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本当にこれでいいのか?
テロリストの1人である宮城将太は、20階廊下にいた。ボスに、見回りを任されたのである。
だが、宮城は、“迷い”を感じていた。
――俺には家族がある。
清楚だが少しやんちゃなところがある妻、
いつも仕事の邪魔をする可愛い子供。
今年の10月には、2人目が生まれる。
結婚して、子供が生まれた頃は、何もかもが幸せで、楽しかった。
このときが、永遠に続いてくれればな、とも思った。
――だが、世の中はそんなに甘くなかった。
子供が生まれて2ヵ月後に、勤めていた会社が倒産した。何も能のない自分を、喜んで雇ってくれた、最初の会社だった。
再就職しようとしても、高卒の宮城では、なかなか雇ってくれるところはなかった。公務員になろうとも思ったが、そこまで猛勉強する気にはなれなかった。
現在何とか就いている職は、24時間営業のスーパーの警備員。月給8万。夜勤なので生活リズムが乱れ、家族との時間も無くなる。何より、8万円で1ヶ月しのぐのは、辛かった。
そんなとき、声をかけられた。
「一緒に、世の中を変えないか?」
宮城は、その話に飛びついた。大桐建設本社ビルテロ。分け前は5000万円。何よりこんな世の中を変えたいと思っていた宮城にとっては、神様がくれた貴重なチャンスだった。これを逃したら、もう次は無いように思えた。
だが、本当に良いことなのか?
いくら世の中を変えるといっても、人質をとり、邪魔する者は殺し、大金を要求する。
これで、悲しむ人が、どれほどいるんだ?
そう考えると、自分のやっていることが、果てしなく虚しく思えた。
20階人質部屋に到着する。
「おう、宮城。早かったな」
田中が声をかけてくるが、それもどうでもよかった。
視線を逸らすと、テーブルの上の花瓶が目についた。花が生けてある。白い花びらの、綺麗な花だ。地味ながらも、清楚な感じがする。だが、どこかやんちゃな感じもした。
まるで、俺の家族のようだ。
そう思って、宮城はその花を、自分のシャツの内ポケットに、優しく入れた。
「何だ? お前、花が好きなのか?」
「いや……そうじゃないが……」
宮城は、内ポケットの花を、優しい眼差しで見つめていた。




