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初日

初日


この世界は【机】と呼ばれていた。


誰から?

強いて言うなら世界の住人からだ。

この世界で生まれた住人は一人もいない。一人もだ。

美流姫偉みるきぃさまにご報告です」

「なんじゃ」

「包囲完成とのことです」

司令部で歓声が沸く。ここでの包囲の意味は大きく、大勝利を確約するからだ。

「皆者、鳴くな」美流姫偉閣下が鋭く言う。

「まだ、彼奴等は机のへりより落ちていぬぞ。作戦参謀、報告せよ」

「は。現状報告ですが」

「違うわ。鈍いぞ、貴様」

美流姫偉閣下とは昨日会ったばかりなので、どうも性格がつかめていない。ただ、わかるのは、僕は【机】では作戦参謀からはじまったということだけだ。昨日も一仕事したのだが、今日が【机】での初日になる。周りも俺に対する評価を悩んでいるんだろう。俺も俺をどう評価すべきか分からないんだがね。

「では、作戦分析ですが、資料不足とは言え、我が軍、未だ勝利せず。敵の作戦行動いかんでは、危機は我が軍の可能性もありかと」

「ばかな。こたびの作戦参謀はこんなレベルか」

ひげ面の大男が叫んだ。誰だったかな。将軍の一人ではあるんだが。

良崇多らすた黙れ。報告後に言え。で、どういうわけでだ。場合によっては、余も許さぬと思え」

ああ、良崇多だった。人の名前は覚えにくい。というか俺の名前は何だったかな。

「我が軍が今回の包囲にかけた時間は三日のはずです。戦車なども全力で機動しました。その間、敵は損害を巧みに回避しつつ後退し、昨日、補給を受けた後の本日、包囲を受けたわけです。【机】のへりの戦闘は危険であるにもかかわらず、撤退をへりに向かってしたわけです。おそらくは罠かと」

「しかし、あと一押しで奴らを【机】から落とせるのじゃ」

口からつばを飛ばすなよ、おっさん。良崇多はつばと覚えておこう。

「へりの近くで戦っているのは我らも同じですよ。消耗した戦車での一押しは難し…」

そのときだった。連絡将校が再び入ってきた。

「敵の反撃が開始されました」

ほらね、わかっていることだ。僕は自信を持って言った。

「包囲、3分の1のあたりだろ。おそらくは右側の。そこで逆包囲をかけてきた。しかも、戦車と戦闘車両を中心にした機動部隊だ。逆包囲を防ごうとした我が軍は横から砲兵の射撃で前進がなかなかできない上に標的になっている、こんなところかな」

「は、その通りで」

参謀の仕事ってなんだろう。この場合は負け戦を最小限にすればいいわけか。指揮権はどうなる? 良崇多とやらは確か。

「良崇多、貴下の第4打撃師団にて打開せよ」

さすが美流姫偉閣下だ。「さま」と言われるだけある。トップが正解を出すときの参謀の仕事は楽だ。ちょっと修正すればいい。良崇多が一押ししようとしたら、面倒だ。逆包囲の回避だけでいいのだ。痛み分けをすればいいのだ。

「打撃師団の反撃の前に昨日急造した司令部直属の増強威力偵察大隊を向かわせましょう」

こうなることはわかっていたとは断言しなかったが、まあ、こうなると思っていたし、こうなると嫌なので、対策を昨日の範囲でしていたわけだ。

威力偵察なんざ包囲戦ではありえない。敵の戦力なんざわかりきっているわけで。ならば、消耗した部隊から戦力を抽出したものも追加して、司令部の戦力を増やしたわけだ。

「美流姫偉閣下、できましたら、私めに指揮を」

あれ、前線の指揮って俺の仕事になるかな。俺、何を言ってんだろ。

「許す。威力偵察の観察は参謀の務め。軍制にも問題ない」


俺は壊滅的損害を最小限にした英雄として初日を終えた。


で、だ。


 俺の名前は何だ?


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