表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7の逆襲  作者: 悠介
第1部 占拠
2/11

#1 20:1

「……これからも我々、大桐建設一同は、創立当時に掲げた経営理念に基づきながら、発展、そして邁進していこうという所存でございます。これからも大桐建設を、末長くよろしくお願いします!」

 大桐建設社長、大桐光だいどうみつるのスピーチが終わると、途端に大拍手が巻き起こった。スタンディング・オベーションし始める者も現れ、次第にそれは、「大桐社長! 大桐社長!」という、大合唱に変わっていった。

 2014年5月31日――午後8時。

ここ、大桐建設本社ビル20階パーティー会場では、創立50周年記念パーティーが行われていた。

 大桐建設は、50周年の歴史を誇る、世界的にも有名な建設会社だった。各地に支店を持ち、その収入は、総合で年間5兆とも言われていた。

 関係者同士の交流が始まった。みな、楽しそうに談笑しながら、酒を酌み交わし、取引を進めている。そんな中で、高級スーツを着こなし、サングラスを掛けたある男は、壁にもたれかかって、パーティーの様子をサングラス越しに窺っていた。

 しばらくすると男は、見えないように腰に巻いたベルトから、トランシーバーのような物を取り出した。そして、こっそりと口に当てると、静かに口を開いた。

「準備OKです。いつでも突入できます」

 返事は、すぐに返ってきた。冷静だが凄みのある声で、まるで政治家を思わせるような、威厳のある声だった。

『こちらもOKだ。それでは、作戦を開始する』

 そう聞こえたきり、トランシーバーからは、何も聞こえなくなった。男は、壁にもたれたまま、パーティーの様子を見て、薄笑いを浮かべた。

 ……バカどもめ。すぐに、俺たちの力を見せつけてやる。


「……と、そこで彼は言った! 『そんなことをしても、天国の奥さんは、喜ばれませんよ』ってね。くぅ~っ、痺れる~ッ!!」

「え゛。僕、そんなこと言いましたっけ……?」

「言ったじゃないですか~、嫌だなあ、尾田さん、自分が言った名ゼリフくらい、覚えといて下さいよ~」

 その頃、尾田三郎おださぶろう谷町五朗たにまちごろうは、中央辺りのテーブルで、関係者たちと談笑していた。

 尾田三郎は、この町で探偵事務所を営んでいる、私立探偵だった。31歳、独身。実は、この町きっての名探偵なのだが、谷町五朗以外、そのことを知らなかった。なぜなら、三郎の解決した事件が、全て谷町五朗の手柄になっているからだった。

 谷町五朗は、この町の警察の名警部として有名な、中年男だった。鼻の下にはチョビひげを生やし、いつも洒落た帽子を被っていた。なぜ、こんな一見冴えない風貌の男が、名警部として有名かというと、実は、尾田三郎の1番最初に解決した事件が、マスコミに勘違いされ、谷町警部の手柄として放送されてしまったからだった。それ以来、谷町警部は、事件に困ると、すぐに三郎の事務所を訪ねてくるようになった。三郎にとっては、良き事件提供者で、よきパートナー――相棒という存在であった。

「では、私たちはこれで」

「それでは、おやすみなさい」

 そう言うと、三郎と谷町警部は、その場を離れた。時計を見ると、もう午後11時半を回っていた。普段なら、とっくに就寝している時間である。

「ふあ~ぁ……それでは、私は帰って寝ることにします。尾田さんは?」

「僕もそうしましょう。大事な仕事が残ってるんでね……」

 そう言って、パーティー会場の重い扉を開け、三郎と谷町警部は廊下に出た。そして、また歩き始めようとしたそのとき、谷町警部が急に立ち止まった。

「……あ!」

「どうしました? 何か、“刑事のカン”ってヤツですか?」

「いえ、そんなもんじゃありません。ただ、ちょっとトイレ……」

「あ~、そうですか。でも、この近くだったら、会場の中にしか、トイレありませんよ」

 と言って、三郎は今さっき自分たちが出てきた扉を示した。谷町警部は、すぐさま扉を開け、中に駆け込んでいった。

「すぐ戻ります!」

「全く、しょうがない人だな……」

 三郎は壁にもたれかかって、谷町警部を待つことにした。

――すると、そのとき。

 突然の銃撃音に、三郎の混沌とした意識は完全に覚醒した。次いで、鋭い悲鳴。すぐに、それが、会場の中から聞こえてきたものだと分かった。

 三郎は直後に、重い扉を引いた。中では――

 中の光景に、三郎は絶句した。機関銃を持った武装集団に、パーティーに来ていた関係者が、全員拘束されていた。その中に、谷町警部はいなかった。

 三郎は、素早く扉を押して、元に戻した。心臓が、バクバクと高鳴る。――テロリストか!? ふとそんな言葉が胸をよぎった。そうだ。そうとしか考えられない。

 ――パーティー会場を、テロリストが占拠……? 一体、何が目的だ? 金か? それとも、テロリストがよく使う言葉――「平和」か? 「革命」か……?

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。早く行動しなければ、人質は殺されてしまうかもしれない。金が目的の場合、約束が思い通りにいかなかった場合、腹いせで殺す可能性が高い。平和や革命主義の場合は、もっと危険だ。そいつらには、人を殺しているという実感が全くない。それか、人を殺すことこそが革命だと信じているのだ。

 幸い、三郎は、テロリストたちに見つかってはいなかった。三郎は素早く、近くにあったエレベーターに身を潜めると、すぐさま携帯電話を取り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ