#5 “3/7”
「見つかりました、陣内さん!!」
背後から、数名の警官が声をかけてきた。その手には、端をホッチキスの針でしっかり留められたリストが。
陣内が注文を出してから、まだ15分ほどしか経っていなかった。
「随分早かったな」
陣内が感心したようにそう言うと、警官たちは満面の笑みを浮かべた。
「我が警視庁の情報網を、甘く見ないでください。それでは、僕たちはこれで」
そう言って、警官たちはパトカーの方へ去った。陣内は、それをしみじみとした気分で見送っていた。
「いいな、若いって」
「え? 陣内さん、何か言いました?」
「いや、何でもない。それより、こっちだこっち!! 大急ぎで読め!! 30秒で読め!!」
陣内が、そう言ってバンバンとリストを叩くと、神田と朝田の顔から、サァーッと血の気が引いた。
「む、無理ですよ、無理!! 絶対無理!!」
確かに、リストは合計で200ページ以上あった。これを30秒で読める奴なんか、神田と朝田は人間として認めない自信があった。つまり陣内は、部下に怪物になれと命じているのだった。もはやメチャクチャである。
「うるせぇ! この世に無理など存在しない! さっさと読め!!」
自分でもよく分からん理論を無理やり自分の口からひねり出すと、やっと神田と朝田はリストを開いた。ブツブツ言いながらだが。
パラパラとページをめくっていく。だが、100ページを過ぎても、目星はつかなかった。だが、面倒くさそうにページをめくっていた朝田の手が、ピタリと止まった。目がカッと見開かれる。
「こ、これは、何のリストなんだ?」
先ほど駆けていった警官たちに、朝田は再び声をかけた。
「あ、それですか? ……実はですね。10年前にも、今起こっているテロ事件と似たような事件があったんですよ」
「な、何!?」
それを早く言えよ、と叫ぼうとしたが、慌てて思い留まる。こんなところで、叫んでいる暇はない。こいつの話を聞くのが先手だ。
「ちょうど10年前の今日、大桐建設大神町支店に、10数名のテロリストが侵入し、何名かが重軽傷を負った事件です。幸い、死亡した人はいなかったみたいですが――偶然とは思えませんね。そのテロリストは、通称“3/7”と呼ばれているそうです」
「ナナブンノサン?」
「はい。3/7の確率で逮捕できるということで――で、そのリストは、その日非番だった警官のリストですよ」
「え?」
いきなり、話が別の方向にすっ飛んでいってしまったので、朝田はびっくりして、きょとんとした顔になってしまった。だが、よくよく思い出せば、それは自分が最初に質問したことの答えだということに気づいた。
「非番……警官……テロリスト……」
朝田は、アゴの下に手をやって考えた。……偶然とは思えない。もし、俺の考えていることがビンゴだったとしたら――これは、大変なことだぞ。
朝田は、いったんその“ヤバい”考えを頭から締め出すことにした。不用意に口にして、あまり場を乱すべきではない。
だが、もしそうだとしたら――
朝田の頭の中の不安は、立ち込める暗雲のように、ただただ広がっていくだけだった。