表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くるい  作者: 天城恭助
3/9

かつてのようにはなれない

今回、ちょっと短めになってしまいましたが、結構いいペースで書けているでしょうか?

今回は微エロというかキマシ?注意。注意という程でもないかもしれませんが、念のため。これからちょっとエロとかグロとか増える予定(そんな長く書くつもりはないけど)です。ただし、R-18にはなりません。

 遠藤さんは言った。くるいのせいで多くの人が不幸になった、と。

 僕は、当事者じゃないから何も言うことはできない。ただ、それでも京本先輩を諦める気にはなれなかった。さらに言えば、遠藤さんはその時のことを後悔しているように思えた。そして、彼女さんだけでなく京本先輩も大事な人と思っているのではないだろうか。この人たちのことを知らなくてはいけない。京本先輩と共に居るためには。ならば、僕は選択しよう。

「DRE研究会に入りますよ」

「そうか……。と言っても特別なことは何もしてないけどな」

 勿体ぶって、覚悟を決めさせるような話をしておいて、何もないとは……。

「俺は、これ以上くるいと関わることで不幸になる人間を見たくはない。だから、俺はくるいを監視して、関わろうとする人間に警告している」

「遠藤さん。それって……」

 ストーカーみたい……

「言うな。わかっている。俺も人としてどうかしていると思うところがある。だが、そう思われてでも被害は防がなくてはならない」

「不退転の決意、というやつですね」

「そうだな。まぁただ単に、これ以上俺と同じような思いをする奴が出てきてほしくないだけなんだけどな」

「なるほど。なら、僕逹はそのサポートをするわけですね」

「あぁ、そうだ。俺のことをくるいに復讐したいやつのリーダーみたいに勘違いしている奴がいるみたいだけど、したいのは復讐じゃない。守ることだ」

「その辺も是正するべきなんじゃないですか?」

「……あいつらの存在は、くるいに関わることへの抑制に繋がっているから是正する必要はない。くるい自身このことを罰に思っているようだしな」

 正直、納得がいかない。けれど、今の僕にはそれを解決する手立てがない。ならばせめて、京本先輩の罪の意識を少しでも和らげてあげたい。そのために協力しよう。

「まぁ、詳しい話はまた後日にでもしよう」

 僕たちは昇降口に向かって歩くと前を歩いていた遠藤さんは誰かにぶつかった。

「っと、どこ見て歩いて……?」

 ぶつかった人――その女性は、遠藤さんを抱きしめていた。

「会いたかったよぉ……マサくん」

「……どうして、ここにいるんだ?」

「ずっと、ずっと会いたかったから」

「そ、それだけなのか? お前は隔離施設に入れられたんじゃなかったのか!?」

 その言葉で、彼女が誰なのかを理解した。篝美穂――遠藤さんの彼女だ。

「許可は貰ったよ。条件付きだけど外で自由にしていいんだ」

「条件って?」

 彼女は遠藤さんから少し離れ、右手で自分の頭を指差し

「ここと」

左手で自分の左胸を指差した

「ここに機械を埋めること」

「どういうことなんだ?」

「私は常に心拍と脳波を管理されているの。KIVの症状が出ると、心拍数と脳波に異常が出るからね。結構独特らしいよ」

「もし、その症状が出たらどうなるんだ?」

「強制送還、もしくは殺処分じゃないかな?」

 僕も遠藤さんもその発言に驚いた。殺されるかもしれないということに関してはもちろんだが、殺処分という言い方にも、少なからずおかしさを感じた。まるで、自分のことではなく獣を指して言っているかのようだった。

「そんな悲しそうな顔をしないでマサくん。私はどうしてもマサくんに会いたかっただけなんだよ」

「俺もそう思っていたけど、どうしてそんなに……?」

「愛しているから。私はずっとマサくんのことを考えてた。それだけを心の支えにして闘病してきた。それで、こうやってマサくんに会うことができた」

 篝さんは、また遠藤さんに抱きついていた。

 こんな状況になられて、ここに居るのがとても気まずくなってしまった。とりあえずここは、帰ることにしよう。

「それでは、僕は帰りますね」

「ちょっと待って」

「な、なんですか?」

 篝さんに呼び止められとは思っておらず、驚いてちょっとどもってしまった。

「あなたはマサくんとどういう関係?」

 篝さんの表情から笑顔が消えた。

「あぁ、こいつは」

「マサくんには聞いてない」

遠藤さんは黙らされた。しかし。この状況……。

 どうして僕はこんな修羅場での質問みたいなことをされているのだろうか。

「えーっと、京本先輩を通じて知り合った友人というか先輩後輩ですかね?」

「くるいちゃんが関係しているのか…………それ以外ないよね。うんうん。よかった」

何もよくはないのだけど、この人は一体何を思っていたのだろうか?

ともかく特に深く突っ込まれずに済んでよかった。この人は何かよくわからないが怖い。

「それじゃあ、僕はこれで失礼します」

何か得体のしれない人だったせいか、一刻でも早くあの人から遠ざかりたいと足が早足になる。

「引き留めてごめんね。これからよろしく」

 篝さんと遠藤さんの姿が見えにくくなったところでそういわれた。

 京本先輩と会ったときも少しドキドキしていたが、篝さんに会った時は違う意味でドキドキさせられた。


 翌日の朝のホームルーム。噂というのはすぐに広がるものらしく、去年の被害者の一人が戻ってくるという話が聞こえてきた。それは僕にとって関係があると感じているせいか、普段は聞こえないような会話も聞こえてしまう。僕は結局何を気にしているのかよくわからなくなった。ただ、わからなくなっても気になることは何度も考えてしまうもので、授業は一切耳に入らず無為な時間を過ごすことになってしまった。

 放課後、DRE研究会の部室があるという別棟に向かった。その別棟の二階にある教室。そこにはわかりやすくDRE研究会とでかでかと扉に張り付けてあった。二回ノックした後

「失礼します」

扉を開けた。そこには、遠藤さんに後ろから抱きついている篝さんの姿があった。

「おぉ、ようやく来たか」

「失礼しました」

僕は扉を閉じた。

「ちょっと待て。誤解はないが誤解だ」

 再び扉を開けた。

「少しは周りの目を気にしてください」

「俺に言うなよ」

「そうだよ。言うなら私に言いなさい」

 何故僕が怒られるような形になっているのかが理解できない。ただ、僕が彼女に対して言わないのは篝さんがとても怖いだけでしかなかったりする。

「とにかくやめてもらえませんか?」

「嫌」

「……はぁ」

 思わずため息がこぼれる。

「まぁ、俺が言うのもなんだが気にするな。些細なことと割り切ってくれ」

「納得はいきませんが、そうしておきます」

「やった! これでもっとイチャイチャできるね!」

 そう言って、遠藤さんに頬ずりしていた。

 この人、既にイチャついていたくせに何を言っているんだ……

「それで、本題に入りますけどこれからどうするんですか?」

「今日は美穂から話を聞こうと思っている」

「私?」

 篝さんは首をかしげた。

 年上とは思えないほど幼く可愛らしい動作だが、昨日の件もあって不気味に見えてしまった。

「京本さんの方はどうするんですか?」

「他の奴らが監視をしている。気にする必要はない。それより気になることがあるからな」

「気になるって私が?」

「そうだな」

「嬉しい!」

 また抱き付いているよ……それが満更でもなさそうなんだよな。遠藤さん。

「多分……というか絶対美穂が思っているのと別のことだからな」

「なんでもいいよ。私はマサ君が少しでも私のことを考えてくれるだけで嬉しいから」

 すぐにでもこの空間から抜け出したい。このリア充空間は辛すぎる。

「俺が聞きたいことは病院での生活のことだ。後、退院の条件を詳しく教えてくれないか?」

「うん。本当は詳細を話しちゃいけないけどマサ君の為ならなんでも教えてあげる」

 その内容は噂には聞いていたが、恐ろしいものだった。

 篝さんは病院に運ばれた後、個室に押し込まれたそうだ。その部屋には、ベッドのみしかなくそれ以上のスペースはない。窓はなく通気口だけ。監視カメラも取り付けられている。行動に関しては病院を出る以外は、特に制限はない。病院だがネットなどは使用可能だ。ただし、誰かと連絡を取るのは許されていない。守られなければ更に厳重なロックがされている部屋に押し込まれるという。

「退院の条件だけど、簡単に言えばKIVの症状が発症条件を満たしても症状が出なくなったら退院できるようになるの」

「具体的には?」

「感染者を見ても殺意がわかなくなることだよ」

「そんなことがありえるのか?」

「世の中には結構な数の感染者で有名人がいるぐらいだからね。そこまで珍しいことじゃないよ」

「なるほどな」

「ちなみに、この殺意がわかなくなるためにすることは夢中になれることをすることなんんだよね」

「夢中になれること?」

「そうだよ。私で言えば、マサ君を好きであることだよ」

「そうか。でも、あいつは何に夢中になって退院したんだろうな」

「あいつってもしかしてくるいちゃん?」

「そうだが?」

「それって研究じゃないの?」

「どうしてそう思う?」

「だってくるいちゃん科学論文書いて、発表しているよ。私たちと会うより前に。 確か科学雑誌にも載っていたんじゃないかな」

 絶句。驚きだった。高校一年の時点で論文が科学雑誌に載っているなんて天才にも程がある。と言うより、どうやって研究する環境を手に入れたのかさえ謎だ。

「それで研究の内容は?」

「KIV」

 これは偶然なのだろうか? KIV感染者からKIVの研究者の話を聞くとは思わなかった。

「KIV感染者がKIVについて調べるなんて妙な感じだな」

「そもそも感染していること前提で話していますけど、確証はあるんですか?」

「私、病院先の人に聞いたから間違いないと思うよ」

 この人は知りたかったような、知りたくない真実を軽々しく言ってくれるなぁ。

「これで確証を得ることができたな」

「それで、それを知ってどうするんですか?」

「どうもしない。ただ、少しでも多くの情報があったほうがいいだろう? 友人を救うために」

「それって……遠藤さん、憎んでいたんじゃなかったんですか?」

「美穂が帰ってきたんだ。これ以上憎む必要もないだろう。それに美穂もくるいが救われるのを望んでいるだろ? なぁ?」

「……」

「美穂?」

 篝さんは、何も言わずに立っていた。間が少し空くと携帯の着信音が鳴る。

「ごめん。ちょっと電話出てくるね」

 部室の外に出て行ってしまった。

「どうしたんでしょう?」

「わからない。ただ、胸騒ぎがするな」

 一分とかからずに篝さんは戻ってきた。

「病院からだったよ」

「何かあったのか?」

「ちょっと薬について説明があっただけだよ」

「そうか」

「それよりくるいちゃんを救うって話だったけど、何か困ったことでもあったの?」

 さっきの黙っていた態度が嘘のように明るくなった。

「救うっていうのは、言葉の綾だな。あいつ、元々孤立していただろ? それが更にひどくなってな。まぁ、俺の活動のせいでもあるんだが……」

「活動って何したの?」

「くるいに誰も近づかないように仕向けていた。時に脅迫まがいなことをしてな」

「マサ君……」

「幻滅しちゃったか?」

「そんなことないよ。それもくるいちゃんのためだったんだよね? そんなマサ君のことを幻滅なんかしないよ」

「美穂……」

 なんですか、このリア充空間。とっても帰りたい気分です。

「それで具体的な方針はどうするんですか?」

「DRE研究会に呼び戻そうと思っている」

「それはいいアイディアね」

 本当に上手くいくのだろうか? 不安だ。


 翌日の放課後。僕たちは、京本先輩の元へと向かった。

「こんにちは!」

 篝さんが勢いよく扉を開ける。

 ちらほらと先輩方が残っていて、勢いよく開けられた扉の音に驚いてこちらを向く。そんな中で、京本先輩は信じられないものでも見ているかのような表情をしていた。

「どうしてきたの?」

 理由はわからないが怒っているようだ。

「もう一度、DRE研究会に戻らないか?」

「断るわ。そんな環境に居られるわけがない」

 強い拒絶だった。今までで一番強い拒絶だった気がする。

「どうしてダメなの?」

「どうして? そんなのあなたが知らないわけがないでしょ!?」

 そうか。どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのだろう。篝さんは感染者と共にいても殺意がわかないことが条件だと言った。殺意がわかないようになったからこそここにいるのだろうが、絶対ではないのだろう。篝さんと京本先輩は共に感染者だ。危険性が高まるような真似は避けたいのだろう。

 二人の様子を見るに気づいていたのだろう。

「それでもダメ?」

 篝さんは涙目になっていた。

「……そんなに私をDRE研究会に入れたいのなら、篝さん。学校を辞めなさい」

「何言ってんだよ!」

「それはできないよ。私はマサ君と一緒にいなくちゃいけないの」

「そう。わかってた。だから、私が学校を辞めるわ」

「おい! なんでそうなるんだよ!」

「私と篝さんが一緒にいていいことなんてないわ。むしろどうして許可されたのか理解に苦しむくらいよ」

 許可とは、病院からということだろうか。

「僕は、二人共学校をやめて欲しくないです」

「そういう問題じゃないのよ」

「正直ね、私はくるいちゃんのことをどうでもいいって思っているの」

「美穂、何を言って……?」

「今の私はマサ君がいないと気が狂いそうだし、くるいちゃんのことを心配している余裕なんてないんだよ」

「それなら、どうして私に構うのよ?」

「マサ君が心配しているから。私自身はマサ君が望むことを叶えてあげたいの」

「……あなたの病は深刻ね」

「ずっと前から患っているからね」

「それでも、あなたたちが何を言おうと結論を帰る気はないわ」

 堂々巡り、間違いなしだった。何を言おうと京本先輩は自分の答えを曲げようとはしない。一体、どうしたら……

「マサ君。なんとしてでもくるいちゃんをDRE研究会に連れ戻したい?」

「それは、まぁ、そうだ」

「一応、とっておきの手があるよ。けれど、それをするとマサ君に嫌われちゃうかもしれない」

「そんなことないぞ! 何があっても美穂のことを嫌いになったりするものか!」

「嬉しい。それならその手段をとっても大丈夫?」

「あぁ。どんな手段かは知らないが、くるいを連れ戻せるならやってやれ」

「わかった。マサ君のためならなんでもする」

 篝さんは、京本先輩に詰め寄る。

「い、一体何をする気なのよ」

 無言で京本先輩に近づいていく。京本先輩は少しずつ後ずさりながら逃げていく。

「近づかないでよ。近づいたら危ないでしょ!」

「それなら、近づいても大丈夫なことを証明すれば問題ないよね」

 さらに距離を詰め、京本先輩は壁に追い込まれる。

 手で行く手を阻み、股に脚を入れ動けないようにする。

「ち、近寄らないで」

「ほら、こんなに近づいても大丈夫だよ」

 見ていて物凄くドキドキする。この手の趣味はないのだが……ってそういう問題じゃない!

 顔が更に近づいている。くっつきそうなほどに。

 ……というか、既に口がくっついてた。というか、キスだった。更に言えばかなり濃厚なやつだった。言い換えれば、ディープキスだった。

「どうしてこうなった」

 こう言わずにはいられないほどに異様な光景だった。

 吸い付くような音、ピチャピチャと水の音が聞こえてくる。

 やらしいものでも見ている気分だ。ってか、実際そうとしか言えない状況だ。

 しばらくして、二人が離れた。

「い、いいい、一体何してくれているのよ!」

「キス」

「そんなことは言われなくてもわかっているから! どうしてやったのかを聞いているの!」

「さっき言ったとおりだよ。私が近づいても何の問題もなかったでしょう?」

「今はないかもしれないけど、今後ないとは限らないでしょうが」

「今後がどうなるかなんて誰にもわからないでしょ?」

「わからなくても危険性があるのは間違いないことよ」

「リスクを背負わずには、何かを得ることなんてできない」

「屁理屈を言うな!」

「それなら、どうしたら納得してくれるの?」

「何をどうしようが絶対に納得なんてしない。DRE研究会にまた入ることは絶対にない!」

 やはりどうしようもないのだろうか。

「ふざけないで……」

 篝さんは手を振り上げる。

「暴力を振るう気? それをやったら決定的ね」

 その手は、京本さんの頬を叩くことはなかった。篝さんは京本さんを抱きしめていた。

「みんな、心配しているんだよ? 私はマサ君のためにやっているけど、マサ君もそこの彼もくるいちゃんを大事に思っているの」

 そこの彼ってもしかして僕の名前覚えられてない?

「く、苦しい」

「DRE研究会に入ってくれる?」

「……わかった」

「ありがとう」

 篝さんは抱きしめたままでいた。

「もう離れてもいいんじゃないか?」

 さすがにしびれを切らしたのか遠藤さんが言う。

「離れたくても離れられないのよ。篝さんは理性を失いかけている」

 警告音のようなアラームが鳴る。

「な、なんだ!?」

「遠藤君! 篝さんを後ろから抱きしめてあげなさい!」

「こんな時に何言ってんだよ」

「いいから! ちゃんと意味はあるから!」

「わ、わかったよ」

 遠藤さんは言われた通りにする。

「須賀君は、私の制服の左ポケットに入っている薬を取り出しなさい!」

 どうやら腕ごと抱きつかれていて上手く動かせない状況なようだ。

「わ、わかりました」

 篝さん、京本先輩ともに苦しそうな声を上げる。

 美少女二人が抱きついているところに近づくのは、かなりの気恥ずかしさがあったが、苦しそうな二人を見ていたら行動しないわけにも行かない。

「と、取れました」

「それを篝さんに飲ませなさい!」

「で、でもどうやって!」

 薬は錠剤だ。飲ませるには水が必要だろう。

「……大丈夫よ。ぐっ。口に入れれば……溶けるから」

 ミシミシと聞こえてきそうな程、篝さんは力を入れている。骨が折れてしまうのではないかと思うほど強く抱きつかれていた。これなら苦しいのも当たり前だ。

 とにかく薬を飲ませよう。投げ入れるわけにはいかないから口を開けた瞬間に薬を突っ込むしかない。

「美穂に傷つけんなよ!」

 遠藤さんに釘を刺される。

「気をつけます!」

 手を篝さんの口の中に入れる。指先が篝さんの口に触れてしまったが、とりあえず薬を口の中に入れることはできた。

「よし、これでしばらくすれば……」

 篝さんの苦しそうな声は次第に和らぎ、気絶した。

「ふぅ、危なかった」

 遠藤さんは、美穂さんを背負う。

「一体、何が起きたんだよ」

「感染が進行したのよ。あの感じからして、stage5になりかけているわね」

「どうしてそんなことに……?」

「感染者同士が近くにいると感染が進行しやすくなるのよ」

「お前は平気そうだな」

「私は特殊なのよ」

「……それと、さっきの薬は大丈夫なのか?」

「感染を少しだけど抑える薬よ。副作用で睡眠薬以上の催眠効果を発揮してしまうけど」

「そうか。それなら大丈夫なんだな?」

「大丈夫……とは言い難いけど、とりあえずはね。 保健室に連れて行ってあげて」

「そうだな。悪い」

「こちらこそ」

 遠藤さんは教室を出て行った。

「え、えっと……」

 この状況で、何と声をかけたらいいか迷っていた。

「わかったでしょう? 感染者同士は近くにいちゃいけないのよ」

「でも、篝さんとは友達なんですよね」

「友達だからこそよ。私が彼女の近くにいてもいいことなんてない」

「……辛くはないんですか?」

「よくあることだから、慣れたわ」

 なんだか先輩の言葉は悲しくて、女々しく泣いてしまいそうだ。

「何も気にすることなんてないのよ。私がそう決めてそうしているのだから」

 京本先輩は、教室を出て行った。

 僕は京本先輩に何も言ってあげることはできなかった。そんな自分の情けなさに憤った。

感想ください。お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ