#6 2=!!
「おかしいな……」
谷町五朗は、ポツリとそう呟いた。
そして、今一度辺りをキョロキョロと見回す。……やはり、いない。
――ここは、パーティー会場と2つ離れた大部屋。デスクやチェアなどは、テロリストたちが全て脇へ押しやっていた。中央に人質たちがいて、周りには数人のテロリストたちが見張りをしている。
人質たちの半数は、尾田三郎がエレベーターに隠れた直後、この部屋に移されていた。この部屋のほうが、デスクなどの物が多く、バリケードが張りやすいからだ。残りの半数は、この隣の部屋。その理由はわからないが、恐らく見張りがしやすいからだと谷町警部は勝手に予測をつけていた。
「……何がですか?」
「え?」
隣から、何者かが話しかけてきた。見ると、綺麗な女性が自分たちと同じように手足を縛られて、こちらのほうを向いていた。やけに恥ずかしくなって、谷町警部は無意識に俯いていた。
「何が、ですか?」
谷町警部が返事をしないので、女性はもう一度話しかけた。
「あ、ああ……ちょっと、なんでもないことなんですけど……」
「何ですか、教えてください!」
女性の声からは、小声ながらも、興味津々なのがヒシヒシと伝わってきた。その好奇心は、テロリストに拘束されていることからの現実逃避かもしれなかったし、何もすることがない中での、唯一の娯楽を見つけたからかもしれなかった。しょうがなくなって、谷町警部は教えることにした。
「僕……暇だったから、周りのテロリストの人数を数えていたんですけど……。最初は9人いたんです。でも、今は6人……。3人が、部屋を出て行ったきり、いつまで経っても戻ってこないんです。それだけですよ、大したことな――」
「大発見じゃないですか!」
女性の素っ頓狂な声に、思わず「へ?」と返してしまう。――そんなに、大騒ぎするようなことだろうか?
「これは、もしかして――誰かが、3人を倒したのかもしれませんよ! としたら、私たちに助かる見込みはあります! 『ダイ・ハード』ですよ、ダイ・ハード! ブルース・ウィルスですよ!」
その発言への第一感想は、「映画の見すぎだろ」ということだった。ダイ・ハード? そんなバカなことがあるか。それは、偶然に、このビルの中に警察か、アクション俳優か、ボディビルダーか、名探偵が居たってことだろ? ハッ、そんなバカな話あるわけ――。
いや、ある。
いるじゃん、名探偵。
尾田三郎が、いるじゃないか!?
こりゃあ、助かるかもしれないぞ――淡い望みに遥かなる期待を乗せた谷町警部の表情は、隣の女性のように、希望に満ちたものになっていた。
「あ、そういえば、あなたの名前は?」
「え……谷町、五朗ですけど」
「私は、桐島春香です。よろしくお願いします!」
そう言って、桐島は朗らかに笑った。極限状態に巻き込まれている顔とは思えないような――。
谷町警部は、頬が少し温かくなるのを感じていた。