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3/7の逆襲  作者: 悠介
第1部 占拠
5/11

#4 2/19

 その頃、尾田三郎は、ビル1階エレベーターホールにいた。

 大理石でできた床のタイルと壁が、夜の暗闇に浮かぶ月光で、怪しげに光っている。エレベーターホールには、当然のことながら、一人の人影も見えなかった。

 歩くと、ツカツカという鋭い音がした。……敵に足音でバレてはマズい。三郎は履いていた靴と靴下を脱ぐと、エレベーターの元へ放り投げた。


 テロリストの1人である郷田武ごうだたけし佐賀丈一郎さがじょういちろうは、20階エレベーター前にて、いわゆるエレベーターの“箱”が来るのを待っていた。

2人とも、他のテロリストと同じく、全身を完全武装しており、機関銃を首に下げ、それを手で持っている。いざというとき、素早く手に持ち替えるためだ。

「これで10億が手に入ったら……俺ら億万長者だぜ」

 郷田がそう言うと、佐賀が、冷静な口調でそれに応じる。

「だが……、しばらくは、身を潜めなければならないぞ。パーッと使って終わりでは、俺たちのやったことが無駄になる。それこそ、警察に突き止められて絞首刑だ」

「ヘッ……俺の人生1番の大仕事だぜ」

 郷田がそう言ったとき、エレベーターから「チーン」という軽快な音が鳴り、箱が上がってきた。それが、先ほどまで三郎が大格闘を繰り広げていた場だとは、2人は知らない。

 エレベーターのドアが開き、2人は箱に乗り込む。そして、1階ボタンを押した。

 なぜ2人が1階に向かうかというと、ボスにそう命令されたからだ。要するに、見回りである。2人は、テロリストの中では、下っ端であった。

 箱は、すぐ1階に到着した。ドアが開き、2人は外に出た。

「? おい……なんだこれ」

「なんだ?」

 郷田の足元には、誰かの靴下と靴が落ちていた。エレベーターのすぐ側である。……一体、どういったことだ?

 2人はすぐ、答えに突き当たった。

すなわち――1階に、我々以外の誰かが、いる。

 2人の顔は、引き締まった。いつ、どこから攻撃してくるかわからない。

「お前は、そっち頼む」

「ああ」

 郷田と佐賀は、小声でお互いに合図し合うと、エレベーターホールで2手に別れた。郷田は右の通路、佐賀は左の通路である。

 郷田は、息を潜めて、辺りを見回しながら、通路を進んでいく。やがてドアに突き当たった。郷田は、息を呑んだ。

 ……この中か……?

 郷田は、ドアの横に隠れると、ドアノブに手をかけた。息を止め、ゆっくりと回していく。やがて、カチャッ、という音がして、これ以上回らなくなった。

 郷田は、深呼吸をすると、一気にドアを引いた!

 ……誰もいない。

 郷田は、ゆっくり息を吐いた。ハァア……何だよ、脅かせやがって……。誰もいねえのかよ……ビクビクして損し――

「ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 郷田は、驚きのあまり卒倒しそうになった。通路の向こうから、悲鳴――いや、絶叫と言ったほうが近いだろう――が聞こえたのだ。それは誰の声か?

「佐賀ッ!!!」

 郷田は、さっき通ってきた通路を全力疾走して、エレベーターホールに戻ってきた。そのままスピードを落とさずに左の通路に入ると、突き当たりのドアを思い切り開いた。

「さ、が……」

 郷田は、絶句した。部屋の中には、首が変な方向に曲がった、佐賀の死体があったのだ。死体からは、首にかけていた機関銃がなくなっていた。

 ――誰が、佐賀を殺し、機関銃を取り去ったのか。答えは明白だ。つまり、1階に潜んでいた誰か――。

「動くな」

 背後から、鋭い声がした。そして、頭にゴッ、という軽い衝撃。その衝撃が、機関銃の銃口によるものだということは、頭の回転が鈍い郷田でも、容易に想像ができた。

 郷田の足がガクガクと震える。あまりの恐怖に、顔は歪み、涙で目は濡れ、小便を漏らしそうになる。……殺される……殺される!!

「わかった、わかったッ……!! 言う通りにするッ!! だから……だから、助けて、助けてくれ!!」

「落ち着け。そちらが抵抗しなければ、俺は何もしない。……お前らのボスの元に連れていくんだ」

「わっ、わっ、わかった……」

 背後の謎の潜入者は、郷田の後頭部に突きつけた銃を、ガッ、と強く押す。進め、という合図であろう。郷田は、震えながらエレベーターの元へ向かった。

「何階だ?」

「に……20階……」

 郷田の後ろからニュッと腕が伸び、エレベーターの20階ボタンを押した。長く、それでいてガッシリした腕である。どちらかというと色白だった。

 エレベーターの箱に、2人は乗り込んだ。すぐに、上昇し始める。その頃には、郷田の動揺も落ち着いていた。だが、代わりに現れたのは、逆転の作戦であった。

 ……バカめ。郷田は、心の中でほくそ笑んだ。お前は機関銃を持っているつもりかもしれないが、それはこっちも同じことなんだ。逆転しようと思えば、いつでもできるんだよ――!!

 ……よし、15階だ。エレベーターの表示が15階になったら、この俺の後ろの奴をぶちのめす。

 10階、11階、12階……壁の上の方に設置された電子表示は、どんどん進んでゆく。13階、14階……15階!!!

「うおおおおおおおおおおおっ!!!」

 郷田は、いきなりクルリと振り向き、機関銃を連射した。ガガガという轟音がして、エレベーターの箱の壁が穴だらけになる。だが、もう既に、そこには人はいなかった。

「ッ!?」

 いるはずの人間がいなくなったことに対する郷田の狼狽は、半端じゃないものだった。激しく動揺する郷田は、足元にその人間――尾田三郎がいることに気がつかなかった。

「うおぉっ!!?」

 郷田は三郎に足をかけられ、狭い箱の中で激しく前のめりに転倒した。前頭葉を、先ほど自分が穴ぼこにした壁に激しく打ちつけ、目の前がクラクラした。ちょうどそのとき、エレベーターが20階に到着した。ドアが開く。

「ガアアッ!!!」

 三郎のうなり声とともに、郷田は足元が誰かに掴まれるのを感じた。そして、それとほとんど同じ瞬間に、自分の視界がグルリと反転した。天地が逆さまになったのである。

 そして三郎は、郷田の足首を持ったまま体を持ち上げ、エレベーターの向こうの廊下の壁に、思い切り郷田の前頭葉を打ちつけた。

「うガあアああァああああっ!!!」

 先ほど痛めた傷にまたダメージを負ったことにより、郷田は完全にグロッキー状態になっていた。

そしてさらに、三郎に、廊下の5メートル先に投げ飛ばされたことにより、完全に気を失ったのだった。

「ケンカは武器だと思うなよ」

 三郎は、倒れている郷田を見つめながら、ニヤリと笑ってそう言った。

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