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3/7の逆襲  作者: 悠介
第1部 占拠
9/11

#8 1/15

「……クソッタレ!!」

 トランシーバーを耳に当てていた谷口昌三たにぐちしょうぞうは、雑音ノイズしか聞こえなくなったその機械を、床に叩きつけた。トランシーバーはバラバラになり、辛うじて聞こえていた雑音も、聞こえなくなった。

 ここは、21階の応接室だった。床には高級絨毯じゅうたんが敷かれ、何やら妙な骨董品が、壁の棚にたくさん置かれている。中央にはソファが2つあり、その間には小型のテーブルが居座っていた。

 昌三の愚行に、ソファにどっかりと腰を下ろしていた井上公太いのうえこうたは、顔をしかめた。

「……見苦しいぞ、昌三。やめておけ」

「ケッ、何が見苦しいだ!」

 昌三は、吐き捨てるようにそう叫んだ。

「仲間が4人、死んでるんだぞ!! おまけに、2人が戦闘不能! アンタは、何とも思わねえのかよ!!」

「もう一度だけ言うぞ、昌三……やめておけ。これ以上俺を苛立たせるな」

 それは、磨いたナイフのように、鋭い言葉だった。それを聞いた瞬間、昌三の全身の毛は、逆立った。井上の周りの空気が歪み、それはすぐに元に戻った。

 ……なんだ、今の。

 まるで、井上の言葉自体が覇気を持って、周りにシールドを張ったような……。何故だ? 何故……昌三は、その後に続く言葉が見つからなかった。

「……分かったよ。黙っておけばいいんだろ。……だがな。これだけは言っておくぜ。このビルの中には、必ず誰かいる。もうじき――アンタも殺られる」

 研ぎ澄ました井上の耳に、バタン、という、ドアを思い切り閉める音が聞こえた。井上は、片目をつぶると、ソファから立ち上がった。

「クソガキが…………」

 井上は、手の指を全て第一関節から曲げ、右手を左手の掌の上にかざした。

「破ッ――」

 井上が、両手を前に突き出した。その動きは、肉眼では捉えられない速度だった。

 井上は、構えを解き、ソファに掛けてあったジャケットをはおった。

「俺が――」

その瞬間、背後からドン、という鈍い音がした。

「負ける訳、ないだろう?」

 井上は、ニヤリと笑うと、部屋から出て行った。

 その部屋の壁には、大きな穴が開いていた。その穴を、たった今出て行った1人の男が素手で、しかも“空気を押した”だけで開けたものだとは、誰も知らなかった。


 三郎はその頃、22階階段を下っていた。下から8段目まで来た時点で、ビュンと床に飛び降りる。足にジン……とした衝撃が伝わる。足元には、「21」という文字。21階である。

 人質の居場所は、さっきテロリストが出てきたから分かった。パーティー会場の2つ隣の部屋である。三郎は現在、人質を救出に向かっていた。さっきの戦いで手に入れた機銃は、まだ首からかけている。

 そのとき。

「ちょっと待て」

 後ろから、声がした。若干震えている。谷口昌三だったが、三郎には、そんなこと、知る由もなかった。

「ここは、立ち入り禁止区域だぜ……なぁ、お邪魔虫さんよ」

 それを聞いた瞬間、三郎は全速力で21階階段を駆け下った。後ろからも、激しい足音。追ってくる!!

「待ちやがれ!!」

 うるせえ! 俺はもう、疲れてんだよ!! ……そう叫びたかったが、そんなことをしていたら、余計に体力を消耗するだけだ。

 20階に到着した。三郎は、曲がり角を曲がって、そこで待ち伏せた。

 ドタドタと足音が近づいてくる。――来た!!

「待ちやが……。――!!」

「動くな」

 三郎は、昌三のこめかみに機銃を突きつけた。昌三が、握り締めていた拳を開き、ゆっくりと脱力する。そして、両手を上げた。

「参った……」

「……よし、それでいい。そのまま動くな――」

 その瞬間、昌三は上げていた右手を握り締めると、いきなり三郎に向かってパンチを繰り出した。

 三郎は、慌てて引き金を引いた――

――カチッ。耳に響く、乾いた音。――弾切れ?

 その次の瞬間、昌三のパンチは、三郎の顔のすぐ横の壁にめり込んだ。壁が、メリメリと音を立てる。

 そして左手もパンチを繰り出し、それも左の壁にめり込んだ。三郎は腕に挟まれ、身動きが取れなくなる。

「残念だったなァ……ここでお前も終わりだッ!!!」

 昌三は、右拳を壁から引き抜くと、思い切り足を振りかぶった。――今度は、キックかっ!!!

 だが、三郎は、その一瞬の隙を見逃さなかった。拳がない右へ逃げる。次の瞬間、昌三のキックは壁にめり込んだ。その場所は、さっき三郎の足があった場所だった。――紙一重!! 三郎は、昌三に向かってニヤリと笑った。

「瞬発力はあるみてェだな……おい、お前、俺たちの仲間にならねえか?」

 ハァ?

 三郎は呆れた。何、調子に乗ってんだコイツ……。なるわけ――

「ねえだろッ!!!」

 そう叫びながら、三郎は、渾身の一撃を放った。三郎の膝が、昌三の頬にめり込む。昌三は、反対側の壁まで吹っ飛び、気絶した。

「……ふぅ……」

 三郎はため息をついた。

「全くよ~。何で俺がこんなことしなけりゃいけねえんだよぉ……」

 愚痴をダラダラこぼしながら、三郎は人質がいる部屋へ向かった。


 人質が開放されるまで――または、人質が殺戮される時刻、午前1時まで――あと、40分。

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