウ。

とりあえず、アルはこのお茶を飲んで気を楽にしなさい」


急かすガウ小父さんを制してケイロン小父さんが淹れたての湯気がたっている紅茶が

入ったカップを差し出してくれたので、それを飲み干し、一息ついて、

俺は探索結果を伝えた。


「敵の首領はゴブリンロードではありませんでした」


「「「……ッ!?」」」


「ではなんだったのだ?」


「僕のスキルでの鑑定結果は[ゴブリンエンペラー]でした」


3人の表情に驚きと緊張が走ったのが見て取れた。


 それもそのはず。エンペラーは上位種であるロードを更に上回る魔王種という

その魔物の種族の頂点に君臨する稀有な存在である。

 魔王種の襲撃を受けた国は甚大な被害は避けられず、精鋭の騎士団や軍隊ですら、

討ち取ることができるのは難しく、歴史ではエンペラー種に滅ぼされた国は数多い。

勝利のために多大な犠牲と引き換えにすることを覚悟しなければならない相手なのである。


「僕の鑑定で出たゴブリンエンペラーのステータスパラメータはこちらです」


俺は『空間収納』内にある紙に先ほど鑑定したエンペラーのステータスを書き出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


種族:ゴブリン 性別:♂ 

職業:ゴブリンエンペラー

筋力:A 体力:A 戦速:C 知力:D 

魔力:D 魔力抵抗:C 詠速:E 精神力:C 

スキル:【直感LV1】【絶倫】【大剣技LV4】【体術LV4】

称号:【魔王種】【アヌケト鉱山の支配者】


備考:高い魔力を持っていたデズモンド伯爵の娘から産み落とされた

   ゴブリン族の魔王。人間から生まれたため、パラメータは未だ

   に成長中。動きは遅めで魔術が使えない反面、筋力と頑強さが

   抜きん出ているので、注意が必要。配下を増やすため、異種族

   だろうと女性と交配できるのであれば躊躇ためらいはなく、子を産めれば

   よいという考えなので非常に危険。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


能力的にはガウ小父さんの筋力と体力に速度がレオンよりも劣るというものだが、

注意すべきはスキル【直感】だろう。


 おそらく、俺が『霧隠れ(ミストハイド)』で隠密状態なのにそれを無視して

攻撃してきたのはこのスキルが発動して俺の気配を察知したからだ。


 スキルレベルが低いため、確率発動になっているのが救いだが、

さっき見つかったのは偶然ということになる……運が悪かった。

発動すると命中と回避が上昇してLV1でも隠密状態を解除するなどの

補正がかかるのは先ほど体感したので厄介だ。


 相手は国を平気で滅ぼせる魔王種だから、すぐにプタハ村に戻って準備をした方がいいな。


「よくやってくれたアル。疲れているところ悪いが、『転移門』は 使えるか?」


レオンも同じ考えのようだ。


「はい、父様。緊急事態なので早急にプタハ村に戻りましょう」


レオンの要請に従い、俺はセーフハウスを片付け、『転移門』を作り出し、

俺たちはプタハ村へ帰還した。




 プタハ村に帰還後すぐに村長の招集がかかり、戦える男たちは先日同様、

議事堂に集まった。


 襲い掛かってくるかつてない脅威に皆、戦慄していたが、

エルトンさんが早馬で王都へ報告に行ってくれている。


 密かに付いて行かせたイムの分身体を使って、

俺は王都にいるエルトンさんに最新情報をイムの分身体経由で

レオンの署名つきの報告書を隷属の特殊効果、『空間収納』の共有スペースを

利用して送った。


 エルトンさんの返事では王は対魔物専門の部隊である第二騎士団のプタハ村への

派遣を決定し、王都の屋敷にいるデズモンド伯爵を重要参考人として召喚。

アヌケトから王都へ移動してきた関係者たちも全員拘束。

 更にテーベ共和国に使者を派遣して状況の説明など全力を傾けてくれたらしい。


 通常の馬車よりも速度が出て、魔力がある限り動き続ける石馬形(ゴーレム)馬車を

戦闘用に改造した石馬形(ゴーレム)戦車に第二騎士団を乗せて移動中である。


 ゴーレム戦車の最大速度でも王都からこのプタハ村まで2日の距離がある。


 第二騎士団はエルトンさんが王にゴブリンエンペラーの出現を報告した時点で出撃が決まり、

その日のうちに出撃したから、遅くとも明後日にはこの村に到着する。


 アヌケト鉱山攻略作戦に参加するのはレオンとクリス、そして、ガウ小父さんたち従者で、

俺も支援担当で参加することになっている。


 村の戦える人間は行き違いによるゴブリンたちの襲撃に備えるため、

村で迎撃することになって、その日は解散となった。


 今回の作戦にはクリスたち奥様陣も戦闘に参加することが決まっているから、

レオンとクリスは武器と防具の入念な確認をしていた。ガウ小父さんたちも同様だ。


 一方、俺はというと、寝起きからシアとソフィに捕まっていた。


「あのさ、シア、ソフィ、動けないんだけど……」


「や、今日もアルと一緒にいるの!」


「(コクコクッ)」


昨日、アヌケトから帰還してから、シアとソフィの2人は俺からなかなか離れようとせず、

結果、2人の両親たちが折れて、家族ともどもレオンと俺の家に泊まることになったのだ。


 5日も離れていたことは今までなかったため、シアとソフィは俺がいなくなることを

怖がってなかなか離れようとしない。

 更に、成長が早く、俺より頭1つ分背が高いシアが後ろから俺を抱きしめていて、

ソフィが前から抱きついている見事な連携のため、俺は完全に身動きを封じられてしまった。


 しかも、シアの育ち始めている胸の感触と2人の、子供特有の高めの体温と弾力のある

触り心地のいい肌の感触が合わさって、俺の抵抗の意思を的確に刈りとっていく。


「3人とも朝食の用意ができましたよ」


「「は~い」」


エヴァが呼びに来てくれて、ようやく俺は解放された。

……別に残念とは思っていないから。

といっても負け惜しみにしか聞こえないよな。とほほ。




 俺は直接目にした対ゴブリンエンペラー用の武装として、

鉱石加工施設で入手した魔石を加工して切り札を作ることに決めていたが、

それと並行して、下準備を済ませていた石鹸の作成をシアとソフィが見守るなか、

することにした。


 大丈夫、まだ慌てる時間じゃない。ここで焦っても失敗する可能性が

上がるだけでいいことはないのだ。

 対策手段は今後の影響をある程度無視すればいくらでも用意できる。

落ち着いて冷静に対処すれば魔王種だろうと死滅できる。


 【世界検索】を活用して、鉱石加工施設で使えなかった水酸化ナトリウムを

食塩から作り出そうと思ったが、同時に発生する猛毒の塩素の扱いに困るので、

今回は比較的安全な脂肪酸中和法で作ってみることにした。


 この方法の特徴は水酸化ナトリウムを使って食塩で塩析する油脂鹸化法と違って、

アルカリが残らないので肌に優しく、品質も安定して大量に作れるため、大規模メーカーで

用いられる方法である。


 石鹸は消耗品だから、安定した品質のものをたくさん作っておこうという魂胆である。


 原料はオリーブ油を使いたいところだが、高価で今のところ入手ルートがないので、

村で成功している輪作の作物である菜種油に決めた。

 これと採取していた数種類のハーブを使ってハーブオイルを作るべく、

実は偵察に行く前に日当たりのいい場所に置いて下準備をしておいたのだ。

 帰ってきたあと確認したが、いずれのオイルも上手にできていた。


 そして、【世界検索】を参考に【魔術(工学)】で『高温加水分解』を行い、

得られた脂肪酸を更に【魔術(工学)】の『蒸留』でグリセリンから分離させ、

単独中和させて完成。


 俺は【魔術(工学)】を創始した魔術師の凄さと【魔術(工学)】の素晴らしさに感動した。


 使った薬草(ハーブ)はラベンダーとゼラニウム、ローズマリーとベルガモット、レモンの5種で、

レオンとクリス、エヴァ、シア、ソフィとその家族に早速、試用してもらった。


 反応は好感触で、香水を使わずとも、仄かに香る匂いが大好評。

ラベンダーとゼラニウム、ローズマリーが女性陣に人気で、

シアとソフィはラベンダーの石鹸がお気に入りだ。


 対ゴブリンエンペラー用武器の作成準備もできたので、俺は手札を増やすべく、

アヌケトの鉱石加工施設を『転移門』で再び、今度は独りで訪れた。

 シアたちには悪いが放棄された都市アヌケトの様子は見せたくない。


 俺は施設で大量に放置されていた未使用石炭を【魔術(工学)】の『粉砕』で粉々して、

同じく放置されていた鉄のインゴットを加工したパイプに詰めた。

 ここでも【魔術(工学)】が大活躍だ。


 これを魔導爆弾と併用して粉塵爆発を起こし、ゴブリン共を一網打尽にする手段の準備は整った。


 では、前回気になった神殿に行きますか……。


 翌朝、ゴーレム戦車が数多く到着し、王国の紋章が刺繍されているマントを身に付けた騎士たちが

到着して、リーダーらしき意匠が異なる人物が家に来た。


「第二騎士団のハロルド・ヴィ・キャンサー。

王命により援軍として到着した。久しぶりだなレオン」


「ああ、援軍感謝するハロルド。

アル、挨拶を。こちらは俺の元同僚で、現第二騎士団の団長のハロルドだ。」


「はい。

レオン・アクエリアスの息子のアルス・アクエリアスです。

お初にお目にかかります。ハロルド様」


レオンに促され、俺はハロルドさんに挨拶する。


「ああ、君がレオンとクリスの子供か。

母君に似て可愛いじゃないか。将来が楽しみだな」


そう言って、ハロルドさんはあごに手をあてて、俺を見てにやにや

している。


 んん? なんかハロルドさんの反応が妙だぞ。

確かに俺はクリスに似ているけれども、男に可愛いはないよな。


「……ハロルド、アルは女の子に見えるか?」


こら、レオン! 肩が震えているぞ。笑いを堪えようとして、

全然、堪え切れてないじゃないか!!


「なにを言っているんだレオン? こんなに可愛い子が

男なはずないだろう??」


おいい! ハロルドさんも真顔でなにを言うんだよ!!


「いえ、僕は男ですよ」


「……は?」


俺の言葉にハロルドさんが固まった。


「いやいやいや、そんなはずは……」


「うんうん、アルはたしかにとびっきり可愛いけれども、

れっきとした男の子よ。ハロルド」


後からやってきたクリスに俺は後ろから抱きすくめられた。


「クリスまで俺を騙そうというのか……って、え、マジ?」


「ええ、本当よ。アルは可愛いでしょ!?

でもれっきとした男の子よ♪」


クリスは満面の笑みで、そう答えている。なんかこの状況を楽しんで

いないか?


「申し訳ない!」


直後にハロルドさんが鎧を着たまま綺麗にジャンピング土下座を披露した。

こちらの世界で初めて見たよ。ジャンピング土下座。


「いえ、初対面の方には大抵性別を間違えられるので、

仕方ありませんよ」


俺は苦笑いしつつ、ハロルドさんの謝罪を受け入れ、土下座をやめて

もらった。騎士でしかも団長が簡単に土下座しちゃ駄目でしょ。


 俺の身長が伸びてはいるが、まだクリスに届いていない。

それにクリスも子持ちとは思えないほど若く見えるから、

並んでいるのを見ると、姉妹に間違える程似ているとシアとソフィが

言っていた。


 だから、初対面の人には間違えられても仕方ないと既に諦めの境地

だ。ちゃんと下にはついているんだけどね。


 作戦の簡単な確認が終わり、積もる話があるだろうから俺は席を

外して、村の様子を見て回った。




 俺たちがゴブリンエンペラーの情報を持ち帰った当初は諦めと

やる気で半々だった雰囲気が諦め2、やる気8の割合に変動していたのは

いい傾向だろう。


「アル……その、討伐は上手くいくのか?」


俺の目の前に村長の孫のウェインが不安気にやって来た。


「さて、どうだろう?

騎士様がたが強いのは確かかもしれない。

 けれども、敵は雑魚とはいえ、数が多いし、それを率いるボスは

ガウ小父さん並に頑丈だからね」


「……それって、勝てるのか?」


訓練でガウ小父さんに俺と同じくボロボロにされているウェインは

より不安そうに尋ねてきた。


 身体は細身の俺よりも男らしくがっしりしているのによく言えば、

慎重。悪くいえば臆病なところがウェインにはあるからなぁ。


「現状ではなんとも……ただ、十分勝算がある作戦だよ。

まぁ、現存戦力で討伐できないならば、最悪、アヌケト鉱山を

犠牲にして、封印するように第二騎士団の人たちは王様に

言われてきているみたいだしね」


「そうか。よかった」


俺が把握している情報から導き出した俺の答えにウェインはようやく

安堵した表情になる。


 まぁ、最悪、”封印”じゃなくて、アヌケト鉱山をこの世界から

”消して”でも俺がヤツらを地獄に送るつもりだけどな!


ご一読ありがとうございました。


次回更新は5月27日24時(28日0時)を予定しています。

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