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くるい  作者: 天城恭助
9/9

そして世界は赤くなる

時間かかった上に短いです。けど、ようやく完結です

 僕は荒賀が何を言っているか分からなかった。

「サンプル回収ってなんだよ?」

「私の弟だよ。雷二を捕まえる。あいつはいい研究材料だからな」

「……殺人鬼とはいえ自分の弟だぞ。それに捕まえられるとは思えない」

「捕まえられるさ。あいつは化物じみているが馬鹿だからな」

 言いたいことは分かった。それでも荒賀に対する嫌悪感はなくならない。

「荒賀さんはそれでKIVを治せると考えているんですか?」

「絶対、とは言えない。だが、私と君が力を合わせれば不可能ではないと思っているよ」

「私の協力前提ですか……」

「正直、私一人でも不可能ではないと思う。ただ、君は実に優秀だからね」

「あなたに付いていけるのは私しかいないと……?」

「それもある。そもそもKIVに関わろうとする奴は少ないからな。仕方ない」

 そもそも数が少ないKIVを研究するものが少ない中でくるみさんが優秀だったからだけが理由ではないだろう。恐らくは……

「それに、KIVに感染していない人間にこれを理解できるはずもない」

 荒賀の言っていることはKIVを、ではなく自分のことなのだろう。

 症状を克服しているとはいえ、未知のウイルスに感染している人と一緒に研究するのは抵抗があるはずだ。

 それに理由はわからないが、何となくわざと僕たちに嫌われるように仕向けている節がある気がする。

 彼も色々と苦労しているのかもしれない。

「さて、話はもういいだろう。これから雷二を捕縛するための作戦を教える」

 彼の言う作戦は単純明快だった。罠を仕掛けておびき寄せて捕獲する。野生動物でも捕まえるのだろうかというぐらいには単純だ。

 荒賀は、既に罠は用意してあるが囮や仕掛けを起動させるための人員が必要だったので手伝ってもらいたかったようだ。

 後は、僕たちの覚悟ができているか否かの問題だと。

「さて、作戦の決行は明日の午後10時だ。誘き寄せるためのエサは俺が用意し、捕まえるための仕掛けも私が動かす。そして、君たちには囮になってもらう」

「なんであんたが勝手に決めてんだよ」

「仕掛けを動かすのは私にしかできない。だから、君たちには囮をやってもらう他ない」

「急にそんなこと……!」

 文句を言おうとしたら、くるみさんに止められた。

「わかりました。覚悟を決めてきます」

「ものわかりが早くて助かるよ。須賀君も納得してくれ」

「……わかった」

「これから最終調整してくるから、今日は解散だ。明日の午後9時にはここに来い」

 荒賀は部屋から出ていき、僕とくるみさんだけが部室に取り残された。

「明日にはお別れだし、どこかに遊びに行こうか」

「でも……いいんですか?」

「このままじゃ、すっきり別れられないでしょ。お互いにね」

「そうかもしれませんけど、余計に別れが辛くならないでしょうか?」

「そんなことない……とは言い切れないけど、私は少しでも長くあなたと居たい」

 この人も僕と同じ気持ちなのだ。それでも別れなくてはいけないという気持ちがある。要は、僕たちはお互いに未練だらけなんだ。きっと時間いっぱい一緒に居ても未練が晴れることはないし、仮にそれより長く一緒に居られてもくるみさんの気持ちは罪悪感のようなもので別れられずにはいられない。

「お互い、これ以上一緒に居てもあまりいいことはないと思います」

 くるみさんは悲しそうに俯く。

「ただ……ただ、僕はこれから先、くるみさん以外と付き合う気はありません」

 一呼吸を置く。

「この作戦が終わっても、いつかまた会える日はあると思います。それがどれだけ先かは分かりませんが、その時にはきっと、周りの環境も僕もくるみさんも変わっていると思います。それでも、僕の気持ちは変わりませんから」

「私はもしかしたら別の人と付き合っているかもしれないわ」

「それならそれで構いません。その時はくるみさんの病気も完治しているということでしょう? それ以上に嬉しいことはありません」

「あなたは本当に……でも、ありがとう」

 僕たちは明日に備えてこの日は別れた。


 明日の午後九時、部室に全員揃っていた。

「それじゃあ、移動しようか」

 ここからすぐ近くには森がある。自然保護のため人がほとんど手を加えていない。そこに罠が仕掛けてある。

 どうやっておびき出すかと言えば、荒賀優一が荒賀雷二をメールで呼ぶそれだけだ。荒賀優一が言うに「殺したいほど感謝されているから私の呼び出しに応じてくれる」だそうだ。一体、どういう意味なのかはわかりかねるが、荒賀が言うからにはおそらく間違いないのだろう。

 僕とくるみさんは森の中に隠れている。罠の位置はあらかじめ教えられているのでそこに誘導するのが僕たちの役目だ。


 しばらくすると、足音が聞こえた。

「おーい!! 兄貴ーーー!!」

 馬鹿でかい声だ。そこまで近くに居たわけでもないのに耳がキーンとする。

「くそっ! 冷やかしか?」

 茂みに石を投げて、音を鳴らす。

「兄貴、そこに居るのか?」

 石を投げた方向に雷二が向かう。

「とでも言うと思ったか?」

 人間とは思えない速度で僕の方に向かってきた。

 だが、焦る必要はない。これは想定内だ。と言っても、僕のではなく荒賀のだが。

 僕の目の前まで来て、拳を振りおろす。僕は必死の思いでなんとか避ける。

 拳が振り下ろされた地面は拳の形に抉られていた。

「お前は兄貴じゃねぇな。それにしてもよく避けたな。誰か知らんが、殺しておくぞ」

 欠片も容赦がない。恐ろしくはあるが、聞いていた通りだ。

 僕の居たところから網が飛び出す。その網は雷二を捕まえた。

 これはただの網じゃない。ピアノ線のような頑丈な糸でできている網だ。

「なんだこれは?」

 だが、警戒を怠ってはならない。聞いていた話によれば、かなりの高確率でこの網を破って出てくる。

「ふざけやがって……ふんぬぅううううう!」

 網を横に引きちぎるように引っ張っている。当然、糸が指に食い込んでいるはずだ。暗闇で良く分からないが間違いなく血を流している。普通は切れない。

「がぁ!」

 だが、この怪物は破った。手を血まみれにしながら、ただ怒りながら。

「お前、許さんぞ……絶対に許さん!」

 とても怖い。それでも、恐れる必要はない。

「がっ……」

 雷二は方膝を付いた。雷二の右の脹脛にはナイフが刺さっている。

 くるみさんが投げたナイフだ。あの赤い眼は夜目が利く。さらに筋力が強くなっているため、雷二の異常な頑強さを誇る筋肉にも刺さっている。

 僕は急いでこの場から逃げる。

「待ちやがれ!」

 待つ必要はない。今度こそ決着だ。

 今度は地面から鉄の棒が飛び出す。それは雷二を囲む。棒の一つ一つは円形に斜め上に向かって突き出てきており、三角錐の形を描く。檻の完成だ。

「くそぉ!」

 雷二は棒をつかんで破壊を試みるが、まず掴むことができない。雷二の体は痺れて動けなくなっている。

 足音が二つ近付いてくる。くるみさんと荒賀優一だ。

「誠君! よかった、無事だったんだね」

「はい。大丈夫です」

 荒賀は雷二の近くによる。

「久しぶりだな。雷二」

「兄貴……? 兄貴! 待ってろ、今すぐ殺してやる!」

 檻に手をやり、また痺れ動けなくなる。

「無駄だよ。こいつには高圧電流が流れている。まぁ、お前のことだから破壊しかねないと思ったから、手を怪我させたわけだが」

「そいつらは兄貴の差し金か……」

「当然だ。お前の目の前にのこのこ出て行ったら殺されてしまう」

「大丈夫だ。今からでも殺せる」

「全く、お前は自分の現状をまるでわかっていない。お前はこれからの一生を実験動物として生きるんだよ」

「なんでだよ……俺をこうしたのは兄貴だろうが!」

「私がそうしなくてもお前はそうなっていただろ。お前は社会に適応できなかった。だから、これからは責めて人類のための生贄になってもらおう」

「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だぁ!」

 少し可哀そうに見えなくもなかった。それでも、この雷二という男は幾人も殺している。本来は警察に引き渡すべき人物でもあるが、法廷で裁かれたら死刑はほぼ確実だ。それならただ殺すより、活用すべきだ。その考え方は非人道的でとても許される行為ではないかもしれない。しかし、その非人道的な行いの先に明るい未来が待っているのなら……


 その後、雷二がどうなったか、僕は知らない。荒賀優一とくるみさんは学校を辞め、研究に没頭しているそうだ。僕の感染は緩やかに進行を続けておりそんな中で学校を通った。

 いつかバレるのではないかと気が気ではなかったが、なんとかなった。達也にはバレたが、なんだかんだで協力してくれた。

 僕が高校を卒業するころ、KIV感染者は人類の半数近くに及んでいた。その頃に、症状を抑える特効薬が開発されたと世界中で話題になった。

 それからニュースで荒賀優一の姿をよく見るようになった。その傍にくるみさんの姿はなかった。

 特効薬が開発されてから、一ヶ月程で世界中に配られた。その後、感染者による事件が一気になくなった。ただし、症状が無くなるだけで異様な筋力の向上や赤い目だけは治ることはなかった。それにより、感染したことがあるものと感染したことがないもの同士で対立が起こるなど世相が少し不安定になってはいる。

 それがどう変遷していくのかは僕にはわからない。それは僕にとっては関係のない話だと思っている。ただ、赤い目は着実に数を増やしておりいずれ世界中の人の目は赤くなるだろう。それが良いことか悪いことかわからない。

 僕はただ、あの人が気になっているだけだから。どうも研究者は赤い目を治す術を探していないようだし、あの人がこれ以上研究を続ける必要もない。

 浪人した僕は勉強もせずに、時々町をふらつく。あの人の面影を探しに出かける。まるで命のないゾンビのように。

 気が付くと母校に足が向いていた。一時は廃校になりかけたが、特効薬が開発されたことにより息を吹き返し人が戻りつつある。グラウンドでは赤い目をした生徒達が人間離れした動きを見せる。サッカー部がシュートの際にボールを破裂させたり、陸上部が100メートルを九秒台切るような走りをしていたり、今までの人類では不可能な真似だ。

「久しぶり」

 横から、誰かが話しかけてきた。それは懐かしくて、会いたくて仕方がなかった人の声。

 赤い目をした彼女が居た。

ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございました。良ければ感想等お願いします。これからも書いていくつもりなので、天城恭助をお願いします。

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