#7 2/17
「参ったな……」
尾田三郎は、思わず呟いていた。
20階中央廊下。パーティー会場前。
……人質たちを助けに来たものの、どの部屋にいるか全くわからん。
エレベーターにいたときに、大きな足音が聞こえたから――人質たちが移動したことは、わかっている。そんなに遠い距離は動いてないと思うのだが……。
右か? それとも左か?
考えに考え抜いた末、三郎は左に動くことにした。多分、左だ。……多分。
そして、1歩踏み出した――そのとき。
「おい、そこで何をしている」
後ろで、静かな声がした。同時に、後頭部に冷たい感触。
思考する前に体が動いていた。右手を瞬時に後頭部に回し、その冷たい感触の持ち主を握ると、それを相手から奪い取った。予想通り、機関銃であった。
回れーみぎッ!! 脳内でそう合図して、相手がギリギリ認識できないスピードで振り向いた。そして、廊下の左側の壁に片足をついて、壁を蹴って相手の背後に移動すると、バク転をし、盛大なカカト落としを相手の脳天にぶち込んだ。
「うがあああああああっ!!」
倒れこんで悶絶する相手の額に機関銃を突きつけて、三郎は言った。
「人質たちの部屋はどこだ? 答えろ」
そのとき――偶然にも程があるが――、人質たちの部屋から、2人のテロリストが飛び出した。
テロリストたちは瞬時に状況を判断した。そして、三郎を敵と見なし、機関銃を構えた。
「……ありゃりゃ」
三郎は、苦笑いを浮かべながらテロリストに向かって一礼すると、廊下を一目散に逃げ出した。
「待てコラァーーーーーーーーッ!!!」
「うわああああああああぁぁぁっ!!!」
逃げた三郎の前に、ちょうどよく階段があった。本当はエレベーターを使いたいが……今はそんなことを考えている場合ではない。階段を、2段飛ばしで豪快に上る。それを追って、テロリスト2人も追ってくる。
3階分上ったところで、息が苦しくなってきた。足に乳酸が溜まって、パンパンに筋肉が張っている。もう階段は無理だ! そう直感した三郎は、階段を右に曲がって廊下を走り出した。
突き当たりに、大きなドアがあった。何室かもわからずに、飛び込む。大きな楕円形のテーブルに、たくさんのイス。そして、正面にはホワイトボード。一角には、観葉植物。どうやら会議室のようだった。
三郎は、テーブルの下に潜った。ここしか隠れる場所はない。
数秒後、バン! という大きな音がした。三郎は思わずビクッとする。追っ手がやってきたのだ。
「おい……ドコ行きやがった?」
「消えたってワケじゃねぇだろ」
そう言い合いながら、物を投げ飛ばしたり、蹴り飛ばしたりして三郎の捜索を始める。三郎から見えているのは、彼らの足元だけである。急に、心臓の鼓動が早くなる。今までは意識してなかったが、見つかったら、確実に殺されるのだ。何でこんなことになったんだよ……。そもそも、谷町警部がパーティーの誘いをしてくるから――。
「おい、テーブルの下じゃねえか?」
ドキリ。心臓が高鳴る。見つかる、見つかる――!!
相手が覗き込んだ瞬間、三郎はスライディングで相手の顔を蹴飛ばしていた。
「ブごォっ!!!」
強烈なキックをアゴに食らって、彼の脳味噌は揺さぶられた。そして、そのまま泡を吐きながら、仰向けに倒れこんだ。
「こ、このヤローッ!!!」
残りの1人が激昂し吼える。そして、テーブルの向こう側にいた彼は、三郎の方へ向かって飛び込んだ。
「うおっ!!」
慌てて、再びテーブルの下に潜る。テロリストの手が当たって、三郎の髪が何本かパラパラと抜け落ちた。テロリストは勢いが治まらずに、壁に激突して、額から流血した。壁も、メリメリと音を立ててへこむ。
三郎はゾッとする。あんなのにモロに当たったら、首の骨が折れるぞ――!!
「うおおおおおおおおおおおッ!!!」
渇を入れて気合を入れたテロリストは、テーブルの上に飛び乗った。そして、テーブルの下に向けて機銃を連射し始めたのだ。
「く……っ!!!」
必死の思いで弾丸を避け続けるが、テーブルの端まで追い詰められてしまった。もう、逃げ場はない!!
「フハハハハ、お前ももう終わりだな!! お前がいけないんだぜ!! 俺たちの計画を邪魔するから――!! 残念だったな!! フハハハハハ」
――今だ!!!!!!!
三郎は目をカッと見開き、いきなりテーブルから飛び出した。
「ッ!!?」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
絶叫しながら、三郎は足を限界まで曲げて、まるでハゲタカが飛び立つように、部屋の天井ギリギリまでジャンプした。そして、高く飛躍しながら、相手の真上から、相手の脳天に向けて機関銃を連射した!!
「ガアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
相手は絶叫しながら、ガクガクと体を震わせた。そして、三郎が着地すると同時に、血を噴き出しながらテーブルの下に倒れこんだ。
「これで……5/20……ッ!」
三郎は息切れしながらそう呟くと、会議室を後にした。